「サッカーをしたいから地元の人気チームに入ったら、すぐにやめたいと言い出した」
「周りの子を気にして『どうせ自分なんて……』と言うようになり、消極的になった」
「塾の学力テストで成績が上がって念願だった一番上のクラスになれたのに、宿題すらやらなくなった」
など……、子どものやる気について心配なことありませんか。その原因は、子どもの居場所にあるかもしれません。
同じ成績だったのに、差がついた理由
中学校では同程度の成績だったAさんとBさん。中学卒業後、Aさんはレベルの高い高校に、Bさんはレベルの低い高校に入学しました。
高校生になった2人が、高校入学後しばらくして同じテストを受けると、BさんのほうがAさんよりも高得点でした。この差はどうしてできたのでしょうか。
レベルの高い高校に入学したAさんは、クラスメイトが自分よりも勉強ができる子ばかりで「自分は勉強ができない」と思うようになります。それに対して、レベルの低い高校に入学したBさんは、クラスメイトと比較して「自分は勉強ができる」と感じました。この気持ちの差が、2人の点数の差につながったのです。
「できる」と思うとやる気が出て、「できない」と思うとやる気がなくなる……このような現象は「井の中の蛙効果」(※)と呼ばれ、教育心理学の分野で研究が進められています。
ことわざ「井の中の蛙大海を知らず」、“狭くて閉じた世界観の中にあり、広い世界を知らないさま”を指しますが、「井の中の蛙効果」はこれとは異なります。
「井の中の蛙効果」には、“大きな池の小さな蛙になるよりも、小さな池の大きな蛙になった方が自分に肯定的になる”という意味が込められています。
“小さな池の大きな蛙”になる
受験する志望校を選ぶとき、偏差値が少しでも高いところに入りたい、入れてあげたいと思いがちですね。スポーツチームやその他の習い事全般についても、強豪チームや有名教室を選ぶことが多いでしょう。その結果として、ハイレベルなクラスメイトに囲まれてAさんのようにやる気を失ってしまっては本末転倒です。最適な「居場所」を選ぶためには、どうすればよいのでしょうか。
①小さな池の大きな蛙になる
実力を上げることが目的であっても、偏差値の高い学校や強豪チームに入るという選択は、子どもの性格によっては「井の中の蛙効果」で逆効果になるかもしれません。「小さな池の大きな蛙」を目指して、子どもがトップを目指せそうな学校やチームも選択肢に入れましょう。
集団レッスンで他の子どものことが気になり集中できないようだったら、個人レッスンに切り替えることも考えましょう。
②指標を変える
せっかく入った学校やチームは、そう簡単にやめたくはないですし、別の学校やチームに入り直すのも大変ですよね。そんな場合は、まずクラスメイトやチームメイトと比べることをやめましょう。
勉強はクラスや学校での順位に一喜一憂せず、全国規模で実施されるテストや、英検のような検定試験を指標にして成績アップを目指します。スポーツなら、ライバルは自分だけと考えて記録、能力の向上に励みます。
③栄光浴
クラスメイトやチームメイトが優秀なことを逆手にとって「レベルの高い人たちと切磋琢磨しているなんて、すごい!」と、家族が子どもをほめることも効果があります。評価の高い人や集団との関係を強調することで自己評価を高めようとする傾向を「栄光浴」といいますが、ほめられることで子ども自身が「僕・私は、すごい」と思うことができれば、頑張ることができるでしょう。
ただ、「栄光浴」は「井の中の蛙効果」よりも心理的な影響力は小さいとされています。性格によっては効果的とはいえない場合があるとも、我が子をみて思います。
私自身の体験談ですが、ふたりいる子どものうち、妹が塾の体験授業を受けたときのことです。その塾は1学年1クラスだけで、妹の学年はたまたま最難関校を目指す子が多く、「頭がいい子ばかりで、面白い。ここで勉強したい」と、そのまま通塾することにしました。その様子を見ていた兄は、「僕なら絶対無理。自分より成績の良い子に囲まれたら、やる気がなくなる」と驚いていたのが印象的でした。
子どものやる気があがる「居場所」を選ぶ
子どもは成長するにつれて、クラスや学校、チームや習い事など家庭の外の居場所で過ごす時間が長くなり、そこでの役割も大きくなっていきます。
- サッカーの強豪チームに入って、頑張る子
- コンクールを目指さないバレエ教室が合っている子
- 水泳の選手コースで、自分の記録更新だけを考えて頑張る子
- 進学塾で、成績順にクラス替えされることを楽しめる子
- クラス替えのない塾で、のんびり勉強したい子
居心地がよくて、やる気が出る居場所は、子どもによってそれぞれ違うでしょう。子どもの居場所を選ぶ際に、大人は少しでもレベルの高いところを選びがちです。見栄も張りたいし、人の目も気になりますよね。
しかし、「井の中の蛙効果」のように、レベルが高いことが最善とは限りません。子ども自身が頑張ることができる居場所を、冷静に見定めていきましょう。
※参考文献:外山美樹「教室場面における学業的自己概念-井の中の蛙効果について-」(教育心理学研究,56,560-574.)