正社員で年収520万円、フリーランス希望のエンジニア。独立しても月収50万円あれば生活できる?
終身雇用が過去のものとなり、さまざまな働き方が選べるようになりました。会社から独立してフリーランスで働いている方もいらっしゃるかと思います。
今回は、正社員として働いている方がフリーランスに転向するケースを検討してみたいと思います。収入や手取り額、社会保険など変化があるなかで、生活水準はどのように変化するのでしょうか?
相談内容
ソフトウエア会社で働く正社員。現在の収入は残業代込みで年収520万円くらい。月収は残業代によって差がある。
自分の技術力で勝負したい気持ちがあり、フリーランスに憧れている。フリーランスの求人を見ると月収50万円以上になるようなので、収入面でも魅力を感じている。
具体的に次の2点について相談したい。
- 月収50万円のフリーランスで、今と同じ生活資金が確保できるか?
- 正社員からフリーランスになることへの注意点があったら教えてほしい。
▼相談者の現状
- 35歳男性
- 年収520万円(うちボーナス100万)※月収は残業代によって32万円から40万円の差がある
- 住まいは都内のワンルームで賃貸、一人暮らし。管理費込みの賃料は7万5000円(2年更新で更新料は家賃1カ月分)
- 契約している保険:医療保険に加入(1日5000円保障の定期保険タイプ)。保険料は月額約1300円。生命保険は未加入
- 貯蓄:普通預金100万円
- 生活費:家賃、保険料以外で約16万円
- 年金退職金など:厚生年金に加入。退職金はなし
- iDeCoに加入して投資信託に毎月2万円拠出(新入社員のときから個人型確定拠出年金に契約)
- 自家用車なし
今後の予定と希望など
- 住まいは生涯賃貸の予定
- 結婚は今のところ考えておらず、自身の老後についても具体的に考えてはいない
- 両親の介護についても具体的に決めてはいないが、本人たちが貯蓄をしているようだ
- 正社員を続けた場合、基本給の上昇は2%程度の見込み。しかし、残業代を含めるとあまり変わらず、実質1%程度の上昇だと思われる
- フリーランスでの収入は月収50万円を見込んでいる。経費は収入の40%
- フリーランス開始時に機材購入費として20万円の予算を検討
- フリーランスで働く場合は1LDKもしくは2DKくらいのところに引っ越したい。郊外でもいいので、家賃は7万~8万円に抑えたい。引っ越し費用は、荷物の輸送費・敷金・礼金込みで25万円の予算
- 友人との旅行や一人旅をしたい。70歳まで2年ごとに50万円の予算
- 働いている間は、仕事に関わる勉強用に年間10万円の支出を予定
上記の条件をもとに、正社員を60歳の定年退職まで続けた場合と、今すぐフリーランスになった場合のシミュレーションを行いました。
なお、ご両親やご自身の介護について未定であること、フリーランスになった場合の収入や経費の予測が立っていないため、今回のシミュレーションでは次のように仮定しました。
- ご両親の介護費用の負担はない
- 自身の介護費用については85歳以降月額7万8000円
※出典:(公益財団法人)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/平成30年度
正社員で過ごした場合のシミュレーション
まず、こちらが60歳の定年退職まで正社員を続けた場合のシミュレーションです。
グラフの水色の部分は現金や貯蓄などの流動資産、オレンジ色の部分はiDeCoで運用している資産を表しています。iDeCoの投資信託の利回りは3%と仮定しています。
シミュレーションの結果では、退職まで貯蓄が増えていきます。一方、退職後は支出が年金を上回り、貯蓄を取り崩す生活になります。その結果、88歳で生活資金が底をつく予測となりました。
正社員で過ごす場合でも100歳まで生活資金を残すためには収支の見直しをした方がよさそうです。
例えば、生涯収入を増やすために定年後も働く、支出を減らすために生活費を見直す、投資運用を活用するなどです。
今回は、生活費の見直しで支出を減らす方法を採用しました。現在、項目ごとの支出の上限を決めていないようですので、食費・交際費・趣味などの支出を中心に毎月の生活費を削減してみましょう。
▼生活費を削減したうえで、正社員で過ごした場合
生活費全体の支出を2万円削減できた場合のシミュレーションがこちらです。
毎月の生活費を2万円削減することで100歳まで生活資金がマイナスになる期間がなくなりました。
フリーランスに転向した場合のシミュレーション
続いてフリーランスになった場合がこちらです。すぐフリーランスに転向し、60歳まで仕事をするとしてシミュレーションを行いました。
仕事をしている間は生活資金がプラスになっていますが、仕事を辞めてしまうとすぐに現金や貯蓄が足りなくなってしまう結果となりました。
その要因として次の2つが考えられます。
- 月収50万円だが、社会保険料の負担が増えることで生活費に充てられる金額は50万円より少なくなってしまう。結果として正社員で過ごすよりも生活資金が少なくなってしまった
- 厚生年金が減額になるため、リタイア後の年金収入が減る
この2つは、正社員からフリーランスに転向する場合の注意点でもあります。
社会保険料の負担は、正社員の場合所属している会社と折半ですが、フリーランスの場合は全額個人負担になります。
負担額は課税所得によって決まり、月収50万円である相談者の経費が収入の40%だと仮定した場合、国民健康保険料と国民年金保険料で月額平均約4万5000円となります。さらに、所得税・住民税などの負担を考慮しますと、生活資金に充てることができる金額は月額約42万円となります。
もし、経費を全く計上しなかった場合は、収入の全額が課税所得になります。課税所得が高額になるため社会保険料や税金負担も大きくなり、生活資金として残せるお金は約33万円まで下がります。
計上できる経費によって生活資金に残せる金額に差が出ます。自宅でフリーランスとして働く場合では、家計と仕事用の支出を区別できることを条件に、家賃や通信費などの一部を経費にできる場合があります。生活資金確保のためにも支出のうちどれだけを業務に使用したか客観的に説明できるようにしておきましょう。
さらに生活資金の注意点として、フリーランスの場合、契約が切れると収入が途絶えることになります。収入が途絶えた場合に生活費に充てられるだけの貯蓄を事前に準備しておくことをお勧めします。
フリーランスで生活資金を確保するには?
この方の例では、定年まで正社員で過ごす場合でも88歳で生活資金が不足するシミュレーションとなり、生活費の見直しをお勧めいたしました。フリーランスに転向する場合には、正社員よりも早い71歳で生活資金が不足する予測となり、生活費の見直しだけでは難しく他の対策も必要になります。
では、どのような対策を行うと資金不足を回避できるのでしょうか? 例えば次のような対策が考えられます。
●フリーランスに転向する前に、初期費用と生活費6カ月分の貯蓄を準備する
機器購入費用20万円、引っ越し代25万円に加え、収入が途絶えた場合の生活費を確保しておかなければなりません。多ければ多いほど安心ですが、今回は目安として毎月の生活費の6カ月分の貯蓄を準備することにしました。
●リタイア後の資金対策として、生涯収入を増やす、支出を減らす
生涯収入を増やすには、キャリアアップして収入を増やす、長く働くなどの方法があります。また、自身の退職金対策として小規模企業共済に加入することも一つの方法です。支出を減らすには生活費の見直しなどを行い、削減できる費用があるか検討してみることが重要です。
以上の対策案の中から、今回は次の4点を採用してシミュレーションを行いました。
(1)70歳まで月収50万円で働き、生涯年収を6000万円増やす
(2)生活費の見直しを行い、毎月の生活費を2万円削減する
(3)38歳まで正社員で働く
機器購入費用・引っ越し代・生活費6カ月分の合計177万円の貯蓄ができるまでは、正社員で働くことをお勧めします。なお、毎月の生活費は支出を見直した後の14万円、住宅費8万円、保険料1500円の合計約22万円を想定しました。
(4)38歳で引っ越してからフリーランスに転向
生活資金面での注意点ではありませんが、フリーランスになった直後は収入が不安定だとみなされ、賃貸の新規契約が難しい場合があります。今回は、正社員のうちに引っ越しを行い、引っ越し後フリーランスに転向することとしました。
その結果がこちらになります。
働く期間を延ばしたことにより、70歳まで資産を増やすことができるようになりました。70歳以降は貯蓄を取り崩しながら生活することになりますが、今回のシミュレーションの条件下では、100歳まで生活資金が尽きることはなさそうです。
まとめ
今回は、正社員からフリーランスへ転向した場合に、生活資金にどのような影響が出るかについて検討しました。
シミュレーションでは、正社員からフリーランスへ転向すると、働いている期間もリタイア後も生活資金が不足する結果となりました。この場合、70歳まで働く、毎月の収入を増やすなどの方法で生涯収入を増やし、正社員と同等の生活資金を確保できる可能性はあります。
しかし、契約が不安定であるリスクを検討の上、余裕を持った生活資金の準備が必要であると考えられます。
この記事を執筆したのは……
黒川 一美(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
大学院修了後、IT企業や通信事業者でセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側に立場が変わり、お金の守り方を知らなかったことを痛感。自分に合ったお金との向かい合い方を見つけるため、FP資格を取得する。資格取得後は、FPの勉強を通じて得られた知識をもとに、よりよい家計管理を求め試行錯誤の日々を過ごす。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。