消費増税で景気はどうなる?
「2度あることは3度ある」を期待したいところですが、コラム執筆時点では消費税は予定通り2019年10月に引き上げられる予定です。消費税が導入されたのが平成元年(1989年)4月であることを考えれば、令和元年10月に消費税が引き上げられることは因縁(あるいは既視感)があるようです。
今回の消費税の引き上げ、社会保障費を充実させるために行われるものですが、私達は健康保険料や厚生保険料などを毎月支払っているのですから、消費税を引き上げ充当するのは違和感を覚えざるを得ません。消費税を社会保障費に充当するという「目的税化」している国は諸外国に見当たらないからです。
目的税化はさておき、消費税の引き上げにより景気の悪化を強く意識する必要があるでしょう。政府は景気の悪化を防ぐため、買い物をキャッシュレス決済で行った場合のポイント還元、プレミアム商品券などの導入を行う予定ですが、焼け石に水といわざるを得ないからです。キャッシュレス決済によるポイント還元などの政策は9カ月という期間限定の措置。景気の悪化を9カ月間先延ばしするだけであり、期間終了後は景気を急速に悪化させる可能性が高いというわけです。
過去の「消費増税」を振り返ると……
図は2人以上世帯の「消費支出の対前年同月実質増減率の推移」です。簡単にいえば、私たちが1カ月に使ったお金が前年の同じ月と比較して増えたのか減ったのかを見る経済指標です。2008年以降の数字ですが、前回消費税が8%に引き上げられた2014年を見ると、3月は駆け込み消費でお金を前年より7.2%もたくさん使ったものの、消費税引き上げ後の4月には反動で4.6%の減少、5月には8.0%も使ったお金が減少しているのです。
8.0%といわれてもピンとこないかもしれませんが、100年に1度の金融危機といわれたリーマンショックがあった2008年9月以降、最も減少したのが2009年1月の5.9%減少でした。2011年3月には8.2%の減少となりましたが、このときは東日本大震災があった月で首都圏などではお金はあったけれども「物(モノ)」が在庫切れで(買いたくても買えない)無かったのです。その時に匹敵するくらい消費税引き上げ後は、私たちは財布の紐を締めお金を使わなかったのです。
ちなみに2015年3月には10%を越える落ち込みとなっていますが、消費税引き上げ前の駆け込み消費で2014年3月にたくさんお金を使ったことによるものです。
消費税の引き上げで私たちが財布の紐を締めお金を使わなくなったのはわかりますが、その状態がどのくらい続いたのかと言えば筆者は4年以上続いたと考えています。図からは読み取りにくいかもしれませんが、前年同月と比較して2カ月連続してお金をたくさん使ったのは、2018年7月、8月までなかったからです。エコノミストなどの専門家は、消費税引き上げの影響は軽微だとさんざん吹聴していましたが、私たち生活者の家計レベルでいえば、軽微どころか大打撃を被ったわけです。
景気の落ち込みを防ぐ対策が「焼け石に水」になりそうな理由
この反省があるため、ポイント還元などの対策で景気の落ち込みを政府はカバーするつもりですが、対策を打ったとしても前回の消費税の引き上げの二の舞になるだけと筆者は考えています。なぜなら、ポイント還元などで前回よりも駆け込み消費が大きくなる可能性があること。加えて消費者心理が大きく影響すると考えられるからです。
1つは消費税が10%になると計算しやすくなることです。
たとえば、スーパーで298円の冷凍食品を買う場合、消費税が8%だといくらかかるのか瞬時に計算できませんが、10%であれば29円かかるわけねと簡単にできるため、増税感をすぐに実感することになり消費にブレーキをかけるのです。一桁から二桁になる心理もあるはずです。
また、前回の消費税の引き上げによる増税感を私たちが覚えていることも大きいでしょう。
前回、駆け込み消費があったことは述べましたが、駆け込み消費を行った人は意外と少ない気がしました。なぜなら、消費税が3%から5%に引き上げられたことをハッキリと覚えている人が少なかったからと推測されるからです。3%から5%に引き上げられたのは平成9年(1997年)4月、つまり17年前の出来事だったからです。
ところが今回の引き上げは、消費税が8%に引き上げられてから5年半後の出来事。大多数の人は、同じものを買ったにもかかわらず消費税が3%上がっただけで財布がどんどん軽くなってしまうことを如実に覚えているのです。だから今回の消費税引き上げ時には前回以上の駆け込み消費が起こる可能性が高いと考えるわけです。さらにポイント還元では、一部で5%という消費税の引き上げ幅より還元率の方が大きい実質値引きも実施されるのですから……。
以上から、政府やエコノミストなどの専門家がいくら消費増税が行われてもその影響は軽微、あるいは景気が悪化しないよう万全の策を講じると述べたとしても信じない方が得策と考えられるわけです。消費増税が行われたら、その影響が真っ先にくるのは私たち生活者であることをお忘れなく。