魂を継いで心を燃やせ!『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』

公開中の映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の勢いが止まらない。鉄道、闇、そして闘いと誰もが引きつけられるモチーフで演出されているが、作品の魅力はそれらをはるかに超えた登場人物たちの魂そのものにある。まさに心を燃やし心を震わせる、圧巻の117分だ。

日本中の心を熱くする『劇場版鬼滅の刃 無限列車編』
画像はAmazonよりノベライズ

大正時代を舞台に、人間を食う鬼とその鬼を退治する鬼殺隊との闘いを描いたマンガ『鬼滅の刃』。主人公は家族を鬼に殺され、唯一生き残ったものの鬼となった妹の禰豆子(ねずこ)を人間に戻すため、鬼との闘いに挑む竈門炭治郎(かまど たんじろう)だ。壮大な闘いの物語は炭治郎たち剣士の成長の物語でもある。映画化された無限列車編は作品の一部ではあるが、日本中に熱いメッセージを届けてくれる素晴らしい作品だ。
 

まっすぐな言葉が胸を刺す! 心を燃やして涙する劇場版

雑誌の表紙を飾る登場人物たち
画像はAmazonより『日経エンタテインメント!』

列車が舞台になる物語は多い。「ミステリアスな雰囲気を演出してくれるのかもしれない」とか、「個性あふれるキャラクターの闘いが興味深い」など、勝手な想像を膨らませていたが、作品の魅力はそんな当然の要素におさまるものではない。
 

アンアンの表紙も飾った炭治郎と煉獄杏寿郎(れんごく きょうじゅろう)
画像はAmazonより

心が揺さぶられるのは、作品の魂そのものにである。これを可能にしたのは、映像技術、音楽、アクションの見せ方など、アニメ映画を超えた演出もあるが、なんと言っても圧倒的な声優たちの熱量と技だろう。プロとはこういうことなのかと、何度も感心したものだ。

生の舞台では演者の緊張や躍動が空間を超え不思議と伝わってくるところに、大きな感動があるが、画面の向こうの人物に、聞こえてくる人間の声にこんなにも心が震えるものなのか、奮い立つものなのかと改めて感じ入ったものである。

もちろん光る台詞があってこそだ。観客の想像にまかせるとか、さまざまな解釈が成立するとか、そんな抽象的な言葉をこの作品は選ばない。まっすぐに潔く生きた言葉で届けてくる。だからカッコいい。

人間であることの尊さ、生きること死ぬことの尊さを唱える言葉には、哲学の領域ではないのかと思うほどの洞察力と思考の深さを感じるが、メッセージは非常にシンプルだ。彼らの言葉は、少年漫画を超えて全世代が受け止められる言葉。未来を継ぐ若い世代に、子どもを育てる世代に、ひとりでも多くのひとに観てほしいと思うばかりだ。

作品はぜひ最後の最後まで見てほしい。LiSAの『炎』を聴きながら、祈るように作品に寄り添うことができるだろう。
 

非日常を堪能しながら、どこか親近感を覚える鬼退治

炭治郎と禰豆子の兄妹愛も大きな魅力
画像はAmazonより

アニメを映画館で観るのは実に久しぶりだったが、その進化には驚いた。シニア世代をはじめ、長らくアニメを映画館で観ていない人はぜひ確認してほしい。夜の風景、闇の深さは怖くも美しく表現され、日本の美意識が継承されている。大正時代の湿度と日本に根付く怖さの描き方も鮮明だ。アクションシーンの躍動感は最新の技術が生きている。スクリーンの素晴らしさを改めて堪能できる。

描かれる非日常の世界には、どこか親近感を覚えやすい。”全集中”というわかりやすい響きもいいし、さまざまな”呼吸”による技の登場にもワクワクするが、その重要性は私たちが日常感じていることで、共感しやすいことも作品の魅力と言えそうだ。ここぞという時に「全集中!」と言いたくなるから不思議である。

また、鬼と人間を対比させる描き方もみごとだ。冷酷でありながらも何かに怯えているかのような鬼たちの深いところには、かつての人間の心が微かに残っているのだろう。永遠の命を手に入れても、その怯えから永遠に解放されない切なさははかりしれない。鬼の背負う切ない運命をていねいに描きつつ、そこで判断し決断していく鬼殺隊の剣士たちもまた切ない。強くあるということの本当の意味をここでも考えさせられ、それは現代を生きる私たちにも通じるものがあるようだ。
 

闘うことは運命ではなく責務である。若きリーダーに心が震える

炎柱・煉獄杏寿郎の言葉を聞き逃すな!
画像はAmazonより

作品の魅力は圧倒的な強さを有する鬼殺隊の「柱」と呼ばれる9人の剣士の存在だ。彼らのミッションは想像を絶するものだが、運命ではなく責務だとする若き剣士たちは、リーダーとしての意識も高い。今回の劇場版に登場するのは炎柱の煉獄杏寿郎(れんごく きょうじゅろう)。作品は人間賛歌であると同時に彼への賛歌とも言えるだろう。まっすぐに心を燃やし、人間であることへの誇り高き姿勢はぶれることがない。老いに対する想いまでも、この青年はぶれない。

柱という重責をまっとうする彼らは20代前後である。炭治郎たち若き剣士がそうであるように、彼らもまだ青春を謳歌する年ごろだ。そんな彼らの青春を想うと頭が下がり、涙が止まらなくなった。リーダーとしてまっとうする意味を彼らは十分に知っている。その姿に私たち大人が学ぶべきことは多い。

予備知識なしで観ても十分楽しめるが、劇場版に至るまでの物語を知っていると、さらに理解が深まり楽しめることだろう。感染対策をしっかりとって、ぜひ映画館で楽しんでほしい作品だ。

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