北京冬季五輪でも発生か? スポーツ選手とドーピング問題

現在行われている北京冬季五輪。ある選手がドーピング検査で禁止薬物の陽性反応を示し、メダル授与式が延期される事態となっています。スポーツ選手にドーピング検査が課せられる理由、そもそもドーピングとは何かについて、わかりやすく解説します。

北京冬季五輪でも発生か? 五輪とドーピング問題

スポーツとドーピング問題
スポーツシーンでしばしば問題となるドーピング問題。時に選手自身が知らずにドーピングになってしまうケースもあります


4年に1度の世界最大のスポーツ祭典・五輪は、私たちに大きな感動を与えてくれますが、近年は水を差すような出来事が相次いでいます。その一つが「ドーピング問題」です。

現在行われている北京冬季五輪でも、フィギュアスケート団体で金メダル獲得に貢献したある選手がドーピング検査で禁止薬物の陽性反応を示したと報じられ、フィギュア団体のメダル授与式が延期される事態となっています。

また、このドーピング問題を報じたある情報番組では、司会の方と進行係のアナウンサーのやり取りで、「スラっと痩せているので、本当にドーピングしていたのでしょうか」「確かにペアで滑る男性スケーターの場合は筋力が必要になるケースもありますが……」といった発言がありました。これはおそらく「ドーピング=筋肉増強剤」という思い込みによるものでしょう。

私は非常にまずいと感じましたが、他の出演者もコメントを挟むことはありませんでした。また、「こういう判定がされると、真剣な競技に水が差される……」といった、どちらかというと「そんなに厳しくしなくても」と擁護するような発言も出ていました。

私は、今回疑惑の対象となった選手の白黒を議論する気はありません。むしろ、ドーピング問題に対する一般の方々の理解不足の方が問題と感じましたので、専門家として、正しい理解を促せればと思います。
 

ドーピングとは……スポーツなどでの禁止薬物の使用

改めて「ドーピング(doping)」の定義を確認しておきますと、「スポーツや競馬の世界で成績を上げるために禁止薬物を使用したり、それを隠す」ことを指します。意図的でなく、うっかり禁止薬物を使用してしまった場合でも、ドーピングとみなされてしまいます。

フェアプレー精神を求められるスポーツ選手の医薬品使用に厳しい制限が設けられているのには、ちゃんと理由があります。過去の事例を挙げて説明しましょう。
 

ドーピング問題の事例……市販の風邪薬が影響したケースも

1988年のソウル五輪の陸上男子100m決勝で、カナダのベン・ジョンソン選手が出した「9秒79」という驚異的なタイムを生中継で見たときの衝撃は、私の脳裏に鮮明に残っています。

しかし、それも束の間、競技後の検査でジョンソン選手がスタノゾロールという筋肉増強ホルモン薬を使っていたことが判明し、世界記録と金メダルを剥奪されることになりました。

そのニュースを耳にしたときの衝撃は、さらに大きいものでした。前述のテレビ番組の司会者が、「ドーピング=筋肉増強剤を使うこと」と誤解していたのも、こういった過去の事例の影響かと思います。

さらに遡ること1972年のミュンヘン五輪の競泳では、米国のリック・デモント選手が400m自由形決勝で1位になったものの、競技後の尿検査で禁止薬物が検出され失格に。ドーピング検査による五輪金メダル剥奪の第1号となってしまいました。

このとき問題となったのは、「エフェドリン」という薬でした。デモント選手は喘息の持病があり、その治療目的でこの薬を使っていたと言われています。エフェドリンには、交感神経や中枢神経を興奮させる作用があります。服用によって競技成績が左右される可能性があることから、禁止されていたのです。

また、「メチルエフェドリン」というエフェドリンに類似した薬も、咳がひどい時に呼吸を楽にしてくれるため、薬局で販売されている一般的な風邪薬に配合されていることがあります。このメチルエフェドリンも競技時に使用することが禁止されている薬のひとつです。

2015年2月ドイツで開催された柔道の世界大会に日本代表選手として参加予定だった女子選手2名が、競技前のドーピング検査にひっかかり出場停止になりました。彼女たちは、体調がすぐれなかったため薬局で売っている風邪薬を飲んだそうです。まさにその製品に配合されていたのはメチルエフェドリンでした。

さらに、近年問題視されている禁止薬物が「エリスロポエチン製剤」です。エリスロポエチンはもともと私たちの体の中(腎臓)で作られているタンパク質で、赤血球の産生を促す役割を果たしています。そのため、腎臓が悪くなってエリスロポエチンが作られなくなると、重い貧血になってしまいます。そのような患者さんを治療するため、体の外からエリスロポエチンを補うべく用意されたのがエリスロポエチン製剤です。

ところが、この薬を一部のスポーツ選手が悪用する事例が出てきました。エリスロポエチン製剤を使うと、健康な人でもさらに赤血球を増やすことができるため、過酷なトレーニングをしなくても組織への酸素供給効率が上がり、持久力が向上するのです。そのため、スポーツ界では1990年代から使用禁止に。五輪で最初に陽性反応が出たのは、2000年のシドニーでした。

他にも事例はたくさんありますので、機会を改めて解説できればと思います。
 

膨れ上がる禁止薬物数……選手が疑われないための体制づくりも重要

毎日、地道に一生懸命トレーニングを積んで体と心を鍛えようと努力している選手たちがいる一方で、「ズル」をするのはやはり許せないですよね。私たちが、素直に勝者を称えることができるよう、スポーツはいつも「公正・公平」であってほしいと切に願います。

近年はドーピング問題がクローズアップされ、禁止薬物の数はどんどん膨れ上がっており、薬の素人であるスポーツ選手が自己管理することはほぼ不可能です。

いくら気をつけていても、不本意に疑いをかけられることもあるため、選手を支える周囲の体制づくりにも力を入れてほしいと思います。



【おすすめ記事】
コロナ禍で依存症が増加? 依存症リスクを回避する方法
認知症治療薬「アデュカヌマブ」承認見送りの背景と課題
疲れたときに食べてはいけない食べ物・飲み物
新型コロナワクチン3回目接種体験談…予約・副反応・注意点など
オミクロン猛威の都内、コロナ感染した20代男性の体験談

Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

注目の連載

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    静岡の名所をぐるり。東海道新幹線と在来線で巡る、「富士山」絶景ビュースポットの旅

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『グラディエーターII』が「理想的な続編」になった5つのポイントを解説。一方で批判の声も上がる理由

  • アラサーが考える恋愛とお金

    「友人はマイホーム。私は家賃8万円の狭い1K」仕事でも“板挟み”、友達の幸せを喜べないアラサーの闇

  • AIに負けない子の育て方

    「お得校」の中身に変化! 入り口偏差値と大学合格実績を比べるのはもう古い【最新中学受験事情】