日本人がヨーロッパで犯してしまいがちな、「これをやったら人間性を疑われてしまうかもしれない」という致命的マナー違反とは、そしてその背景にあるものとは!? 気を付けるべき、代表的な2例をご紹介しましょう。
マナー違反1:困っている人や弱者を助けない
私がヨーロッパに移り住んで衝撃を受けたのが、手助けを要する人や社会的弱者に対して、誰もが進んで手を差し伸べること。
例えば、エレベーターが故障中の駅でベビーカーを手に途方に暮れていたら、ホームレスの男性が当然のように階段の昇降を手伝ってくれたり、仕事帰りの空港で派手に転倒した私を、遥か遠くから数名が駆け寄ってきて助け起こし、無事を確認してくれたり。日常生活の困った場面では、必ずといってよいほど救いの手が差し伸べられてきました。
隣人愛や助け合いを是とするキリスト教精神が根底にあるうえ、ヨーロッパでは日本よりも時間がゆったり流れているので、心に余裕がある人が多いのかもしれません。
一方の日本では、特に都会に住んでいると、「放っておいてあげる優しさ」がマナーなのだと実感させられる場面も多くあります。自分が手を貸すと逆に相手を恐縮させてしまうのではないか、転んだ人を助け起すと、相手に恥の上塗りをさせてしまうかも……等々、相手の心情の裏の裏まで読んだ気遣いが求められるのに加え、うっかり他人に関わろうものなら、後々その相手からストーカー被害に遭ってしまう、といった恐ろしい可能性も否定できませんので、自己防衛本能が働いて、つい無関心を装ってしまうこともあるでしょう。
しかし、ヨーロッパの大半の人々は、そんな日本人の複雑な気遣いの精神構造や社会状況など知る由もありませんので、「困っている人を助けない⇒なんて冷酷非道な人!」と単純に誤解されかねません。
マナー違反2: レディファーストでない
レディファーストとは元々、騎士が自らの安全性を確保するために、女性を盾として先に扉に通したことが発祥ともいわれますが、現代においては「淑女をエスコートする際のマナー、婦人への奉仕」との意味合いが強く、ヨーロッパにおいては基本中の基本マナーのひとつとなっています。
簡単な例をいくつか挙げると、男性が扉を開けて女性を先に通す、夫婦の名前を連名で記す時は女性の名前を先に書く、ドレスを着た女性パートナーをエスコートする際には、車の扉を開けて乗降を手伝う(舞踏会や音楽会の盛んなウィーンではよくある光景です)、レストランではコートの着脱を助け、女性の椅子を引いて先に座らせる、女性のグラスに飲み物を注ぐ、重い荷物は女性に持たせない、ベビーカーは父親が押す、などが代表的なところでしょうか。
ヨーロッパの男性は幼少期からレディファーストのマナーを叩き込まれているので、実にさりげなくこれらの行為をこなします。日本では一般的に、男性を立てる女性の姿が美しいと思われがちですので真逆ですよね。
そんな異なる習慣の日本から来て、いつも通りに振舞っただけで「レディファーストがなっていない」とヨーロッパで陰口を叩かれてしまっている日本人男性の話を聞くにつれ、気の毒に思ってしまいます。
日本には騎士道の代わりに武士道の美学がありますし、文化による習慣の違いなので、この場ではレディファーストの是非を論じようとは思いません。
こちらでは、この2つのマナーを積極的に実践しないと、悲しいことに人格や育ちを疑われてしまいかねません。ヨーロッパ滞在時だけでも、弱者に手を差し伸べ、レディファーストを徹底してみてはいかがでしょうか。