2022年4月から始まる高校の新学習指導要領では、家計管理などを教える家庭科の授業に「資産形成」が含まれることになりました。これによって家庭科の先生がこれまで教えていた裁縫や調理などに加えて、株式や債券、投資信託などの基本的な金融商品について教えることになります。
2022年4月から高校生の投資教育が始まる
平成30年に告示された「文部科学省の高等学校学習指導要領解説【家庭編】」の75ページに以下のように書かれています。
「生涯を見通した経済計画を立てるには、教育資金、住宅取得、老後の備えの他にも、事故や病気、失業などのリスクへの対応策も必要であることについて理解し、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の視点にも触れながら、生涯を見通した経済計画の重要性について理解できるようにする」
長い人生では、あらかじめ計画できること以外にもお金がかかることがありますよね。まずは、それを理解する必要があります。その上でお金の計画を立てることになりますが、これからは預貯金や民間保険だけではなく、株式や債券、投資信託にも目をむけて、真剣にお金のことを考えていきましょうということです。
現在金融庁でも、高校生向けの授業動画「高校生のための金融リテラシー講座」を公開するなど、金融教育に力を入れ始めています。
参考:金融庁「中学生・高校生のみなさんへ」
子どもだけでなく、親も真剣に金融教育を考えるタイミング
お金の教育は子どもたちに必須となってきている今、筆者たち親も真剣に金融教育を考えるタイミングを迎えています。とはいえ、いきなり「投資とは?」「株とは?」と子どもに説明するのは難しいのが正直なところ。そこで今回は、プロの教えを乞うことにしました。
教えてくれるのはセゾン投信 代表取締役会長CEOの中野晴啓さん。教えてもらうのは、筆者の高校生の娘(M)。教えてもらったことを踏まえて、今後投資にチャレンジしていきます!
教えて!株を買うってどういうことなの?
筆者の高校生の娘(以下M):よく「株を買う」といわれていますが、そもそも「株を買う」とはどういうことですか?
中野さん:「株を買うこと」は、その会社にお金を通じてビジネス参加すること。実際には自分は参加ができないので、お金が自分に代わって参加してくれるというイメージです。これが株を買うことの本質です。
M:でも株を買うと、「儲かる」とか「損をする」と言いますよね? 私たち高校生からすると、「株を買って大儲けする!」。そんなイメージなんです。
中野さん:もちろん、お金を儲けるために株を買う人もいます。買った値段(買値)よりも高くなった時に売れば、利益は出ますからね。でも、それは株を買うことの本来の目的とはちょっと違うんです。
そもそも株を買った時のリターン(利益)がどこからくるのか。まずはここをしっかり理解してほしいです。株を買う時にはお金を出すことになりますが、そのお金は会社がもっとビジネスを大きくするための設備投資とか研究開発に使われます。その結果、世の中にその会社のビジネスが受け入れられることもあります。
例えばみんなが必要だと思って買ったりするようなものもありますよね。具体的に言うと、スマートフォンです。きっとMさんも使っていますよね。友達も使っていませんか?
M:みんな使っていますね。
中野さん:多くの人が使うと、その会社は売上が上がって利益も出ます。会社が利益を出した時、その利益を分けてもらうのが本来の「株式のリターン」なんです。
そのリターンは、一般的には「配当金」と呼ばれていますが、それを受け取ることが株式投資の本来の目的です。つまり、株価が上がったからすぐに売ることで手にした利益というのは、株式投資のリターンの本来の意味とは違うんですよ。
配当金を出さないのはなぜ?
M:でも、配当金を出さない会社もありますよね?
中野さん:もちろん、そういう会社もあります。株を持っている人(株主)に利益を分配して配当金を出すよりも、その利益を使ってもっとビジネスを大きくできるなら、そこにお金を使った方がいいですよね? そしてそのビジネスがうまくいけば、「この会社はすごい!」となって価値が上がって、結果的に株価も上がります。要するに会社が大きくなることと株価が上がるのは、リンクしているんですよ。でもこの流れはすぐにはできません。だからこそ株を長く持たないといけないんです。
株を買った時のお金は、どこにいく?
M:株を買う時にお金を出すわけですが、そのお金は直接的にどこにいくのでしょうか? 会社がお金をもらえたりするのですか?
中野さん:株を買った時のお金がどこにいくのかは、見えない部分なのでわかりづらいですよね。例えば、新しいビジネスをするために新しい株を発行する場合(これを公募増資という)は、お金を出したら新しい事業に使われます。これはわかりやすいですよね。でもすでに株の売買をする証券取引所に上場して株式を公開している会社の場合には、ちょっと違います。
上場している会社にはすでに株主がいて、その人が株を売りたくなったら、それを市場に売りに出します。それを「株を買いたい」と手を挙げた人がお金を出して買うことになります。ここで起きているのは株主の交代です。普段の生活を思い浮かべても、欲しいものがあった時、お金を出して買いますよね。そうすれば欲しいものが手に入る。一方でものを手放した人にはお金が入る。これと同じ仕組みです。なので、株を買う時も、出したお金は前の株主のところに行くわけです。
では株を買う場合、筆者たちはどうすればいいのでしょうか。証券会社に口座を開き、そこで買うのが一般的です。問題は、どの証券会社を選ぶのかということ。これに関しては、次に続きます。
教えてくれたのは……
セゾン投信株式会社 代表取締役会長CEO 中野 晴啓(なかの はるひろ)
1987年クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資産運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金運用のほか、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、クレディセゾンインベストメント事業部長を経て、2006年セゾン投信株式会社を設立。2020年6月より現職。現在2本の長期投資型ファンドを運用、販売しており、顧客数は約15万人、預かり資産は4300億円を超える。一般社団法人投資信託協会理事。公益財団法人セゾン文化財団理事。著書に『預金バカ』(講談社+α新書)、『つみたてNISAはこの8本から選びなさい』(ダイヤモンド社)など。
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