女はほどほどに勉強して、笑顔で男の隣に居ればいい?「愛される女性像」を演じ続けたお嬢様の決断

「わきまえている女性」、「女性というにはあまりにお年…」など森喜朗氏の度重なる失言に加え、記憶に新しいところでは『報道ステーション』のCMが炎上するなど、このところ女性蔑視に関する炎上が後を絶ちません。でも、ふと身近な出来事を振り返ってみれば、、男女平等の道を閉ざしている原因は女性自身にも……?

「わきまえている女性」、「女性というにはあまりにお年…」など森喜朗氏の度重なる失言に加え、記憶に新しいところでは『報道ステーション』のCMが炎上するなど、このところ女性蔑視に関する炎上が後を絶ちません。でも、ふと身近な出来事を振り返ってみれば、男女平等の道を閉ざしている原因は女性自身にも……?

父親のひとことに、自分が置かれている立場を実感

神奈川県在住の百合香さん(仮名・37歳)は、都内の有名女子大学を卒業後、大手企業で実績を重ねているキャリアウーマン。今でこそ彼女は声を大にして「女だ、男だ、とジェンダーで差別をするのはおかしい」と叫べますが、十数年前まで、彼女は自ら進んで男尊女卑に甘んじていたといいます。
 

「我が家は『父の言うことが絶対』という家風でした。父は当時、某大企業の役職に就いていたのですが、私自身、物心がついた頃には、働いてお金を稼いでいる父は偉い人、父からお金をもらって生かされている母は普通の人、そんな空気が家の中に流れていたんです。父が私を溺愛していたので、私自身は他の兄弟と差別されることなく済みましたし、生活に不満に感じたことがなかったのですが、心のどこかであざとく『父の機嫌を損ねなければお小遣いがもらえてラクに暮らせる』『父から可愛がられていさえすれば、母のような生き方はしないで済む』そんな風に思っていました」

「バカっぽいから、これみよがしなブランド物は持つな」

そう父親から諭され、百合香さんはタグやアイコンが目立たない服やバッグを選ぶようになっていました。

「女はほどほどに勉強すればいい。新聞なんて読む必要はない」

そんな父親の言葉を受け、家で新聞を読むのをやめ、代わりに学校帰りに最寄りの図書館へ通いました。

「女の子は、ニコニコ笑って、男の隣に座っていればいい」

こうした父親の言葉に従い、自室以外の場所ではただひたすら笑顔を作り、“穏やかで優しいお嬢さん”を演じていたといいます。
 

「でもね。毎日毎日がすごく疲れるんです。やる気もどんどん削がれていく感じで。なんていうか……父の言葉にどんどん縛られていくっていうのかな。初めは飛べていたはずなのに、どんどん飛べる高さが落ちていって、しまいには地べたスレスレを飛んでしまっていたような、閉塞感と重苦しさに苛まれる日々でした」
 

大学時代に出会った友人の言葉で、すべてが変わった

そんな百合香さんに転機が訪れたのは、大学2年の春。たまたま隣の席になって知り合った欧米系ハーフの友人の家に遊びに行ったことがきっかけで、「私はおかしい。私の家はおかしい」と気付いたといいます。
 

「彼女の家に遊びに行ってまず一番に驚いたのは、掃除も、炊事も、もちろん洗濯も、お父さんが率先してやっているということでした。素敵な焼き菓子と愛らしいティーセットがテーブルに並んでいたんですが『遠慮しないでね。お父さんの力作だから! このティーセットもね、お父さんが若い時に自分で揃えたものなんだって。可愛すぎて似合わな~いっていつもお父さんをからかってるんだよ!』って友人に言われて、もう本気でびっくり。私の父が台所に立つなんてありえないし、食器なんか見向きもしないタイプなので、まさか男性がそんなことをするなんて思いもしなかったんです」
 

しかもその友人のお父さんは、百合香さんの父親とは比べ物にならないほどの高学歴・高収入で社会的地位も高い人。それをハナにかけることもなく、気さくな笑顔で初対面の百合香さんに接してくれました。思わず疑問をぶつけると「愛する妻と娘のために、僕ができることはなんでもするに決まっているでしょう。そもそも、家事をしなかったら何をすればいいの? 遊んでいるだけ? 寝ているだけ? そんな無駄な暮らし、僕にはとてもできないよー!」と穏やかに語る友人の父親を見て、たくさんのウロコが目からボロボロと落ちていく気がしたといいます。
 

「私は思わず、友人とその家族に自分が置かれている境遇を打ち明けていました。父の言葉に縛られ、お嬢さんを演じていること。その違和感に気付いてはいても、何もできないでいること――『可哀想だったね』『辛かったね』そんな言葉をかけてくれると思っていたのですが、友人のお父さんは全て聞き終わった後、笑顔でこう言ったんです。『そう。それで、君は、これからどうしたいの?』って」
 

愛されたいためだけに「相手が望む私になる」のは間違っている

「どうしたいの?って聞かれた瞬間、私はこれまで何をしていたんだろう?本当は何をしたかったんだろう? そんな想いが、ぐわーっと心の底から溢れてくるような気がしました。父の機嫌を取っていれば幸せ。父の言うことを聞いていれば間違いない。そんな風に考え、父が望むように行動し、父を増長させていたのは私自身だったんだ。私は、私が何をしたいのか、きちんと考えるべきだったんだ。そう思ったら、不思議とパワーが湧いてきたように思います。

『私は、父と対等な人間として向き合いたいです』と友人のお父さんに答えたら『そのことに気付けたのなら、君はもう大人だね』って笑顔で言われて。恥ずかしい話ですが、大声でわんわん泣いちゃったんですよ」
 

その後、家で新聞を読むことから始め、無理して笑顔を作ることなく、自然体で暮らし始めた百合香さん。その変化に父親は戸惑った様子で「何かあったのか!?」と聞いてきましたが「男だから、女だから、っていうんじゃなく、私らしく生きることにしただけ」とそっけなく答えました。
 

「『女が生意気なことを言うな!』って怒られるかと思って身構えていたんですが、父はなんだかうなだれたような表情で『そうか。もうそんな時代か……』って言ったんです。それを聞いてびっくり。その日から父は家の中で偉ぶることをしなくなり、母の買い物にいそいそと付き合い、たまの週末には親子丼を作ってふるまってくれるようになりました。そのときようやく気付いたんです。父もまた、父の両親や彼らを取り巻く“社会”によって、偉い父親を演じさせられていたんだなって。後から母にコッソリ聞いたところ、父は母と寝室に入ると、『いつもありがとう』って伝えていたようです。『それ、最初に言ってよー』って。某CMみたいなセリフが思わず出ちゃいました(笑)」
 

「愛されたいから、相手が望む自分になる」ことをやめたことで、新しい道が拓けたという百合香さん。今は家族円満で「とても幸せ」なのだとか。真の男女平等を得るためには――愛されなくても自分を貫く覚悟が必要なのかもしれません。

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