アメリカ、ヨーロッパ、アジア、世界中の風景に溶け込んでしまうのが三浦春馬だ。好奇心旺盛な瞳とすべてを受け入れる何ものにも染まらない澄んだ心、そしてすべてのひとの想いに寄り添う奥深さを持っている。旅人としての三浦春馬はとても魅力的で、こんな空気をまとったひとを、ちょっとほかには思いつかない。
そんな魅力は彼の作品からも感じとれる。
どんな小さなことばにも命を吹き込む心地よさ
三浦春馬のことばは印象的だ。「ごめん」「大丈夫」「え?」「うん」短い台詞をとても大切にしていると感じる。相槌にすぎない台詞もあれば、流れからふとこぼれただけのような短い単語もあるが、どんな小さなことばにも彼はやさしく命を吹き込む。しかも、いたってさりげなく自然体で。それらは非常に心地いい。
『君に届け』がブームとなった当時、男女に人気があると聞き驚いたが、三浦春馬が演じる風早くんを観て、納得したことを覚えている。360度さわやかだが、決して八方美人ではない風早くんは、とてもやさしかった。小さな小さなことばを受け止め、小さな小さなことばを大切にしていた。三浦春馬が演じたからこそ、風早くんのことばは心地よかったのだろう。
その秘密は、三浦春馬の声じゃないかとか、1/fの揺らぎがあるはずだとか、自分なりにいろいろ探ってみたが、結局こたえは見つからず。ただ三浦春馬の心地よさはこの作品に限ったものではなく、彼自身がことばをとても大切にするひとなんだと思っている。
そばにいるひとを輝かせる、しなやかさ
三浦春馬と共演する女性たちは、みんな輝いている。彼自身も圧倒的なオーラを放つ俳優だが、女優たちの匂いを引き出すことが本当に巧い。彼のしなやかさを感じる。たとえばそれは、2018年の『tourist ツーリスト』だ。3部作の構成は各作品でヒロインが違うのだが、相手の話に耳を傾ける彼の仕草がいい。距離を置いたり縮めたりしながら、彼女たちの内面を引き出す不思議なチカラを感じる。
もちろん、ミステリアスな雰囲気と彼の艶がふんだんに織り込まれ、三浦春馬だからこその刺激的な作品で、横顔、昼の顔と夜の顔、少年のような眼差しを見せたかと思うと、刺さるような視線も向けてくる。ことばのないところでも、空気の重さを操っているかのようで、新しい三浦春馬にあふれている。
映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』でも高畑充希の持つ真っ直ぐでチャーミングな表情を三浦春馬がグイグイと引き出している。『ラスト♡シンデレラ』もしかり。ミステリーもコメディも時代劇も青春ドラマでも、彼がいることで吹く風は、いつもしなやかだ。
永遠に色あせない彼の凛々しさは美しい
三浦春馬演じる天才ハッカーの主人公がテロリストに立ち向かう『ブラッディ・マンデイ』は息つく暇もなく一気にクライマックスまで駆け抜けた。ノンストップ系のドラマは多いが『ブラッディ・マンデイ』は完成度が高く抜きんでている。ハラハラドキドキに加え背中がゾクっとしたものだ。三浦春馬の集中力に驚いた。濃厚な怪演が渦巻くなか、埋もれることなくファルコンをまっとうしている。
記憶に新しい舞台『キンキーブーツ』を観ても、彼がいかに基礎から徹底的に歌や踊りに取り組んだかが、うかがえる。踊るための体幹づくり、肩甲骨の使い方、胸と首の見せ方、短い日数で手に入るものではない。
基礎を徹底すると遠回りに感じることがある。自流でも一時的に「華あるモノ」は見せられるが、三浦春馬はそれを望まない。本当に素敵なものと、そうでないものをかぎ分ける感性が豊かだったのだろう。時間はかかるが、基礎を積みあげることで確かなものが手に入るはずで、彼は常にそちらを選んだ。だから舞台での輝きは格別だった。内なるものが解放される瞬間の美しさは圧巻で、エンターテインメントの真髄を私たちに見せてくれたのだ。
彼の仕事に対する姿勢は凛々しい。作品にも映っている。『太陽の子』(2020年8月20日放送/NHK)では、さらに成長した彼の凛々しさに胸が大きく揺さぶられることだろう。
これからもっと彼の作品を観たいと想う。そして、彼の作品を愛したいと想っている。