加藤シゲアキに又吉直樹……文学界で目立つ芸能人の台頭

3月2日、NEWS・加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社刊)が吉川英治文学新人賞を受賞した。同作は昨年の第164回直木賞にノミネートされ、「スポ根もののような料理対決が残念」(林真理子)、「異言語を無理に読んでいるよう」(浅田次郎)と一部の選人には酷評されたものの総合で次点につける高評価を得て話題になった長編小説。
 

吉川英治文学新人賞を受賞した加藤シゲアキの『オルタネート』(新潮社刊)
加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社刊)


加藤に限らず近年の文学界でやたらと目立つのが芸能人の台頭。以前から作詞家や脚本家、ミュージシャンが作家活動を始めて評価されるということはよくあったが、2010年代以降はアイドルやタレント、お笑い芸人などこれまで“文学的なイメージのなかったジャンルの人々”までもが積極的に作家活動を始めている。

第28回三島由紀夫賞にノミネートし、第153回芥川龍之介賞を受賞したピース・又吉直樹、第3回斎藤茂太賞を受賞したオードリー・若林正恭、第5回ポプラ社小説大賞を受賞した水嶋ヒロ、第29回山本周五郎賞にノミネートした押切もえ、またノミネートや受賞こそないが、乃木坂46・高山一実元SKE48・松井玲奈なども大きな注目を集める芸能人作家だ。
 

芸能人の台頭には少なからず批判的意見も

この傾向は文学界からは必ずしも歓迎されているわけではない。2015年の第29回山本周五郎賞を押切と競り合った末に受賞した作家の湊かなえは受賞記念エッセイ『山本周五郎賞とは』で、「文芸の外の人が2作目なのに上手にかけているという、イロモノ扱いのままで審査された作品と僅差だった。そのような結果が原動力になるという小説家がいるでしょうか」と賞の選考を痛烈に批判。既存の文学ファンも芸能人文学に対し、視点や企画力はともかく、文章のクオリティー面で物足りなさを指摘することが多い。

とはいえ、長い出版不況、活字離れの風潮の中で、なんとかして売れる作家を引っ張ってこなくてはならないのも文学界の大課題だ。また人気芸能人の受賞はこれまで文学に興味のなかった若年層にうったえかけるまたとない機会になるだろう。

この記事を読んでいる読者の中にも加藤や又吉の受賞を機に文学に興味をもったという方は多いはずだ。そこで本記事後半では、そんな皆さんに向け、日本の主な6つの文学賞とその発祥、傾向、近年の受賞作家・作品について簡単にご紹介したいと思う。
 

1:『直木三十五賞』

1935年、『南国太平記』などで知られる直木三十五を記念して、友人で文藝春秋社社長だった菊池寛が創設。一般に直木賞と呼ばれ、年2回発表される。

脚本家、映画監督としても活躍した直木にちなんで、エンターテインメント性の高い大衆小説に与えられる傾向がある。戦後は中堅、ベテラン作家の受賞が主になっていたが、2013年第148回では当時23歳の朝井リョウが『何者』で最年少受賞を果たす。
 

2:『芥川龍之介賞』

1935年、『羅生門』『河童』などで知られる芥川龍之介を記念して、友人で文藝春秋社社長だった菊池寛が創設。一般に芥川賞と呼ばれ、年2回発表される。

主に新人作家による短編、中編の純文学作品が対象。2003年第130回の綿矢りさ『蹴りたい背中』、2020年第164回の宇佐見りん『推し、燃ゆ』のように若年作家の作品が受賞して話題になることが多い。2015年第153回の又吉直樹『火花』(文藝春秋刊)の受賞も記憶に新しい。
 

3:『吉川英治文学賞』

1962年に『宮本武蔵』『新・平家物語』などで知られる吉川英治の寄付金を元に創設された『吉川英治賞』が1967年、公益財団法人吉川英治国民文化振興会、講談社に移管され現在の形に。年1回発表される。

ベテラン作家による大衆小説に与えられる傾向がある。2010年代以降の主な受賞作家・作品に2014年第48回の東野圭吾『祈りの幕が下りる時』、2016年第50回の赤川次郎『東京零年』など。新人、中堅作家を対象とした『吉川英治文学新人賞』も並行して運営されている。
 

4:『山本周五郎賞』

1988年に『日本文学大賞』の後継の文学賞として、新潮文芸振興会、新潮社により創設。 年1回発表。『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』など時代小説、大衆小説で知られる山本周五郎にちなんで、エンターテインメント性の高い大衆小説に与えられる傾向がある。

また直木賞を意識した選考がなされているという指摘も多い。2016年第29回の押切もえノミネートは大きな話題になった。
 

5:『三島由紀夫賞』

1987年に『日本文学大賞』の後継の文学賞として、新潮文芸振興会、新潮社により創設。 年1回発表。主に新人、中堅作家による純文学作品が対象。

芥川賞を意識して設けられたといわれるが、『仮面の告白』『金閣寺』などセンセーショナルな作品で知られた三島由紀夫の影響か、よりエッジのきいた作品に与えられる傾向がある。2020年第33回、21歳の宇佐見りんが『かか』で最年少受賞を果たす。
 

6:『本屋大賞』

2004年にNPO法人・本屋大賞実行委員会により創設。年1回発表。「全国書店員が選んだ いちばん! 売りたい本」というキャッチコピーのもと全国の書店員のオンライン投票により選出するスタイルは、出版社が主宰し、作家が選考委員を務める既存の文学賞とは一線を画している。

2020年第17回はBL作家としても知られる凪良ゆうの『流浪の月』が受賞。
 

ここに挙げたものは数ある文学賞のうちのほんの一部だが、スポンサーとなっている出版社や選考の傾向を比べると、文学界のユニークな構図が見えてくると思う。

文学は時代を映す鏡であると共に、かさつきがちな人の心に潤いを与えるサプリメントでもある。今後、各文学賞がどのような作家・作品を世に出そうとするか楽しみにしたい。

参考
公益財団法人日本文学振興会(https://www.bunshun.co.jp/shinkoukai/)
吉川英治文学賞 講談社(https://www.kodansha.co.jp/award/yoshikawa_bg.html)
山本周五郎賞 新潮社(https://www.shinchosha.co.jp/prizes/yamamotosho/)
三島由紀夫賞 新潮社(https://www.shinchosha.co.jp/prizes/mishimasho/)
本屋大賞(https://www.hontai.or.jp/)