「定年後は新たな人生を送りたい」と願う夫をもった、妻の心理
ビートたけし(72歳)が、40年連れ添った妻と離婚した。財産分与は200億円にのぼるという報道もある。そして彼は18歳年下の女性と公私ともにパートナーとして、新たな生活をスタートさせるようだ。
これほど財産のない一般人においても、こういった事例はあり得る。会社員としての人生を終え、第二の生活をスタートさせるために離婚を選ぶ男性の心理とは。
突然の離婚届
8歳年上の夫が定年退職した晩、ユウコさん(53歳)はいきなり目の前に離婚届を出されて戸惑った。
「夫は定年になったら一緒に旅行しようとか、新たにアルバイトをしてみたいとか、いろいろ語っていたんですよ。だけど50代後半になってから、そういえばあまりそういうことを言わなくなったなとは思っていました。実際、定年が近づくと寂しいのかもしれないと心配して、私もあまりあれこれ言わないようにしていたんです」
すでに夫のサインがされている離婚届を見つめていると、夫は静かに言った。
「この家に住んでもらってかまわない。預貯金はすべてあげる。退職金は半分だけもらいたい。それで離婚してほしい」
ユウコさんは理由がわからなければサインはできないと言った。
「そうしたら夫が白状したんです。実は数年前からつきあっている女性がいる。彼女が資金を調達してくれて、前から夢だった飲食店を開くことができるんだけど、それには結婚が条件なんだ、と。つまりお金持ちの女性が開店資金を出してくれる、その代わり結婚してほしいということ。しばらく考えさせてほしいと言うしかありませんでした」
ユウコさんもパートで働いている。上の子はすでに独立し、下の子も大学卒業が目前だった。家があれば何とか食べてはいけるが、問題はそこではなかった。
夫が魂を売った?
「夫がその女性と本気で恋愛しているのか、あるいは自分の打算のために一緒になろうとしているのか。それが気になってたまらなかった」
ユウコさんは数日後、夫にそれを確認しようとしたが、夫は答えをはぐらかす。愛情の問題なのか、夢の問題なのか、夢のために魂を売るのかと彼女は詰め寄った。
「すると夫は、それを聞いてどうするんだと……。確かにそうなんですが、25年に及ぶ結婚生活は何だったのか、私はそれを知りたかったんだと思います。今になって思えば、夫自身もそこまで考えられなかったか考えたくなかったか。いずれにしても、夫は夢のために魂を売ったんだ。私はそう責めました」
夫の気持ちは変わらなかった。そんな夫はこちらから捨ててやれ、と子どもたちもユウコさんの味方についた。
「その後、その女性の援助で夫は夢だった飲食店を開いたようです。サラリーマン相手の定食屋みたいですが、覗きに行った息子によれば、カウンター内にはけっこう若い女性が一緒に働いていたと。その女性が夫の相手なのかどうかわかりませんが、ときどき顔を見合わせて楽しそうだったとも言っていましたね」
夫が密かに貯めていた社内預金は予想以上に多額だった。退職金半額と合わせれば、少し安心できる額だという。とはいえ大物芸能人の離婚とは違う。「食べていけるかどうか」の問題である。
「子どもたちは相手の女性のことをもっと調べるべきだと言っていましたが、夫がどういう理由であれ、私ではなくその女性を選んだのは事実。結婚って虚しい。それだけですね」
いくつになっても夢をもつのも、夢に向かって努力するのも悪いことではない。ただ、それが別の女性によって叶えられるとわかったとき、長年連れ添った妻とあっさり別れることができるのが不思議だとユウコさんは言う。
離婚から1年たって、ユウコさんはようやく事実を受け入れられるようになった。これからは自分も夢をもたなければと思い始めているという。