世帯年収730万円。子供の中学受験はできる?
お子様の中学受験。地域差が大きい行事でもありますね。また、受験するとなると教育費の差も大きくなります。
今回は、中学受験を考え始めたご家族のケースを例に、教育費とご夫婦のリタイア後の生活費について考えてみたいと思います。
ご相談内容
中学受験するかどうか悩んでいます。もともと大学まで国公立のつもりだったが、周囲の影響で中学受験も考えるようになりました。しかし、資金繰りを考えていなかったので、次の2点を相談したいです。
- どのくらい費用が必要になるか、中学から大学まで国公立に進んだ場合と、中学から大学まで私立に進んだ場合の比較をしてほしいです。
- 教育費と自身の老後資金を準備したいが、中学受験をする場合どのような方法がありますか?
▼家族構成
- 夫(正社員、35歳)
- 妻(パート、35歳)
- 子供(小学校3年生、9歳)
▼収入
- 夫:年収500万円
- 妻:年収230万円
▼将来の年金、退職金などの見込み
- 夫:厚生年金、退職金500万円
- 妻:厚生年金、退職金なし
▼現状の家計データ
<貯蓄>
- 500万円(このうち100万円は児童手当を貯めたもの。教育資金として別保管)
<支出>
- 生活費:月間約24万円(住居費・教育費・保険費を省く)
- 住居:賃貸、家賃15万円(3LDK)
- 子供の通信教育費:月額5,000円
<保険詳細>
[夫]
- 定期保険:2,000万円(65歳まで保障)=支払い保険料毎月3,500円(27歳から60歳まで)
- 終身保険:500万円=支払い保険料毎月1万円(60歳まで)
- 収入保障:毎月10万円(65歳まで保障)=支払い保険料毎月3,000円(27歳から65歳まで)
- 医療保険:入院給付金1日1万円(終身保障)=支払保険料毎月3,000円(終身)
[妻]
- 終身保険:300万円=支払い保険料毎月6,000円(60歳まで)
- 医療保険:入院給付金1日1万円(終身保障)=支払保険料毎月3,000円(終身)
▼今後の予定・希望
- 夫婦ともに60歳定年予定。夫は65歳まで再雇用で延長可能だが、年収は270万円くらいの見込み。
- 夫の年収は50歳まで前年比2%上昇が見込める。妻の年収は変化なし。
- 妻は同じ会社で正社員になることもでき、その場合は年収350万円の見込み。ただし、受験サポートに力を入れたいので、できればパートのままでいたい。
- 引っ越す予定はないが、子供が独立したら2LDKに引っ越すことも考えている。
- 学校教育以外に塾などの費用として毎年、次の金額を検討
- (大学まで国公立の場合)小学生:通信教育で6万円、中学生:29万円、高校生:28万円
- (中学から私立の場合)小学生:20万円、中学生:25万円、高校生:34万円
- 子供は大学入学以降は一人暮らしを想定
- 家族旅行費として毎年10万円支出
- 子供が独立したら夫婦で旅行を希望(夫45歳から70歳まで2年ごと20万円)
- 夫婦の両親の介護費用は考えなくてよい。
では、これらの条件をもとに、まずはご相談内容1の「中学から大学まで国公立に進んだ場合と、中学から大学まで私立に進んだ場合の比較」をしてみましょう。
お子様が大学まで国公立だった場合
お子様が大学まで国公立に進まれたときのシミュレーション結果がこちらです。
漠然と国公立なら大丈夫だと思われていたそうですが、大学卒業までの学費を負担すると、ご夫婦のリタイア後の資産が足りない結果となりました。60歳では約1,800万円あった資産が4年間で底をついてしまい、100歳まで生存したとすると一生涯で約6,000万円のマイナスとなってしまいます。
▼早めに対策すれば国公立なら大丈夫かも?
ただし、お子様の教育費がかかる時期でも資産はプラスですから、早めに対策を行いリタイア後の生活費を賄うようにすれば、改善できそうです。
たとえば、資産がプラスのうちにつみたてNISAなどで資産を作る、夫が再雇用で収入を得る、などで資産を増やすことができます。また、引っ越して出費を抑えるなどの対策で、退職後の資産減少を改善できる可能性があります。
これらの改善策を行った場合のシミュレーションがこちらです。
水色のグラフが現預金、緑色のグラフが資産運用の金額を表したグラフです。資産運用と夫の再雇用で生涯の資産額を増やし、リタイア後に引っ越すことで資産減少を抑えられる結果となりました。
中学受験をすると?
次に、中学から私立に通った場合のシミュレーションを行いました。
こちらも老後資産が大きくマイナスとなりました。それに加え、お子様の学費が増えたことによる影響で大学進学中に資産がマイナスとなってしまいました。一方で、お子様が大学を卒業すると資産が増えていき、プラスに転じています。
このように、「中学から大学まで国公立に進んだ場合」と「中学から大学まで私立に進んだ場合」を比較してみると、国公立の場合でも改善しなければマイナスが出ること、また私立に進んだ場合はそのマイナスがさらに大きくなることがわかりました。
中学受験をする場合の学費と退職後の準備、どうやって両立すればいい?
それでは、ご相談者のもう一つの質問「教育費と自身の老後資金を準備したいが、中学受験をする場合どのような方法がありますか?」について考えていきましょう。
中学受験のケースでは子の大学進学で資産はマイナスになっていますが、その前から生活費が少ない状況が続いています。ギリギリの状態が続けば、ご家族に何か起きたときにすぐ生活費が足りなくなってしまいます。
出費を見直し、家計を立て直すことも検討してみましょう。
保険も最低限に抑え、解約した資金で学資保険を検討する方法もあります。学資保険は契約できるお子様の年齢上限が決められており、多くは上限を6歳としています。今回は、お子様が9歳ということもあり、学資保険の契約ができないため、10年払いの低解約返戻終身保険を契約したとしてシミュレーションを行いました。
また、国公立の時同様に、つみたてNISAで資産運用も行いました。この運用資産と低解約返戻終身保険は、大学進学に合わせて必要な分を現金化し、学費としました。
教育費が落ち着く50歳ごろからは、リタイア後の資産形成を行っていきましょう。積立投資信託や妻の退職金代わりにiDeCoなどを活用してもいいかもしれません。また、国公立のシミュレーションの際も行った対策と同様、夫の再雇用で生涯収入を増やす、リタイア後に引っ越して支出を減らす、などの対策も効果的です。
▼対策を行えば、中学受験と退職後の準備は両立できる?
下記の対策を行ったうえで、再度シミュレーションした結果、図の通りになりました。
<行った対策>
- 出費を見直し、家計管理を実施
- 保険の見直し(保険を最低限にし、低解約返戻終身保険に入る)
- 資産運用を行う(当初はつみたてNISAで、のちに積立投資信託やiDeCoなどを活用)
- 夫は再雇用で働く
- リタイア後に引っ越し
大学進学とリタイア後の老後資金の準備のタイミングを分けることで、資金がマイナスになることを避けることができました。
まとめ
教育費やリタイア後に向けた資産形成は準備しなければいけない期限が決まっているため、早めの対策が大事です。老後資金の準備を始める時期が早いほど、選べる対策は多くなります。
一方で、大切なお子様の教育費と、自身のリタイア後の老後資金の配分を決めるのも難しい点だと思います。
今回のシミュレーションでは、お子様の教育費が必要になる時期が早かったため、先に教育費の確保に配分を集中し、教育費が落ち着いたタイミングでリタイア後の資金形成を行うことでマイナスを避けることができましたが、世帯によって配分や対策の仕方は変わってきます。生涯の資産のバランスを見ながら、検討してみてはいかがでしょうか。
この記事を執筆したのは……
黒川 一美 (MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
大学院卒業後、IT企業や通信事業者でセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を期に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側に立場が変わり、お金の守り方を知らなかったことを痛感。自分に合ったお金との向かい合い方を見つけるため、FP資格を取得する。資格取得後は、FPの勉強を通じて得られた知識をもとに、よりよい家計管理を求め試行錯誤の日々を過ごす。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。