横浜・本牧にある日本庭園「三溪園(さんけいえん)」では、国の重要文化財に指定されている歴史的建造物「臨春閣(りんしゅんかく)」の5年にわたる保存修理事業が完了。9月17日から期間限定で特別公開されます。どのような修理が行われたのか、見どころなどを伺ってきました(画像はプレス内覧会にて筆者撮影)。
国指定名勝「三溪園」について
三溪園は、明治時代末期から大正時代にかけて、製糸・生糸貿易で財をなした横浜の実業家 原三溪(はら さんけい)によって造られた日本庭園です。
約17万5千平方メートルの広大な敷地には、1906年に一般公開された「外苑」と三溪が私庭としていた「内苑」、2つの庭園が整備されており、京都や鎌倉などから移築した建造物17棟(うち国指定重要文化財は10棟)が四季折々の風景に調和するよう配置されています。2007年には国の名勝に指定されました。
建造物の移築などが完了し三溪園が完成したとされるのは1922年。今年は完成から100周年を迎える節目の年としてさまざまな事業が行われています。
「臨春閣」が建てられたのは江戸時代初期!
保存修理事業が完了した「臨春閣」は、内苑の中心となる重要文化財建造物。江戸時代初期に紀州徳川家の別荘として建てられたとされ、大阪市から三溪園に移築、1917年に移築整備が完了しました。室内は、数寄屋意匠を取り入れた書院造りの旧態を残し、各部屋からは三重塔をはじめとした庭園の景観を楽しめるよう配置されているのが特徴です。
およそ30年ぶり、5年にわたる保存修理では、主に檜皮(ひわだ)と柿(こけら)の屋根の葺き替えを中心に、耐震診断・補強工事が実施されました。畳や建具は取り外し、壁や床、天井をはがして補強工事が行われたとのことです。
見た目を変えることなく耐震補強を
建物内を案内してくれた原学芸員は「『どこを修理したの?』と思われているのではないでしょうか。文化財の保存修理では、できる限り従来の材料を遺し、新たに追加する建材についても違和感なく溶け込むように工夫がなされています。今回は見た目を大きく変えることなく耐震補強を施す、という難題に挑戦しました。例えば、左側(指している箇所)は耐震補強するために壁材を塗り直しています。右側と見た目が変わらないことがおわかりいただけるかと思います」と、教えてくれました。
大改修の工事を担当したのはユネスコ無形文化遺産にも登録された「伝統建築工匠の技」を受け継ぐ職人の皆さん。その工事の記録映像<約18分、撮影・制作 KAWARA (田中 克昌/藤木 博)>は三溪記念館で公開されていますので、合わせてご覧ください。三溪記念館では、田中克昌写真展「あとさき―臨春閣―」、所蔵品展「あらためまして、臨春閣です」も開催中。
臨春閣の内部公開は貴重な機会
臨春閣の特別公開は9月17~25日まで行われます。通常は非公開となっていますので貴重な機会。通路から見学できます(部屋には入れません)。
見どころは、細かな彫刻が施された欄間(らんま)や障子の桟、扉をはじめ、狩野派をはじめとした絵師による障壁画(複製)、細かな装飾の襖(ふすま)の引手や螺鈿(らでん)細工の扉など、随所に遊び心が感じられる数寄屋意匠。ぜひ、じっくりと見学してください。
なお、入室して見学したい方に向けて「臨春閣入室特別見学ツアー」(有料)も10月9日、10日に開催予定です。予約申し込みは⇒Peatixにて。
戦前の遺構もお見逃しなく
玄関には、今回の耐震補強工事中に発掘された戦前の遺構も公開されています。
原学芸員は「臨春閣の玄関棟は昭和20年に被災し、戦前のものは一切残されていないと考えられていましたので、モルタルの下から四半敷きの黒い石張りの床が現れて非常に興奮しました。1950年代に実施された昭和の大修理に携わった人たちも、できる限り遺せるものを遺しながら工夫を凝らしていたことを実感しました。文化財を守り伝えることは、生涯続くバトンリレーのようなもの。遺構を通じて、多くの皆さまにバトンリレーに参加していることを実感いただき、建物自体のすばらしさに加え、守り伝えることの喜びに共感していただけたらうれしく思います」と、コメントしています。
臨春閣の特別公開は9月17日から25日まで行われます。入園料のみで見学可。見学の際の注意事項などは公式サイトでご確認を。
URL:https://www.sankeien.or.jp/
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