高輪ゲートウェイ駅付近の開発は順調に進む
大きなところでは、高輪ゲートウェイ駅付近の開発が進んでいる。駅と一体的な街の開発で、品川駅に隣接しているので、リニア新駅ならびに羽田空港への好アクセスも相まって国際的な優位性も高まると力説していた。
また、国際ビジネスも進めていて、インド高速鉄道建設への協力、シンガポールを拠点としたアジア中心の鉄道プロジェクトへの参画など、頭打ちの国内需要を補うべく多角的なビジネスをも考えているようだ。
ローカル線廃止、みどりの窓口大量閉鎖などサービス低下の懸念
それに比べると、悩みの種の1つは地方ローカル線問題であろう。今総会では、千葉在住と思われる株主から久留里線の一部区間廃止についてただされた。
地方交通線については、地方を豊かにしていくことと地方の足を守ることが大前提としつつも、将来にわたって持続可能な対策が必要であるとした。鉄道は大量輸送にこそその真価を発揮するものであり、利用者が激減している状況では、鉄道にこだわることなく、経営の上下分離やBRT化、バス転換なども視野に入れる必要があるのではないかとの答弁であった。
筆者がこの春、久留里線を視察したときは、平日の昼間にもかかわらず、廃止検討区間は、予想を上回る利用者がいた。列車本数が激減しているので、特定の列車に殺到するという事情はあるのだが、首都圏の路線であり、風光明媚(めいび)な区間でもある。近隣のいすみ鉄道は、めぼしい観光地がないにもかかわらず健闘しているだけに、線区の魅力をもっとプロモーションして集客に努めるなどやりようによっては存続可能なのではと感じた。
「みどりの窓口」大量閉鎖
他には、みどりの窓口の大量閉鎖やホームの時刻表撤去などで不便を感じているという複数の株主からの指摘があった。効率化を進めるあまり、サービスが低下しているのではないかとの意見も相次いだ。デジタル化の進展で列車や駅を利用するスタイルや環境が大きく変化しているというのが閉鎖や撤去の理由だが、利益優先のあまり公共性やデジタル機器が使えない弱者をないがしろにしているとの指摘はもっともであろう。
そうしたことが、将来的な利用者離れにつながり、それを見越した投資家が、会社の将来性を危惧しているため株価が8000円前後で低迷しているのではないかとの指摘もあった。某役員の宴席におけるパワハラと疑われても仕方ないような事案が週刊誌報道されて社長が謝罪した件についても、壇上にいる本人が株主に直接謝罪すべきとの声も会場のあちこちから上がった。あまり会社の印象を悪くするようなことのないよう、襟を正して真摯(しんし)に受け止めてもらいたいものだ。
まだまだ、コロナ禍から完全に復調してはいないけれど、旅行機運の盛り上がりやインバウンド客の増加など明るい話題はあるので、会社の今後に期待したい。
この記事の筆者:野田 隆
名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(ともに平凡社新書)がある。