いまでは気鋭の教育ジャーナリストとして知られる、おおたとしまさ氏が、プライベートでは新米パパであり、仕事では駆け出しのフリーライターだった約15年前にAll Aboutで綴っていた子育てエッセイ連載「パパはチビのヒーローだ!」が、このたび『人生で大切なことは、ほぼほぼ子どもが教えてくれた。』(集英社文庫)という文庫になった。
刊行を記念して、文庫に収録されている約60本のエッセイのうち11本を厳選して連載する。All Aboutのかつての人気連載が15年ぶりの復活だ。
教育ジャーナリストが自戒の念を込めておくる現役パパへのメッセージ
【第4回】子育てはスポーツだ!
パパに必要なものってなんでしょう? やさしさ、厳しさ、ユーモア、経済力……? どれも大切ですが、「体力」ってのも外せません。都市化や核家族化が進む以前なら、子どもは虫を捕まえるだの、川で泳ぐだの、お友達と取っ組み合いをするだのと、朝から晩まで勝手に外で遊び回っていたのでしょう。有り余る体力をぜーんぶ自然やお友達との関わりの中で発散していたに違いありません。
しかし、いまの子どもたちは路地で遊べば危ないと注意され、公園でも「ボール遊び禁止」「騒がないでください」などのへんてこな看板ににらまれて、思うように遊べません。しかも、不審者がいるといけないということで、常に親の監視下にいるわけですから、大人にはナイショのイケナイ遊びとか、キケンな遊びとかもできません。それに第一、いっしょに遊ぶ仲間も時間も限られていますから、常に欲求不満でしょう。
運動神経の発達を研究する偉い先生にお話を聞いたことがあります。運動神経を良くするのにいちばんいいのは、幼稚園くらいまでに気がすむまでじゃれ合い、取っ組み合いを経験することという説です。そうすると、脳と筋肉を結ぶ神経が密につながって、運動神経が良くなると。
しかも、運動神経だけじゃなくて、相手の感情を読みとる力や頭の良悪しにもかかわるというから大問題です。「うちの子はいい子に育てるの。喧嘩はダメよ」なんて取っ組み合いを止めてしまうから、人間力が育たないのだということです。「それじゃ、暴れん坊になっちゃうんじゃないの?」って点もご心配なく。「発達上、必要がなくなれば、取っ組み合いも勝手にやめる」のだそうです。
ところが、外で取っ組み合いなんてしようもんなら、親子ともども怒られるのがこのご時世。となると、パパがサンドバッグになるしかありません。
『おとうさんはウルトラマン』(学研プラス)という楽しい絵本がありますが、当たってます。子ども相手に怪獣遊びをしたって、たしかに3分間がやっとです……(汗)。
たとえば、私が新米パパ時代、こんなことがありました……。以下、約15年前の連載に掲載されていたエピソードです。
怪獣ごっこ(チビ6歳・ヒメ3歳、15年前当時)
夕飯前、ママは台所で大忙し。
チビやヒメはその間、夕方の子ども番組を見ていることが多い。
決しておとなしくはしていない。
テレビの前の場所とりだの、おもちゃの取り合いだの、どうでもいいことで喧嘩を始める。
これも兄妹のコミュニケーション、なんだろうけど。
ただでさえ時間に追われて、夕食の支度をしているママにとっては、最悪のBGMだ。
「喧嘩はやめなさ〜い!(怒)」と言いつつ、ママも喧嘩に加わって、三つ巴の状態になる。
ママ本人はその客観的事実に気づいていないけど(笑)。
だから、僕はできるだけ、夕食前のひとときをチビとヒメと遊ぶ時間に充てようと思ってる。
そうすることで、いいムードで夕飯を迎えることができる。
最近のチビたちの流行りは怪獣ごっこだ。
僕が怪獣になって、チビとヒメのウルトラマン連合と戦う。
体当たり攻撃や投げ技を受け、スペシウム光線にいちいち倒れなければならない。
ハードだ。
ただでさえ腰が悪いのに。
怪獣ごっこが面倒なときは普通のお相撲に切り替える。
最初は僕がわざと負けてあげる。
でも、わざと倒れて起き上がると、それはそれで体力を消耗する。
いちいち倒れるのがおっくうになってくると、僕はだんだん本気を出してチビを投げ飛ばす。
それでもチビは真っ赤な顔をして「もう一回!」と、何度でも取り組みを挑む。
「もういいだろう」と思っても、「まだまだ〜」ってアドレナリンが大放出し始めちゃう。
子どもが体当たりの遊びをやりたがっているなら、親の役割として、汗びしょになるまでとことん付き合うべきだろう。
でも、僕にはそこまでの体力がない。
情けない……。
こんどはボクシングにしてみよう!
「こうやって構えて、こうやってパンチ。これがジャブで、これがストレートだ。OK?」
「OK!」
「それじゃ、ジャブ、ジャブ、ストレート……」
パパの手のひらにチビの拳がペシッ、ペシッと当たる。
「そうだ、いいぞ、これをワンツーっていうんだ。はい、ワンツー、ワンツー……」
ボクシングの練習なら、パパは動かなくてすむ。
こりゃ、いいぞ。
「もっと強く、もっと速く!」
ペシッ、ペシッ……。
「強く! 速く! 強く! 速く! 強く! 速く! 強く! 速く!」
ペシッ、ペシッ……。
「パパ、ちょっと休憩……」
ついに、チビが音を上げた。
……やった、勝った!
翌日、チビがまた「怪獣ごっこしよっ!」と言う。
「ボクシングにしようよ!」とパパ。
「怪獣ごっこがいい!」とチビ。
結局また、怪獣ごっこをするはめになってしまった。
そして、またその翌日。
パパは夕食ができあがるまでリビングには顔を出さなかった。
だって、体がもたないんだもーん。
私こそ三日坊主ですね。「子どものために!」と思うんだけど続かない。そのときに思いついたことをして、おしまい。こりゃダメだ。
教育ジャーナリスト。「こどもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。いま、こどもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を務め、現在は、子育て、教育、受験、進学、家族のパートナーシップなどについて、取材・執筆・講演活動を行う。『勇者たちの中学受験』『ルポ名門校』『不登校でも学べる』など著書は約80冊。