なぜ?関西のカラオケスナックで歌われる、韓国の演歌や民謡

K-POPブーム以前にも、韓国音楽は日本に浸透していた? 1970年代からの「黄色いシャツ」「カスマプゲ」「釜山港へ帰れ」などのヒットや、サパークラブ、カラオケスナックでの音楽的交流をふり返る。

K-POPブーム以前、日本で親しまれた韓国の音楽

サパークラブ・コーヤンのマッチ
サパークラブ・コーヤンのマッチ

2000年代の東方神起KARA少女時代らの活躍と近年の防弾少年団の世界的ブレイクですっかり日本に浸透した感のあるK-POP

しかし韓国の音楽はもっと以前から日本で独自のマーケットを形成していた。ザ・フォーク・クルセダーズによって「イムジン河」(1968年)が歌われたのを皮切りに「黄色いシャツ」(浜村美智子 1972年)、「カスマプゲ」(美川憲一 1976年)、「釜山港へ帰れ」(渥美二郎 1983年)などさまざまな韓国の楽曲が日本人歌手にカバーされヒットをおさめていたし、李成愛キム・ヨンジャチョー・ヨンピルら韓国の人気歌手が定期的に来日し人気を集めていたのだ。

1970年代から1980年代の日本における韓国音楽の発信源として、サパークラブカラオケスナックなどの飲食店の果たした役割も見逃せない。クラブ歌手として来日する韓国人は多く、在日韓国人が経営するカラオケスナックではもちろん韓国の楽曲が歌われた。その名残で今でも関西のカラオケスナックでは韓国の演歌や民謡を原語で歌う人が一定数存在するし、聞く限り、東京はじめ各地の大都市でも同様のようだ。
 

サパークラブやスナックで歌われた、韓国音楽

その頃の韓国音楽の普及状況について、1970年代から1980年代にかけて韓国音楽ファンだったという元・飲食店経営者の仲島千秋さん(神戸市在住 73歳)にお話をうかがった。

ジョン・ミンのカセット
左:サパークラブ・コーヤンのマッチ
右:ジョン・ミンが手売りしていたカセットテープ

ーーー 仲島さんが初めて韓国の音楽を意識したのはいつ頃ですか?

仲島: 1970年代後半です。当時、神戸・三宮の「コーヤン」という韓国系サパークラブでジョン・ミンさんという歌手が「鳥打令(セタリョン)」を歌うのを聴いて興味をもちました。

ジョン・ミンが手売りしていたカセットテープ
カセットテープの曲目

民謡なんですが、日本にはあまりない独特のリズム感で音楽的におもしろいなと思いました。他にも「花打令(コッタリョン)」「太平歌(テピョンガ)」などがよく歌われていました。

※韓国のテレビ番組で歌われる「鳥打令(セタリョン)」
https://youtu.be/5e5oK0YLwOI
 

ーーー 韓国民謡は新鮮なんだけど懐かしさもあって面白いですね。近い国だからこその感覚かもしれません。

仲島: そういえば当時のサパークラブでは曲のつなぎに「五木の子守唄」(熊本民謡)が演奏されていて、なぜかと聞くと韓国人のバンドマンは決まって「これは韓国の曲だ」と言っていました。その点は事実と異なると思いますが、なにかお互いに好きになる要素があるんでしょうね。
 

ーーー その頃、日本で韓国の音楽はどれくらい受け入れられていたのでしょうか?

仲島: 「黄色いシャツ」「木浦の涙」「カスマプゲ」などは歌謡曲の延長としてとても流行っていましたね。サパークラブで演奏されるのもメインはそういった歌謡曲なんですが、たまに民謡もやってくれました。韓国民謡は日本人にとってはマイナーで、在日の人や一部のファンが聴いていただけだと思います。
 

ーーー 「一部のファン」というのが仲島さんのように飲食店で演奏を聴いて好きになった人たちですね。

仲島: はい。私は神戸や大阪のことしかわかりませんが、ジョン・ミンさんには大勢のファンがいて、その後「パコタ」という韓国スナックも経営されていました。サパークラブやスナックで韓国民謡にふれて好きになったという人は多かったと思います。

また、韓国に旅行をして音楽を覚えて帰ってくる人も多かったですね。

今は亡きジョン・ミン氏が経営していた韓国スナック、パコタのマッチ。同店はすでに閉店している

ーーー そういう草の根的な活動、交流の成果が今もカラオケ文化の一つとして残っているわけですね。

仲島: そうですね。カラオケが普及したからか、昔よりもむしろ今のほうがよく歌われている気がします。

◇ ◇

音楽の正史にはけっして残らないだろうが、韓国音楽が日本に流入してきたごく初期の状況についての仲島さんの証言は非常に興味深かった。こういうお話を聞くと音楽の広まりはレコード会社やメディアのみによるものではなく、人間同士の交流によるものも大きいのだということがよくわかる。

1970年代よりもはるかに日韓の交流が深まった現代。今後も人々の交わりの中でさまざまな音楽が互いの国に伝わってゆくことだろう。

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