実は5月に多い「ひょう」
青い空にみずみずしい新緑がよく映える5月。清々しい陽気と安定した天気のイメージがありますが、実は「ひょう」の多い季節です。
ひょうとは空から降ってくる氷の粒のことで、積乱雲と呼ばれる背の高い雨雲のもとで降ります。あられとの違いは大きさで、直径が5mm未満であれば「あられ」、5mm以上の大きなものを「ひょう」と呼びます。
ではなぜひょうは、春から初夏にかけて発生しやすいのでしょう?
春から初夏に「ひょう」が発生しやすい理由
この時季は日差しが強まり地上付近が暖かくなる一方で、上空にはまだ冬の名残の冷たい空気が残っているためです。
地上と上空の気温差が大きくなると、巨大な雨雲が育ちます(画像1)。雲の中でできた氷の粒は通常、そのまま落下し、溶けると雨になりますが、強い上昇気流を伴う積乱雲の中では、なかなか落ちません。小さな氷の粒は激しい対流によって、ぶつかり合い、やがて重さに耐えきれなくなると、ひょうとして落ちてきます。
積乱雲は高さ15km、横幅は数km~10kmくらいの範囲です。1つの積乱雲の“寿命”は30分から1時間程度なので、せまく限られた時間でひょうや落雷、突風など激しい現象を引き起こします。
真夏も積乱雲は発生しますが、春に比べて地上付近の気温が高いので、氷の粒が溶けて雨として降ることが多くなります。また、冬は他の季節に比べて、積乱雲が発生しにくいので、ひょうはあまり降りません。
大正時代にはカボチャ大も⁉ 甚大な「ひょう」の被害
大正時代には埼玉県でカボチャ大のひょうが降ったという記録が残っています。ひょうは大きくなるほど落下するスピードも速まり、直径1cmで時速約50km、直径5cmにもなれば時速約120kmにもなるそうです。こうなると直撃したら怪我では済まないかもしれません。
2000年5月24日には、千葉県や茨城県でミカン大やピンポン玉大のひょう(画像2)が降り、被害が相次ぎ発生しました。学校や住宅を直撃し、割れたガラスなどで負傷した人が約160人にも及んだのです。またひょうが積もって車が動けなくなったため、雪かきならぬ「ひょうかき」が必要になった地域もあったそうです。
3~4cm大の「ひょう」が降った東京・府中市
近年では2019年5月4日に、東京・府中市で3~4cmほどのひょうが降り、東京競馬は悪天候のため第10レース以降が中止になりました。
その日の天気図(画像3)を見ると、本州付近は高気圧に覆われていましたが、東日本から北日本の上空にはマイナス21℃以下の強い寒気が流れ込んでいました。暖かい地上付近との間で気温差が大きく開き、局地的に雨雲が発達しました。
地上の天気図を見ただけでは上空との気温差は分からず、なかなか予測できないところが「ひょう」の厄介なところです。
要注意キーワードは「大気不安定」
では、どんなときにひょうに備えればいいのかというと、天気予報で注意したいキーワードは「大気不安定」です。
通常、冷たい空気は密度が大きく重いので下へ、暖かい空気は密度が小さく軽いため上へと向かいます。しかし、上空に寒気が流れ込み、地上との気温差が大きくなると大気のバランスが悪くなってしまいます。これが「大気が不安定な状態」です。からだの大きさに対し頭が大きい人形をイメージするといいかもしれません。
こうした上下アンバランスな状態を解消するため、冷たい空気は下へ降り、暖かい空気は上へ昇ろうとし対流活動が活発になります。さらに湿度が高いと、ひょうを降らせるような積乱雲が発生します。
ただ、時間の短い天気予報の中ではあまり詳しく話せないこともあります。天気予報は番組の最後にあることが多いため、時間オーバーは許されません。メカニズムまでは解説できなくても短く簡潔なコメントで注意を呼び掛ける必要があります。テレビやラジオの天気予報の中で気象予報士が「大気の状態が不安定」というワードを使った時は、天気の急変に十分な注意が必要です。
今年は季節の進みが早く、農作物の生長が早いため、ひょうが当たると被害が大きくなりそうです。また、ひょうが降るような積乱雲のもとでは、落雷や竜巻などの激しい突風も同時に起きるおそれがあります。周囲が突然暗くなる、ゴロゴロとした雷の音が聞こえる、急に冷たい風が吹く、これらは積乱雲が近づき天気が急変するサインです。空模様の変化に気づいたら、すぐに頑丈な建物の中へ避難し、安全を確保するようにしましょう。