子どもが突然「留学したい」宣言。将来のキャッシュフローを検証!
いくら計画的に教育費を貯めていても、子育て期間は思ったよりも長く、予期せぬ支出が発生することもあります。
今回は、大学に入学したばかりの子どもが突然「留学したい」と希望してきたシチュエーションを想定し、その留学費用の捻出方法と将来のキャッシュフローについて考察してみました。
すると、そこに隠された本当の問題点がみえてきたのです。
前提条件
今回行うシミュレーションの前提条件は以下の通りです。
家族構成
- 神奈川県在住の3人家族
- 相談者(50歳)、会社員、年収600万円(うちボーナス100万円)
- 相談者の妻(49歳)、パート、年収90万円
- 相談者の長男(19歳)、大学生
現在の家計
- 生活費:月20万円(保険・住居・教育費を除く)
- 特別支出:帰省旅行費など(年30万円、75歳まで)、家具家電費(年10万円、80歳まで)
- 退職金は1200万円(60歳退職予定)
- 車は持っていない
- 貯蓄(預貯金):300万円(万一の生活費用)、320万円(大学資金用)
保険について
夫、妻ともに今年保険の見直しをして、新規加入したとする。
<夫>
終身医療保険(日額1万円)=保険料5700円/月
死亡保険(終身払い、保険金500万円)=保険料1万2000円/月
<妻>
終身医療保険(日額5000円)=保険料2600円/月
死亡保険(終身払い、保険金200万円)=保険料3900円/月
住まいについて
- 夫40歳のときに3000万円で75平米3LDKの中古マンションを購入(リフォーム費込み)。購入当時は築3年、現在は築13年
- 頭金800万円、返済期間20年、固定金利1.9%(フラット20を利用)、毎月の返済額11万1000円
- 火災保険5万8000円(10年一括払い)、地震保険2万9000円(1年ごと)
- 管理費、修繕積立金月2万3000円
- 固定資産税12万円(年額)
- 60歳頃に退職金を利用してリフォーム希望。予算は250万円
教育費について
- 今春から某私立大学の文学部に通っている(自宅通学)
- 大学2年生になったら、ニュージーランドへ1年間の語学留学希望(予算300万円)
- 大学休学費用(在籍費など)は10万円
相談者の悩み
大学1年生になったばかりの息子が突然「大学2年生になったら1年間休学して語学留学したい」と言ってきました。どうやら友人に触発されたようです。
留学の目的は「日本以外の文化や習慣を肌で感じて、ついでに語学力も身につけたい」というざっくりしたもので、具体的には「これから詳しく調べる!」と言っています。
私が心配しているのはお金のことです。現時点で大学4年間の費用はなんとか貯蓄できていますが、他の用途に使う余裕はありません。留学費用の相場もわからず、現状の家計で対応できるのかどうか不安です。
質問のポイント
1. 語学留学にかかる1年間の費用は大体いくらか知りたい。
2. 留学するまでおよそ1年間猶予があるため、その間になるべく資金を貯めたいと思っている。それで対応できるのか、対応できない場合はどんな方法が取れるのか教えてほしい。
3. 大学を休学することでかかる費用があれば知りたい。
留学にかかる費用はいくら?
まずは一番気になる「留学費用」について確認しましょう。
海外留学には、授業料、渡航に必要な諸経費(航空券、保険料、パスポートやビザ申請費用など)、現地での滞在費や生活費、観光にかかる費用などが必要となってきます。
このうち授業料や滞在費はまとめて支払う必要があります。支払うタイミングは留学先や手配方法によって「出発前」または「現地到着後」に分かれているため、あらかじめきちんと把握しておきましょう。
1年間の語学留学(英語)にかかる費用相場について、海外留学関連のさまざまな情報をみてみると、200万~550万円程度(※授業料、滞在費、生活費(観光費)、渡航代、保険やビザ等含む)と、かなり金額に幅があります。
これは国ごとで違うだけでなく、同じ国でも都市や教育機関、選択コースによって費用に大きな差があること、また出発するタイミングによって渡航代の差が大きいことなどが要因です。
このような高額な語学留学以外にも「ワーキングホリデーを利用する」「マレーシアやフィリピンといった物価が安くて英語が勉強できる国を選ぶ」などの費用を抑える方法があります。お子さまの留学目的ともよく照らし合わせて検討してみてはいかがでしょうか。
今回はニュージーランドで1年間の語学留学を希望しているため、予算を300万円としてシミュレーションしたいと思います。
大学休学にかかる費用は?
大学を1年間休学することで休学費用が発生することにも留意しておきましょう。
休学費用の詳細は大学によって異なりますが、国立大学の場合は基本的に休学中の学費は全額免除。私立大学の場合は「授業料の一部を支払う必要がある」「在学費のみが必要」などさまざまです。
お子さまの通う大学の休学制度を確認しておきましょう。
今回の休学費用は10万円と設定しています。
子がアルバイト+妻の収入を増やした場合のシミュレーション
留学までのおよそ1年間に貯められる資金の目安は、
- 妻の収入を増やす:1年間だけ年収90万円→年収120万円にアップ(扶養内で働く条件はそのまま)
- 子どもがアルバイトをする:年収96万円、月収8万円 (扶養控除内で働くとする)
これらを合わせると「年間126万円」の留学資金が用意できました(今回はこれまでの生活を大きく変えないという前提で金額を設定しています)。
そしてこの1年間で貯めた資金を含めたシミュレーションがこちらです。
留学直後から数年間は万一のときに注意
まず懸念されていた留学費用ですが、留学直後からお子さまが大学を卒業される4年間の金融資産額は300万円台をキープできており、300万円あれば「緊急予備資金」は確保されていることになります。
緊急予備資金とはケガや病気といった生活上のリスクに備えて、一般的に生活費3〜6カ月分の確保が推奨されているものです。
相談者のご家庭で備えておきたい緊急予備資金は約110万〜215万円であることから、その金額は確保されていることになります。
ただしその300万円台の金融資産額のうちの300万円は大学資金用とすると、緊急予備資金に残せる額は数十万円となり不安が残ります。
今すぐに対策が必要というわけではありませんが、万一のときには「教育ローン」や「奨学金」を検討することも視野に入れておきましょう。
ただし奨学金の利用には条件があり、誰でも、またどのような留学でも利用できるわけではありませんのでご注意ください。
64歳以降は大きくキャッシュアウト
一方、老後資金に目を向けてみると、相談者が64歳以降でキャッシュアウトし、その後年々金融資産額のマイナスが膨らんでいます。
このキャッシュアウトの要因には「相談者が61歳〜64歳までの4年間の家計収入がゼロ」であることや「65歳以降、年間収入よりも支出の割合が多くなっていること」などが挙げられます。
つまりこのシミュレーションから、相談者のご家庭では留学後の対策よりも老後を見据えた長期的な改善策が必要であることがわかりました。
改善後のシミュレーション
老後のキャッシュアウトを改善するため、今回は2つの対策を取ります。
■対策1:収入を増やす
まずは収入を増やして、老後を迎えるまでになるべく貯蓄を蓄えておきましょう。
具体的な方法として今回は以下の2つを提案します。
• 妻の労働時間を増やす→フルタイムパートで働く(月給15万円、年収180万円)
• 夫と妻がともに65歳まで働く
妻がフルタイムとなることで夫の扶養から外れることになりますが、その分老後の年金が増えるというメリットがあります。
また、なるべく長い期間働くことで老後の備えを充実させるとともに、年間収支のマイナスが始まるタイミングをずらしてキャッシュアウトを遅らせる目的があります。
■対策2:資産運用で老後資金を減らさない対策をとる
ご夫婦は現在50歳と49歳です。退職までは15年しかなく、収入アップだけで老後資金を賄うには一抹の不安があります。
そこで老後の貯蓄額を減らさない対策として「資産運用」を取り入れてみましょう。
- 夫が50歳から65歳までの15年間、つみたてNISAを利用して投資信託を購入する
- 積立額は月3万円。想定利回りは2%、66歳以降も運用を続ける
つみたてNISAを利用することで、投資で得た利益が最長20年間非課税になるメリットもあります。
これらの対策をとったシミュレーションがこちらです。
グラフの緑色部分が運用資産、水色部分が生活費(流動性資金)です。
まず現状キャッシュフローではキャッシュアウトのタイミングは64歳でしたが、改善後には「88歳」と大きく後退していることがわかります。
また88歳以降の生活費はマイナスとなっていますが、運用資産は生涯1000万円以上をキープしており、運用資産が生活費のマイナスを補っています。
このように、つみたて投資は50歳から始めても老後の資産形成にとても有効なのです。
ただし投資は基本的に余裕資金でするものです。今回の場合もまず「収入を増やす」という対策を取ったからこそ効果が発揮されているといえるでしょう。
「余裕資金がないけれど投資を始めてみたい」という方は、100円からできるつみたて投資やポイントを利用した投資など、金銭的負担が少なく始められるものからチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
また投資にはリスクがあります。今回のような老後のためのつみたて投資は「増やす」よりも「減らさない」ことに重きを置いて運用することが大切です。
目的に合っていない高リスクな運用をして老後資金を減らしてしまわないよう、投資を始める前に基本的な知識は身につけておいた方がよいでしょう。
まとめ
今回の問題の本質は子どもの留学費用ではなく、実はご自身の老後資金でした。
相談者は子育て中、老後の備えにまで手が回っておらず、まもなく老後が迫っていることにも気がついていませんでした。
しかし「留学」という突発的な支出について考えた結果、家計を見直す機会を得て対策を知ることができたのです。
このようにお子様のことを大切に想うあまり、ご自分のことを後回しにされている方も多いのではないでしょうか。第2の人生である老後を安心して過ごすためにも、早めの対策を心がけましょう。
この記事を執筆したのは……
金井 優子(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
兵庫県出身、藤沢市在住。新しい分野への挑戦が好きで、CA、フリーアナウンサーを経てFPに。現在は年子男子の育児をしながら、FPとして活動している。出産後の家計管理に奮闘した経験から、子育て世代に寄り添うFPを目指している。