そんな「ひな祭りの食べ物」について、「All About」暮らしの歳時記ガイドの三浦康子が解説します。
(今回の質問)
ひな祭りにちらしずしを食べるのはなぜ? ケーキでもいいですか?
(回答)
ちらしずしにはひし餅のようにひな祭り独自の由来はありませんが、華やかで祝いの場にふさわしいことから、ひな祭りに好んで食べるようになりました。行事の食事は、伝統的な行事食だけでは成り立たないので、ケーキを食べてもいいのです。
どういうことなのか、以下で詳しく解説します。
ひな祭りにちらしずしを食べる理由
今ではちらしずしがひな祭りの定番になっていますが、もともとちらしずしにはひな祭り独自の由来があるわけではありません。寿を司るという意味で、すしに「寿司」の字を当てているように、すしは祭事によく用いられてきました。なかでも、ちらしずしは見た目が華やかなうえ、えび(長生き)、れんこん(見通しがきく)、豆(健康でまめに働ける)などの縁起のいい山海の幸を使っています。また、一度にたくさん作ることができ、みんなで食べられることから、ひな祭りを祝う食べものとして好まれ、定着していったと考えられています。
ひし餅やひなあられを食べる理由は? ケーキでもいいの?
ひな祭りの代表的な食べ物には、ひし餅、ひなあられ、はまぐりの潮汁、白酒などがあります。ひし餅は、子どもの健やかな成長を願い、よもぎを入れた緑の餅(厄除け)、ひしの実を入れた白い餅(子孫繁栄)、くちなしを入れた桃色の餅(魔除け)を重ねてあります。また、緑・白・桃色の3色で“雪の下には新芽が芽吹き、桃の花が咲いている”という春の情景も表しています。
ひなあられは、野外でひな遊びを楽しむときに持って行くための携帯食料だったと考えられており、ひし餅を砕いて作ったという説があります。東西で形状が違い、関西では餅を砕いて揚げたあられ状、関東では米粒をあぶったものが原形です。
はまぐりの潮汁は、はまぐりを「蛤」と書くように対の貝殻しか絶対に合わないことから、何事にも相性の良い相手と結ばれ、仲むつまじく過ごせるようにと願っています。もともとひな祭りは水辺で穢れをはらうことに由来しているので、海の幸を用いるのです。
白酒は江戸時代から定着しました。もともとは、桃が百歳を表す「百歳(ももとせ)」に通じることから、桃の花を酒にひたした「桃花酒(とうかしゅ)」を飲んでいましたが、江戸時代に白酒が評判となり、ひな祭りに白酒を飲むようになりました。ただし、白酒はアルコール度数10%前後のお酒なので、子どもにはノンアルコールの甘酒などがおすすめです。
ひな祭りのような行事では、お祝いの食事をすることも大事です。伝統的な行事食だけでは食事のメニューになりません。ひな祭りは子どもが主役ですから、ケーキなど子どもの好きなものを加えつつ、楽しくお祝いしてください。
この記事の筆者:三浦 康子
和文化研究家、ライフコーディネーター。わかりやすい解説と洒落た提案が支持され、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ウェブ、講演、商品企画などで活躍中。様々な文化プロジェクトに携わり、子育て世代に「行事育」を提唱している。著書、監修書多数。