夫との会話を取り戻そうとしたけれど……
ふと、夫とめったに会話をしていないことに気づいたユミさん(46歳)。結婚して16年、日常の忙しさにとりまぎれて、夫婦の時間をないがしろにしていたような気がすると反省したという。ところが夫の反応は。
ようやく少し時間的余裕ができて
結婚してから共働きでふたりの子を育ててきたユミさん夫婦。協力してがんばってきたように思っていたが、日常の会話はすべて子どものことや事務的なことばかりだった。
「上の子が中3、下の子が中1ですが、ようやく少しずつ時間的余裕ができてきたかなという感じです。上の息子は最近、料理に興味があって夕飯を作ってくれることもある。子どもたちが成長する一方で、私たち夫婦はどうなったかというと本当にふたりだけの会話がないんですよね」
夫はシフト制の仕事で、合間を縫って家事をしてくれる。一方、ユミさんはこの1カ月、仕事が多忙で、残業をしないために朝早く出社することもあり、すれ違いも多い。その分、子どもたちがフォローしてくれるようになっている。
「ただ、全体的に見れば少しは時間的余裕も出てきたので、ここで夫婦関係をもう一度見つめ直したい、もっと会話を増やしたいと思ったんです」
ところがいざ、夫と話そうと思うと、何を話したらいいのかわからなくなっている自分に気づいた。
「週末の夕方から夜にかけて、子どもたちにそれぞれ予定が入り、珍しくふたりきりになったんですよ。私、なんだかあわてちゃって。食事後、夫が『一杯飲もう』とワインを注いでくれたんですが、何を話したらいいかわからなかった。日頃から会話をしていないということですよね」
どこから始めたらいいのか
ユミさん自身、その経験はショックだったという。いざ会話と思ったのに、夫が今、どういうことで悩んでいるのか、あるいは何を楽しいと思っているのか、まったく見当もつかなかったのだという。
「夫のほうもそうでしょう。だから次にふたりきりになる時間があったとき、私は今、こういう仕事をしていて、こんな点で困っているという話をしたんですよ。夫にも同じように自分のことを話してほしかった。だけど夫は私の話に前のめりになって、『それはユミの考え方がおかしいと思うよ』と説教を始めちゃって。そういうことを言ってほしいわけじゃない、お互いに今、何を思っているかを話したかっただけなのにって、私は怒って。せっかく夫婦関係を再構築したいと思ったのに、恋人時代みたいにお互いの心を素直にさらけ出すことはできなくなっている……。それが悲しかった」
急に怒り出したユミさんに、夫は呆然としていたという。子どもが生まれると、夫婦は、親同士として子どもを介して関係を保っていくものなのかもしれない。それでも今後は、夫婦としてお互いを直視したいとユミさんは希望を捨てていない。
「せっかく縁があって夫婦になったんですから、この先、ゆっくりと男女として、ひとりの人間同士としてもう一度、関係を築いていきたい。それが理想です。夫がどう思っているかわかりませんけど」
最後のひと言が、少し冷たく聞こえた。ハリネズミのジレンマのように、近くなりすぎるとお互いを刺しあってしまうことにならないといいのだが……。