先ごろ、お惣菜やカット野菜などの自社ブランド食品に『お母さん食堂』というロゴを入れたファミリーマートに対し、「性的役割分担の固定化につながる」として高校生が署名活動を行い、ネット上に賛否両論の声があがりました。2020年末までの期間限定で署名が投げかけられ、目標とする1万票には及ばなかったものの7000を超える票が集まるなど関心を集めましたが、この事象、リアルなお母さん世代の女性や子育て世代の男性はどんな印象を持ったのでしょう。
お母さん=賄い婦、という構図に嫌悪感
東京在住の芹菜さん(仮名・56歳)は、今回のことで高校生の声に共感し、署名を行ったひとりです。
「私自身、ふたりの子どもを持つ母親ですが、我が家は共働き世帯で、料理や子どもたちの食事の世話は夫の役割になっています。古い価値観の中では確かに、父親がお金を稼ぎ、母親がその稼ぎをやりくりして子どもにごはんを食べさせる“お母さん=賄い婦”的なイメージがあるのでしょう。でも、今は、男女ともに働き、稼ぎ、家事をまわすことが当たり前の世の中なんですから……」
「こうした古い価値観を押し付ける風潮がある限り、女性の家事負担が減ることはなく、『子どもを産み育てるのが母親の務め』という古臭い意識はなくならないのだと思います」と、芹菜さん。
大阪府にお住まいの純玲さん(仮名・39歳)は、今回の署名には参加しなかったものの、高校生たちの反応に「よく言った!」と感じ、応援感情が芽生えたといいます。
「『お母さん』という表現は嫌いじゃありません。『お母さん食堂』についても、とりたててオカシイとは思いません。でも、その言葉を今、使うの?という疑問が湧いていたんです。母親というイメージに、温かさや優しさがあるのだろうと思います。でも、女性も男性に負けずに働かなければ、家族の生活が立ち行かなくなっている時代にあって、このネーミングは……。ああ、ファミマって感覚が古いんだな~としか思えません。まぁ、話題になったという意味ではファミマの戦略勝ちかもしれませんけどね」
「母親がエサを与える」ことは、野生の名残り!?
『お母さん食堂』を擁護する女性の中には、こんな持論を唱える方もいました。
「性的役割分担の固定化を問題視していますが、それっておかしいのでは?と思うんです。たとえばコウテイペンギンは、雌がエサを取りに行き、雄が卵を守りますよね。ライオンも雌が狩りをして食料を確保しています。このように、ジェンダーの概念がない野生動物でも、女性が子どもたちに運ぶ例が多数見受けられるんです。これってつまり、性的な役割分担ではなく、単純な“役割分担”なのではないでしょうか。
そもそも、料理を作ることを得意とする人が作ればいいわけで、たまたま女性に比重が傾いているだけ。それに、『お母さん食堂』と名付けた人たちも、別に、女性を蔑視する意図はないのでは?と思いました」
そうコメントを寄せてくださったのは、神奈川県在住の万葉さん(仮名・35歳)。
ただし、「だからと言って、女性に家事負担が重くのしかかっている現状はおかしいと思います。男性も進んで料理や洗濯、掃除をし、女性と平等に家事育児を負担するべき。『お母さんはやってくれたのに!』というような逃げ道は作らないでほしいと思います」と、女性に家事育児の負担が偏っている状況には懸念を抱いています。
『お母さん食堂』は、女性へのリスペクトでは?
「『お父さん食堂』って言われるより『お母さん食堂』のほうが、美味しそうなイメージがある。それだけじゃ、ダメなんですか?」
そう語るのは、東京都在住の隆司さん(仮名・32歳)。
「僕は『お母さん食堂』っていうのは、女性をリスペクトした名付けだと思うし、なぜ反対運動が起こるのか理解できません。どうしたって、母親と父親で役割が違います。男には子どもを産むことができませんし、母乳を出すこともできません。女性のように、生活の中での細かな変化に気付くことも難しく、どんなに頑張ったとしても、同じ役割を果たすことはできません。それくらい、女性の役割は大きいんです。だから、自分の妻子が元気に暮らしていけるよう、働いてお金を稼ぐことが、男にできる精一杯のことなんです。これは『性差別』ではなく、単純な『区別』だと思います」
意見の交錯。これが未来の日本を作る鍵になる
ネット上ではジェンダー論を交えて様々な意見が飛び交い、なかには過激な意見も見られました。こうしてお話を伺っても、反対派も肯定派、それぞれに思うところがあり、「お母さん」という言葉をどのように捉えているかによって、感じ方が違うのだと知ることができたように思います。
ただ、芹菜さんや万葉さんがおっしゃるように、共働き世帯が当たり前となった現代社会において女性のほうに家事負担がのしかかっているのに、「稼ぐ役割」のみにあぐらをかいている男性が多いのも現実です。
今回のような議論が起こることは、男女ともに考えをめぐらせる機会になります。
男女差別なく、女性が暮らしやすい未来につなげるためにも、「高校生がナマイキなことを!」と意味不明に切り捨てるのではなく、なぜ高校生がこのような意見を持ったのか、これからどうしていくべきなのか、大人世代がしっかりと考えていくことが大切なのではないでしょうか。