フードロスを法で取り締まる中国の「反食品浪費法」とは?

食品のロス削減は素晴らしいこと。ただそれを法で取り締まるのは中国ならではです。ここでは2021年春に制定された中国の「反食品浪費法」について、立案された背景や人々の反応などを掘り下げていきます。

反食品浪費法とは?

ガッツリ頼んでガッツリ食べるというこれまでの食習慣が変化しそう
2021年4月29日、中国の国会に相当する全国人民代表大会で、食品の浪費を禁止する「反食品浪費法」が可決されました。まずは、32条からなる同法がどういうものか、その主な内容と罰則を見ていきましょう。

■主な内容
  • 公務員の公金による宴会への食品浪費防止の喚起
  • 飲食店、社員食堂、学食、デリバリー、旅行会社、スーパーなど小売店への食品浪費防止の喚起
  • 冠婚葬祭など宴席での食品浪費防止の喚起
  • 一般家庭での食品浪費防止の喚起
  • 食品加工、貯蓄、運輸における浪費防止の喚起
  • 反食品浪費教育の促進
  • 報道機関への反食品浪費法の内容、食品浪費現状や食品浪費対策を伝える報道の展開
  • 大食い暴飲暴食など食品浪費防止を促すようなコンテンツの配信を禁止
■違反した場合の罰則
  • 消費者に過剰に注文させ、廃棄を増やした飲食店には是正を命じ、改めなかった場合、1000元(約1万7千円)以上1万元(約17万円)以下の罰金
  • 食品の生産運営者が深刻な食品廃棄を引き起こし、是正しなかった場合、5000元(約8万5千円)以上5万元(約85万円)以下の罰金
  • テレビやネットなどメディアが大食いなど食品浪費を促進するコンテンツを配信した場合、1万元(約17万円)以上10万元(約170万円)以下の罰金を科し、関連業務の一時停止、休業を命じ、責任者には法的責任を追及
法が施行されてから、中国全国で具体的な取り組みがなされています。

食品の浪費につながるような番組の放映が中止され、大食い動画が削除されました。ある学校においては、生徒の食べ残しが一定量を越えた場合に、その生徒の奨学金を取り消すことを決定。反食品浪費の表示がされていないレストランや、注文時に反食品浪費を促していないレストランへの警告も行われています。

食品のロス削減は素晴らしいことですが、法で取り締まるほど、中国の食品廃棄(※)は多いのでしょうか?

※食品ロスと食品廃棄は別。食品廃棄とは消費されずに破棄されるもの全体を指す。食品廃棄の中で、本来食べられるのに捨てられたものを食品ロスという。
 

中国の食品廃棄量は多い?少ない?

中国の食品の多くは量り売りなので、必要なぶんだけを購入できる
食品廃棄物の年間発生量を主要国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、韓国、中国)で比べてみると下記の通り。

1位 中国 1億300万トン
2位 アメリカ 5640万トン
3位 日本 1700万トン
4位 フランス 999~1327万トン
5位 イギリス 1200万トン
6位 ドイツ 1097万トン
7位 韓国 590万トン
8位 オランダ 232~373万トン

発生量は人口が多ければ当然、多くなります。次に1人当たりの廃棄量を見てみましょう。

1位 オランダ 149.9~222.9kg
2位 フランス 148.7~200.5kg
3位 イギリス 187kg
4位 アメリカ 177.5 kg
5位 ドイツ 136 kg
6位 日本 133.6 kg
7位 韓国 114 kg
8位 中国 75.74 kg

こうして見ると、中国の1人当たりの廃棄量は8カ国のうち最も少なくなっています。

参考:https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html

それでは中国はなぜ反食品浪費法を制定したのでしょうか?
 

反食品浪費法制定の背景1~食料自給率の低下

中国の食生活にかかせない大豆は現在、アメリカからの輸入に依存
年間約1億300万トンという中国の食品廃棄物は、世界の年間発生量のおよそ3分の1にあたるもので、その削減は地球単位でも有意義な取り組みですが、今回の法制定には別の背景があるのです。

一番は食料自給率の低下です。中国は経済発展に伴い、食料の輸入が急増しています。中国の食料自給率(生産額ベース)は一般的に95%以上といわれていますが、公式発表はなく実際は8割、もしくは7割近くまで急落していると考えられています。

そんな中、新型コロナウイルス感染症が世界で拡大し、食料供給に影響が出ることを警戒。また、輸入先であるアメリカとの関係の悪化に伴い、食料供給が不安定化したことから、食料安全保障を強化するために反食品浪費法が制定されたわけです。

ちなみに日本の食糧自給率(生産額ベース)は66%。高いとはいえませんが、主食の米だけは100%を維持しています。また、1人当たりの食品廃棄量もアジアでは最多となっていますが、その半数以上が家庭ではなく、事業主によるもの。

それを改善するために、品質的に問題なくても包装に不備があったり、賞味期限間近だったりする食品を廃棄せずに、子ども食堂やフードバンクに寄付するなど努力をしています。実際、日本と中国を比べて、個人レベルでは日本のほうが食品を大事にしていると思います。
 

反食品浪費法制定の背景2~ゴミ問題

国が処理してくれなければ、マンション敷地内でも公道でも不法投棄。中国のゴミ問題は闇が深い
もう1つは廃棄物問題。いわゆるゴミ対策は中国政府が頭を悩ませる大きなテーマとなっています。中国国内で1年間に排出されるゴミは世界最大の約6億トン。

2019年から徐々にゴミの分別をスタートさせ、2021年から「海外ゴミ」の中国への輸入を全面的に禁止。ゴミの処理を安易な埋め立てから、リサイクルを含む多元的な処理に移行するため施設を建設するなど、ゴミ対策に尽力しています。しかし、ゴミのポイ捨てや不法投棄は相変わらず多く、まだまだ問題は山積みです。

そんな中、反食品浪費法により国内ゴミの総量の6分の1を占める食品廃棄物を削減することは、中国において急務といえます。

ちなみに日本の総排出量は年間4289万トン。人口10倍の中国のゴミが約6億トンであることを考えれば、いかに中国のゴミ排出量が多いかがわかります。
 

反食品浪費法のおかげで、大見栄をきらなくてすむように!

各自食べられる量だけ注文する習慣は、若者を中心に少しずつ広がってきている
反食品浪費法の内容や立案の背景について説明してきましたが、最後に一般の中国人にとって、反食品浪費法がどう感じられているかを見ていきます。

1人当たりの廃棄量を見てもわかる通り、現在の中国人が食品を粗末にしているということは決してありません。日本では外食して余った料理を持ち帰ることを許さないお店がほとんどですが、中国では持ち帰るのが当たり前。そういう意味では効率は悪くありません。

その一方で中国の場合、外食時に「おごる」「おごられる」ことが多く、「割り勘」にすることは若者の間で増えつつあるものの、まだまだ一般的ではありません。
ほとんどのレストランには持ち帰り用の容器(有料)が用意されていて、頼めばパッケージしてくれる
たとえばママ友と食事する場合、相手のママが明らかに年下のときは自主的に「今日はおごる」と言い、相手が遠慮しても無理やり(相手を押しのけてでも)自分がお会計をするのが中国スタイル。オーダーするのはもちろん「おごる側」で、相手の好みを聞きながら、食べきれる量よりやや多めに注文します。もちろんお金を使いたいわけでなく、「見栄を張る」わけです。

それが、冠婚葬祭や接待宴会となればなおさら。ホストがこれでもか!というぐらい料理を用意して、相手をいかに大事に思っているかをアピールする傾向が強く、客側も食べ残しを持ち帰らないことが多いため、大量のフードロスを引き起こす要因となっていました。

それが今回、反食品浪費法が登場したおかげで注文時に店のスタッフが反食品浪費を呼びかけることとなり、法を守るという大義名分のもと過剰な注文をしなくて済むことになったのです。飲食業界は青色吐息でしょうが、反食品浪費法を歓迎している中国人は少なくありません。

日本としても、食まで法で取り締まることに驚きつつ、中国による世界の食糧の「爆買い」が落ち着けば食料価格の安定につながり、喜ばしいことといえるのではないでしょうか。
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