声優・俳優・アーティストと多彩に活躍する宮野真守さんが、7月に来日するブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』のオフィシャル・サポーターに就任。2019年の日本語上演版舞台で主演し、2021年のスピルバーグ映画版では吹き替えを務めた彼が語る、本作の真のメッセージとは? 自身の表現活動に対する思いもたっぷり語っていただきました。
実は声優歴より長い!? ミュージカル歴
――宮野さんがミュージカルに出会ったのは?
「11歳の時です。児童劇団に所属していた僕にとって初めての舞台が、『スクルージ』という作品でした。全てのことが初体験で、みんなと過ごすのが楽しかったし、稽古では海外の演出家の方に褒めていただいて、うれしかったのを覚えています。
劇団では声楽、少し大きくなってからはポップスやダンスのレッスンも積極的に受けていて、そうした経験が『ミュージカル テニスの王子様』や『王家の紋章』への出演につながっていったのかなと思います。特に、当時グランド・ミュージカルの楽曲でレッスンしていた僕らにとって、帝劇(帝国劇場)の舞台に立つというのは1つの憧れでしたので、それを『王家の紋章』でかなえられたのはありがたかったし、大きな糧になりました」
「19歳の頃ってどういう感じだったかな~」と思い出しつつ演じたトニー
――そんな宮野さんにとって初のブロードウェイ・ミュージカルとなったのが、『ウエスト・サイド・ストーリー』なのですね。
「オファーをいただいた時は、華やかな音楽や演出、そして1950年代のNY版『ロミオとジュリエット』……というイメージが強かったのですが、稽古が始まると座学の時間がたっぷりあって、作品の背景が理解できました。第2次世界大戦が終わって、今ほど文明の利器や医療などが発達していなかった時代に、移民文化の中、若者たちがどれだけ必死に生きていたか。彼らの生命の輝きを常に意識しながら演じました」
――宮野さんが演じたのは、ポーランド系のトニー。幼なじみのリフと立ち上げた不良グループ“ジェッツ”を辞め、新たな人生に踏み出そうとする中で、プエルトリコ系移民のマリアに出会います。
「その価値観をどう表現するか、という問題もありましたが、それ以上に、30代の僕としては19歳という設定が遠くて(笑)。19歳の頃ってどういう感じだったかな~と思い出しつつ、マリアに対して一直線になれるよう、トニーの心の動き1つ1つに集中していました。楽曲も難曲ぞろいでしたが、稽古を重ねれば重ねるほど、物語と音楽と動きがいかに(ダイナミックに)連動しているかが分かり、あらためてすごい作品だなと思えましたね。
トニーの最初のソロは(何かが起きる予感を歌う)“Something’s Coming”。未来に対して、わくわくするだけでなく怖さもあるけれど、乗らずにはいられないというジェットコースターのような気持ちを、曲調に鼓動をイメージして歌います。そんな彼が体育館で出会ったマリアと一瞬で恋に落ち、“Maria”で祈るように彼女の名前を繰り返す。2人の初のデュエット“Tonight”では、『この人となら』という発見が互いにあって、猛烈に惹かれあいます。トニーの心情がうねるようにつながっていくここまでの流れが本当に秀逸で、本番では毎回、緊張感もありつつ、全ての要素が一体になる感覚を味わいました。生身の人間なので、時には汗だくになってしまって『マリア、ごめんね……』ということもありましたが(笑)、それも生の舞台ならではですよね」
映画版にも関わり、さらに深まった作品理解
――宮野さんはその後、スピルバーグ版の『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)でもトニー役の吹き替えを担当されました。また新たな発見がありましたか?「吹き替えは、完成された映像にアフター・レコーディングするというお仕事なので、演じられている役者さんの感情のラインをしっかり理解して寄り添うことも大事なのですが、自分がトニーを演じたことがあったからこそ、できたことはたくさんありました。舞台版との違いというところでは、リフとの絆について、より細かく描かれていたのが面白かったし、どんな思いでジェッツを抜けたのかもよく分かりましたね。楽曲の流れも監督の考えで変わった部分があって、それによって見える景色も変わりました」
――そして今回、オフィシャル・サポーターとして再度『ウエスト・サイド・ストーリー』に携わっています。
「またこの作品を語れることが、とてもうれしいです。今回来日するミュージカルはスピルバーグ版の演出に影響を受けているそうなので、どういうものになるのか、楽しみですね」
トニーの勇気が気付かせてくれること
「本作には、(人種差別、マイノリティという)生きづらさの問題が描かれていて、(1957年の)初演からこれだけ時代が流れて便利になっていても、解消されるわけではないんだと感じます。でも、それは1人1人が変えていかなくちゃいけない。冒頭でトニーが見せる勇気は、僕らにそんなことを気付かせてくれます。
華やかで格好いいエンタメとして存分に楽しんでいただける作品ですが、このインタビューを読んで下さった方には、そんなテーマも感じていただけたらうれしいです」
「なんとなく」という仕事は絶対にしたくない
――宮野さんにとってミュージカルとは?「1人の表現者として、ミュージカルにはミュージカルにしかできない表現があるな、と出演するたびに感じています。せりふでは伝えられないものが歌で伝えられたり、感情が音楽に乗っていく面白さがある。そこにキャラクターの本音が垣間見える。表現方法として非常に面白いなと感じます」
――ふだんは声優として映像と一体化して表現されていますが、舞台では自分の肉体で表現されます。そこにどんな違いや魅力を感じますか?
「とても難しくて簡単には言えないことなのですが、マイクの前で表現するのと、自分の体を含めて皆さんの前に立つのとでは、テクニカル的な部分が、見た目でも分かるように違うと思います。でも、表現者としての根本は何1つ変わらないかなと思うので、自分が演じる役の人生に真摯(しんし)に向かうというところを、1番大事にしています」
――今後もミュージカルには積極的に出演したいなというお気持ちはありますか?
「これまで自分が携わってきた作品も、今やらせていただいているお仕事も、全て“自分の人生”として関わっているつもりです。“なんとなくやる”ということは絶対にしたくなくて、やる以上は本当に真剣に携わりたいと思っているので、ミュージカルか、それ以外のジャンルか、といったボーダーについては、それほど感じていません。(あえて言うなら)“宮野真守が取り組む表現”という捉え方です。自分の生きざまに直結してくることですので、これからもいろいろなことに、積極的に関わっていきたいと思っています」
<公演情報>
ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』来日公演 7月5~23日=東急シアターオーブ 公式HP