女としての「年齢の壁」と焦燥感
女性たちがよく口にするのが「年齢の壁」だ。たとえば30歳は結婚の壁、40歳は妊娠の壁、そして50歳は「女としての壁」。もちろん、閉経して「産む性」を卒業したからといって、女ではなくなるわけではない。だが、そこに「壁」を感じてしまう女性たちも少なくない。
早すぎる子どもの自立
29歳で結婚、30歳で長女を出産し、ずっと共働きでがんばってきたリサさん(47歳)。40代後半になって、心身共に以前より疲労感を深く感じるようになってきた。そんなとき、長女が宣言したのだ。
「高校を出たら留学したい」
長女は昨年、交換留学で1年間、アメリカに滞在した。その経験が彼女を刺激したらしい。
「とにもかくにも留学したいの一辺倒。最終的に何をしたいのか聞いたら、留学してから考えると。ひとりっ子だし、夫も好きなようにさせてやりたいと言ってはいたけど、そんなに早く親から自立してしまうのか、と私はそちらに気がいって……。子どもはとっくに親離れしているのに私が子離れしていなかったんですよね」
とたんに心身共に不調になった。更年期が近づいているのを感じてはいたが、これほどがくっと来たのはおそらく娘の自立宣言があったからだ。
「娘が留学したら、夫婦ふたりきりの生活ですよね。夫とは仲が悪いわけではないけど、もはやただの同居人。私のオンナとしての人生はどうなるんだろう。このまま定年まで働いて老いていくだけなのか。先に希望が見えなくなってしまったんです」
もちろん長女が留学しなくても、彼女の人生は変わらないはずだ。だが突然、希望が見えなくなったのは、やはりそばに娘がいるという支えをなくしたからかもしれない。
夫は将来への希望にはならないのだろうか。
夫婦を見直す時期なのかも
子どもが自立し、女性が「50歳」という年齢の壁を感じたときこそが、夫婦としての自分たちを見つめ直す機会になるのかもしれない。もっとも、見直したからといって先に希望が見いだせるとは限らないけれど。
「私は“あきらめる”という決断をしました(笑)。50歳になったとき、ひとり息子が高校を出て遠方の大学に入学。そこから夫婦だけの生活になりました。パートで働いてはいますが、仕事にやりがいがあるわけではない。夫も私も故郷が遠いので、親の介護をしなければならないわけでもない。誰からも必要とされなくなった感じがすごく強くて、一時期、更年期も重なって鬱々としていました。夫はまったく頼りにならないし」
今は笑いながらそう言うのはエミコさん(54歳)だ。ただ、彼女はパート仕事の時間を増やしながら、合間に習いごとを始めた。昔からやりたかったドラムを習い始めたのだ。
「夫は平日はほとんど家で食事をしないんです。だから私はいっそ独身に戻ったような気持ちになって好きなことをしよう、と。これがいい刺激になりました。ドラムを習っているときは無心になれるし、友だちもできた。夫や息子に頼らなくても楽しい時間がもてるとわかって、少し強くなったような気がします」
結局、自分を楽しませることができるのは自分だけなのかもしれない。家族を自由にさせるのは、自分自身も自由になること。それがわかった結果、夫とも少し関係が変わってきたとか。
「平日、私も好きなことをしているので週末は少しやさしくなれる。夫もそうなのかな、最近、ときどき土曜日の昼間、ふたりで近所のカフェでランチしたりするんですよ」
あきらめたところから、新たな道が始まることもあるのだ。