森保一監督率いる日本代表が、新たなフェーズへ本格的に踏み出した。6月5日と9日に行われたテストマッチで、新システムへのトライと新戦力のテストを進めたのだ。18歳になったばかりの久保建英も、待望の日本代表デビューを飾った。
トライするならこのタイミングしかなかった
3月下旬以来の活動となった6月5日のトリニダード・トバゴ戦で、森保一監督は就任以来初めてとなる3バックを採用した。チームのベースとなる4−2−3−1のシステムに目途が立ってきたことで、戦いかたの幅を広げるために3−4−3にトライしたのである。
チーム結成以来のコアメンバーが集まった今回の2試合は、9月開幕のカタールW杯予選へ向けた最後の準備だった。負けられない公式戦を前に何かにチャレンジするのであれば、このタイミングしかない。トリニダード・トバゴも9日に対戦したエルサルバドルも、日本より実力は劣る。
トリニダード・トバゴには0対0で引き分けたが、エルサルバドルには2対0で勝利した。テストの機会としてはうってつけだった。
3バックが有効な理由とは?
3バックが機能したかどうかを語るには、率直に言って判断材料が少ない。それでも、長身のセンターバックが増えているチーム編成を考えれば、最終ラインの高さと強さが増す3バックは、有効なオプションに成り得る。
また、3バックと4バックを併用することで、特定の選手への依存を避けることができる。たとえば、4バックでは酒井宏樹(マルセイユ/フランス)が先発で室屋成(FC東京)が控えだった右サイドバックのポジションは、3バックでは3−4−3の「4の右サイド」になる。より攻撃的な役割が要求されていき、ウイングタイプの伊東純也(ヘンク/ベルギー)を起用できるようになる。
実際にエルサルバドル戦で先発した伊東は、得意のドリブル突破で好機に絡んだ。「この選手がいないとチーム力が大幅にダウンする」といったリスクが、システムの併用によって軽減されていくのだ。
今回も、センターバックの吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)とボランチの遠藤航(シントトロイデン/ベルギー)のコンディションが万全でないために招集されず、チームに合流した香川真司(ベシクタシュ/トルコ)もケガで出場しなかったが、「彼らがいれば……」との嘆きは聞こえてこなかった。
「普通にできる」久保のすごさ
18歳になったばかりの久保建英(FC東京)は、エルサルバドル戦の後半途中からピッチに立った。史上2番目の若さでの日本代表デビューは、上々だったと言っていい。
4−2−3−1のトップ下に入った久保は、ドリブル突破からのフィニッシュ、シンプルなつなぎやスルーパスなどで、攻撃にリズムをもたらしていった。得点やアシストを記録することはできなかったものの、初めての日本代表で普通にできていることが何よりも驚きだ。
森保監督のもとで“三銃士”と呼ばれてきた2列目のアタッカーのうち、堂安律(フローニンゲン/オランダ)と中島翔哉(アルドゥハイル/カタール)が同じピッチに立っていたが、彼らにもまったく見劣りしていない。久保と代わって退いた南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)の不在も感じさせなかった。
国際的な移籍が認められる18歳になったことで、久保はヨーロッパの新シーズンが始まる今夏にもFC東京を離れるかもしれない。かつてバルセロナの育成組織に在籍していただけに、世界の最先端で勝負したいとの気持ちは強いだろう。
そのためにも、コパ・アメリカは大切だ。ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイといった南米の強豪が集う大会で、キラリと光るものを見せられれば──ヨーロッパ再挑戦が現実味を帯びていくだろう。
コパ・アメリカに参加するメンバーは、東京五輪の出場資格(※)を持つ22歳以下の選手たちが中心だ。日本代表は日本時間6月18日朝8時からチリと、21日朝8時からウルグアイと、25日朝8時からエクアドルと対戦する。
相手はベストメンバーをそろえている。客観的な力関係の比較では、3戦全敗も覚悟しなければならない。引き分けがひとつあっても評価できる。それでも、久保だけでなくすべての選手に、野心を持ってプレーしてもらいたいのである。
※五輪の男子サッカー競技は、W杯との差別化をはかるために開催時に23歳以下の選手に出場資格がある。東京五輪では1997年1月1日以降生まれの選手となる。そのほかに、年齢制限に関係のないオーバーエイジを3人まで加えることができる。1チームの総人数は18人。