「いじめ対策専任教諭」とは? 不登校解消、早期対応に効果。クラス担任が学級に専念できるメリットも

いじめ対応の中核的な役割を担う“専任教諭”を配置し、教職員がチームとなって未然防止や早期発見に取り組んでいる学校が増えている。公立小学校で「いじめ対策専任教諭」を務める中尾先生(仮名)に、具体的な取り組みについて聞いた。

増加傾向にある「いじめ」の認知件数。自死や不登校につながる可能性も

文部科学省の調査によると、2022年度のいじめ認知件数は68万1948件にのぼり過去最多となった。児童生徒1000人当たりの認知件数は53.3件となる。新型コロナウイルスの流行が始まった2020年度は全国一斉休校により教育活動が制限され、いじめの認知件数が減少したが、再び増加しているのだ(*)。
いじめ
過去最多となったいじめの認知件数
その理由としては、教育活動の再開により児童生徒が接触する機会が増えたことはもちろん、いじめの認知に関する理解が深まったことも影響しているだろう。

いじめを認知することだけではなく、学校ではその後の適切な対応が求められる。同調査によると、年度末時点では約80%のいじめが解消しているという。

いじめは児童生徒の自死や不登校につながる可能性があり、決して軽視できる事案ではない。全国の学校では、どのような取り組みがなされているのだろうか。公立小学校に勤める中尾先生(仮名)に、いじめ対策について話を聞いた。

いじめ対応の中核的な役割を担う「いじめ対策専任教諭」とは

中尾先生は授業や学級担任を受け持たず、「いじめ対策専任教諭」と「不登校支援コーディネーター」を兼務している。一体どのような役割を担っているのだろうか。

「先生や保護者、児童からいじめに該当する案件があがってきたら、児童に聞き取りをしたり、職員会議を開いたりします。それと同時に、校内の見回りをして、気になる場面があったら『何があったの?』と声をかけることもあります。学校生活にうまく適応できない児童のなかには、いじめが原因になっている場合もあるので、いじめ対策と不登校支援の垣根はあまりないと思います」

いじめ対策専任教諭は自治体の判断で配置されており、全国でも同様の役割を担う教員は増えているという。特徴的なのは、いじめ対策に専念できるように、その他の業務が調整されていることだろう。

「いじめ対策専任教諭は、担当する授業時数を週あたり10時間程度にされています。私の場合、緊急対応へ影響があったため、今年度は昨年度よりコマ数を減らしてもらい、対応しやすくしてもらいました」

いじめ発生時、教職員がチームとなり迅速に対応

いじめ発覚したら
いじめが発覚したら『いじめ防止対策委員会』を立ち上げる
実際にいじめが起こった場合、具体的にどのようなことをするのだろうか。中尾先生は、教育委員会が作成している「いじめ対策の手引き」を参考に対応をしている。

「児童や先生がいじめを発見した場合は、『緊急カード』が私のところに届く仕組みになっています。それを受け取ったら、まずは訴えの内容を聞き取ります。その後、管理職に伝え、必要な場合には『いじめ防止対策委員会』を立ち上げて、その場で会議をします。固い名前ですが、資料を作って行うような会議ではなく、とにかくスピード重視で、関係する教職員が集まり立ったまま行うこともあります。そこで、その後の方針を決めていきます」

いじめ防止対策委員会では、「だれがどの児童の聞き取りをするのか」「保護者にどのように説明するのか」「該当児童をどのように支援していくのか」などを話し合う。対応を終えたあとは時系列で報告書をまとめ、教育委員会に提出するのだ。

ここまでの流れは、すべていじめ対策専任教諭が中心となって担うこととなる。いじめが起こったときに、速やかな対応や保護者への連絡が徹底して行われていることがうかがえる。

担任の負担を減らし、児童が安心して過ごせる学校を目指す

いじめ対策専任教諭がいない場合、いじめが起こったときの対応は、担任や学年主任、管理職が中心となって行うことになる。日常的な業務に加えて、緊急性の高いイレギュラーな対応をすることへの負担は大きいだろう。このような状況と比較しても、いじめ対策専任教諭がいることのメリットは大きいのではないだろうか。

「いじめが起こったり不登校の児童がいたりすると、ときには学級の児童を教室で待たせた状態で対応せざるを得ないこともあります。担任の体ひとつでは対応しきれません。なので、緊急時は私に任せてもらい、できる限り学級のことに専念してもらえるといいなと思っています」

中尾先生が勤める学校では、認知されたいじめが継続することはほとんどなく、不登校の児童数も全国に比べると少ないという。とはいえ、いじめや不登校を減らすことが目的ではない。

「根本にある目的は、すべての児童が安心して過ごせるような学校をつくっていくことです。そこへのアプローチ方法のひとつが、いじめ対策専任教諭の配置だと思っています」

全国で広がりつつある、いじめ対策専任教諭による取り組み。それによって、すべての児童が過ごしやすい学校づくりにつながっていくことを期待したい。
 
この記事の執筆者:建石 尚子
大学卒業後、5年間中高一貫校の教員を務める。フィンランドにて3カ月間のインターンを経験したのち、株式会社LITALICOに入社。発達に遅れや偏りのある子どもやご家族の支援に携わる。2021年1月に独立。インタビューライターとして、教育や福祉業界を中心にWEBメディアや雑誌の記事作成を担当。
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