過去最多、900万人を超える中国の大卒生

中国の最高学府・北京大学。卒業生の多くが海外留学に出てキャリアを積む

9月入学制の中国の学生が卒業するのは6~7月。夏は新しい生活が始まる季節です。2021年の大学など高等教育機関(高等職業高校、高等専門学校を含む)の卒業生は909万人と、前年から35万人増えて過去最多となりました。
 
ところがそのうち就職したのは6割弱。新型コロナウイルスの影響で、日本でも就職率がリーマンショック後に次ぐ下げ幅となりましたが、それでも2021年3月卒業の大卒就職率は96%となっています。
 
半数近い学生が就職しないのには、中国特有の社会背景があります。

 

中国では卒業後の進路≠就職

「智聯招聘」が2021年の高等教育機関卒の学生を対象に調査

中国最大手の人材会社「智聯招聘」のデータによると、2021年の高等教育機関卒(以下“大学卒”)の学生のうち、就職するのは56.9%と前年度より18.9%減少し、その分、就職以外の進路を選ぶ学生が増加しました。中国では、もとから「卒業=就職」というプレッシャーは日本ほどではなく、卒業後の進路もさまざまです。
 
就職以外の進路のうち、コロナ渦で出国が難しくなった留学と、条件的なハードルが高い起業の伸び率はさほど高くありませんが、「フリーランス」「慢就業」「中国国内での進学」の道を選ぶ学生はぐっと数が増えました。

 

「慢就業(マンジューイエ)」とは?

疲れたら休む。無理しないライフスタイルを選ぶ中国の若者

「慢就業(マンジューイエ)」というのは2015年前後から言われるようになった言葉で、直訳すると「ゆっくり就職」となります。「慢就業」は、90年代以降生まれの若い世代特有の現象で、「不就業(就職しない)」わけではなく、「卒業までに就職する」などと期限を決めずに、あせらず職探しをしていくことです。
 
この背景には、中国の過酷な受験戦争があります。中国の受験の厳しさは日本の比ではなく、大学進学をめざす子は小さな頃からほとんど自由時間なく勉強漬けの日々を過ごし、大学に進学しても引き続き勉強メインの生活を送ります。そのため、卒業したら少し休みたい、自分について、将来についてゆっくり考えたいという学生が少なくありません。彼らの親もそれを理解し、経済的支援をするため「慢就業」という現象が起こるわけです。

 

中国の学生がいちばん重視するのは「給与」

中国の大卒生が就活でいちばん重視するのは給与です。高等教育機関卒の新卒の給与は平均7000元(約12万円)。うち本科卒が約5000元(約8万5000円)、修士卒が約7000元(12万円)、博士が約1万2000元(20万円強)と、学歴が上がるほど給与額は増えます。また、地域による差も大きく、北京、上海、深センといった大都市では新卒の給与は1万元(約17万円)を超えています。

中国国家統計局が発表した2020年の中国の平均収入を見ると、都市部非私営企業(国有企業、株式会社、外商投資企業などを含む)の年収は9万7379元(約166万円)、都市部私営企業の年収は5万7727元(約98万円)、単純に12カ月で割れば月収はそれぞれおよそ8115元(約14万円)と4800元(約8万2000円)。大卒生は新卒で平均給与レベルをもらえるわけで、いかに学歴重視かがわかります。
中国の学生向け人材会社「梧桐果」が2021年大卒生を対象に調査

しかし細かくみていくと、初任給5000~7000元(約8万5000~12万円)の学生が約35%と主流で、2番目に多いのが7000~9000元(約12~15万円)で約24%、3番目は3000~5000元(約5~8万5000円)19%、続いて9000元(約15万円)以上が約12%、1万1000元(19万円)以上が11%となっています。

つまり、大卒の平均給与5000元に満たない学生が5人に1人。その現実を受け入れられず、就職という道を選ばない学生がいるわけです。

 

優遇される「海亀(ハイグイ)」

「富二代(富裕層の子ども)」の多くは留学して海外での職務経験を積んでからエリートとして中国に戻る

「海亀族(ハイグイズー)」とは海外留学から中国に戻ってくる人材のことで、「海帰」と「海亀」の発音が同じことに由来します。「中国の技術革新に海亀族あり」と言われるほど、中国では海外帰りは貴重な存在。特に留学後に海外の企業で最先端技術を学んだ高度人材は金の卵。国をあげて呼び戻そうと力を入れています。
 
2021年はコロナの影響で、その海亀族が例年より50%増加。およそ80万人の留学生が中国に帰国し、就職戦線に加わりました。海亀族の平均初任給は約1万1000元(19万円)と国内新卒の給与平均7000元(約12万円)を大きく上回っています。
 
そんな海亀族を見ているうちに、就職するのが馬鹿らしくなり、海外留学を夢見るようになるのもしかたないことでしょう。

 

輝きを失った「大学生」という響き

中国の中高生の制服であるジャージを着る学生。大学受験に向けて勉強一色の毎日
中国における高等教育機関への進学率は19年に51.6%となり、半数以上が大学に進学するようになりました。ちなみに日本の2020年度の大学進学率は54.4%、こちらも過去最高を記録しました。
 
増え続ける大学生を表す下記のような言葉があります。
  • 60年代生まれの大学生は100人に1人、まさに時代の寵児
  • 70年代生まれの大学生は100人に3~5人、得難いエリート
  • 80年代初期生まれは10人に1人が大学生
  • 80年代後期生まれは5人に1人が大学生
  • 90年代生まれは2人に1人が大学生、大学に行かない人こそ少数派

中国はこの20年で急速に高学歴社会となり、猛勉強の末に大学生となっても、その後の人生は安泰とは言えなくなってしまいました。更に、1980年代から続いた高度経済成長が近年は失速し、反対に物価はどんどん上がり、若者が希望を抱きにくい社会に。

そんな時代、中国の若者の間で「佛系(フォーシー)※」や「喪(サン)文化※」が流行し、それが発展するように「躺平(タンピン/寝そべり主義)」が生まれました。

※佛系……恋愛などに時間を割かず、欲を捨てて、なすがまま1人で消極的に生きること。日本の草食系に近い
※喪文化……無気力、悲観、絶望などの消極的な感情から生まれたサブカルチャー

 

若者たちにまん延する「タンピン/寝そべり主義」

上昇志向が強く、ブランドを買いあさる中国人は「古き人たち」となりつつある
壮絶な受験戦争で疲れ果てた若者たち。大学を卒業しても続く競争社会。一攫千金を狙える時代はすでに終わり、格差や物価高騰という現実に打ちのめされた若者は、がんばらず、最小限の仕事をして最低限の暮らしをすればいいと考えるようになりました。タンピン/寝そべり主義がまん延していく中、「卒業までになんとか就職しよう」という気持ちにはなりにくいのは当然の流れでしょう。

新世代の間で「秒辞(ミャオツー/秒で辞める)」という言葉も流行っていますが、彼らいわく、仕事をすぐ辞めるのは「我慢できないからではなく、賢くなったから」とのこと。80年代生まれのように「家や車を買う」「家族を養う」というがむしゃらな生活を選択しないことで、「嫌なら働かない」自由を手に入れたのかもしれません。