現役国家公務員の「残業代」支払い実態調査……最も正確に支払っていない省庁は?

ワーク・ライフバランスは現役国家公務員を対象に「コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査」を実施しました。「単月100時間」超の時間外労働などが問題となり、1月に「残業代全額支払い指示」が出たあと、現状はどのように変化したのでしょうか。

人事院の発表によると、2019年度には6名の国家公務員の過労死が発生、2021年3月22日には厚生労働省で投身自殺未遂事件も起きています。2020年8月にワーク・ライフバランスが発表した調査では、回答者の約4割が「過労死レベル」である「単月100時間」を超える時間外労働をしていたことが明らかとなりました。

ワーク・ライフバランスは4月22日、「コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査」の結果を発表しました。同調査は、20~50代以上の現役国家公務員、男女316名を対象に、2021年3月16日~4月5日の期間でインターネット、SNSにより実施。

省庁別回答者内訳

年齢別回答者内訳は、20代が141名(44.6%)、30代が124名(39.2%)、40代が45名(14.2%)、50代以上が6名(1.9%)です。20~30代の回答者が多かったのは、SNS等でアンケートが拡散されたこと、特に若手~中堅層の課題意識が強いこと、残業代の対象ではない年齢層が回答を控えたことなどが推察されます。
 

残業代が正しく支払われていない割合が高かったのは「財務省」

2021年1月22日の河野太郎国家公務員制度担当大臣の会見で、国家公務員の超過勤務手当に関し「残業時間はテレワークを含めて厳密に全部付け、残業手当を全額支払う」と語り、麻生太郎財務相の理解を得たと説明しました。この1月の指示後、3月の調査では、残業代がすべて正しく「支払われた」と回答した人は61.4%。「支払われていない」と回答した人は28.2%でした。

1位は「財務省」、2位に「厚生労働省」

「支払われていない」と回答した人の割合が高かったのは、財務省(支払われていない73%)、厚生労働省(支払われていない52%)、総務省(支払われていない45%)でした。

「正しく支払われていない」と回答した人からは、「年度末で超勤予算が枯渇し支払えないと言われた」(総務省、40代)、「テレワークは国際会議等の理由があれば残業がつくが、基本的に認められないと言われた」(財務省、20代)、「3割支給されている程度で前と全く変わっていない。噂では、予算がないからとのこと」(厚生労働省、40代)などのコメントが見られました。

逆に、最も正確に支払われていたのは環境省(支払われた90%)と内閣官房(支払われた86%)でした。
 

残業代不払いに約7割の人が「諦め」、転職を考え始めた人は約3割

7割以上の人が「諦め」を感じている

2021年1月に残業代全額支払いの指示があったにも関わらず、正しく支払われていないことによって起きた自身の心境の変化として、「結局は変わらないという諦めの気持ちを感じた」が71%と最も多く、次いで、「支払われている他の省庁・部局をうらやましく感じた」(52%)、「仕事へのモチベーションが、より下がった」(42%)でした。

残業代が正しく支払われないことにより、「辞めたいと思うことが増えた(思うようになった)」人は33%、「転職先を探し始めた」人も26%でした。
 

国家公務員の働き方、労働環境の実情……世論により改善された点も

残業代に限らず、働き方や労働環境、評価制度などについても多くのコメントが挙げられました。

「年次によって自動的に管理職になる仕組みを見直してほしい。管理職としての能力(業務能力や職員の管理能力など)があるとはとても思えないような人が管理職になるケースが散見される」(厚生労働省、20代)、「女性や子育て、介護などをしている職員が働ける環境にない。職場に対する信頼感が持てず、やめることばかり考えてしまう」(総務省、30代)、「パワハラで辞めていく同期はもう見たくない」(内閣府 20代)、「子持ち女性はアテにされず、育成対象にもなりにくく、形ばかりの女性活躍となっている」(厚生労働省、40代)

逆に、ここ数年で良くなったと感じられる点もあるようです。「ブラック問題が取り上げられるお陰で、この一年の間でも意識は変わり、働きやすくはなったと思う」(国土交通省、40代)、「コロナによりテレワークが普及し始めている。テレワークがなければ、平日に家族と夕飯を食べる経験はできなかった」(国土交通省、30代)、「幹部の意識がここ一年で大幅に改善された。世論のおかげ」(国土交通省、20代)など、世論の高まりから働き方に変化を感じるというコメントも見られました。

国会会期中に発生する国家公務員の残業代は約102億円、タクシー代は約22億円と試算されています。もし、国会議員が質問通告を2日前に終え、基本的なデジタルツールを使って対応するだけで、年間248億円もの財源を国民に回すことができるため、国家公務員だけの問題ではなく、国民全体の問題と捉えられます。中央省庁の長時間労働問題を通して、その原因となる議員の行動に目を向けることが必要だといえるでしょう。

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