結婚したら「ご主人様」になる男
結婚は婚姻届を出せば、書類上の不備がない限り受理される。そして男女は制度上、認められた「夫婦」となる。それだけのことなのだ、本当は。だが、世の中にはまだまだ、結婚したとたん、「男は女より上」を振りかざす男たちがいる。そんな男を結婚前に見抜く術はあるのだろうか。
尊重されていると思っていたのに
ずっと独身だったクミさん(41歳)は、40歳直前に友人から紹介された3歳年上の男性と結婚した。
「友だちもいい人だと言っていたし、彼は再婚だけど子どもはいないから気も楽でした。半年くらいつきあったんですが、私の仕事も『尊敬する』と言ってくれていた。こういう人となら一緒にやっていけるかなと思ったんです」
一度は結婚したいと思っていたから少し焦りはあった。本来なら、あと半年くらいつきあってもよかったと今になれば思うと彼女は言った。
結婚パーティーをして、友人たちの前で婚姻届を書いた。それをふたりで出した帰り道、彼が突然言ったのだ。
「これからは何があってもオレに従うんだよ」
彼女の目が点になった瞬間だった。従う、という意味がわからなかった。
「どういうことと聞いたら、オレが主人でおまえは妻だ。おまえがオレに従うのは当たり前だろって。え、こんな人だっけと頭が真っ白になりました」
恐怖で足が震えるほどだったという。
彼女は夫の目を盗んですぐに母親に相談した。
「最初だから威張りたいだけでしょう。そんな人じゃないと思うよ」
そうだよね、と彼女も思った。親の前で彼は非常に優しくていい人だったから。そして昨日までの彼はとても彼女を尊重してくれていたから。
なにも言えない関係に
だが、その後も彼は、婚姻届を出したあとの彼のままだった。彼女が仕事から帰ってくると、先に帰っていた彼は風呂に入ってビールを飲んでいる。
「つまみくらい作り置きできないのか」
嫌みを言われ、手早く作った料理にはダメ出しされた。
「女としてなにもできないなら、仕事なんか辞めちまえ、とも言われました。『結婚後もお互いに尊重しあって生活していこうって言わなかった?』と思わず言ったら、『主人であるオレに口答えするのか』って怒鳴りつけられて。手が飛んできそうだったのですぐに逃げました」
親が心配すると思い、その日は独身の女友だちの家に泊まらせてもらった。彼と彼女を結びつけた友人ではない女友だちである。
「その彼女がぽつりと言ったんですよ。『パーティーのとき、クミは友人たちに気を配って自分ではほとんど食べてなかったでしょ。彼はしっかり食べていたし、クミが食べてないことに気づこうともしていなかった。なんだかひっかかってたんだよね、そこが』って。さらに『彼、ちょうど昇進したところなんでしょ。会社に部下が増えて、家にも部下ができたようなものって笑いながら自分の友だちに言ってたの。酔っているみたいだったし男友だちの前で見栄を張りたかったのかもしれないけど、妻を部下っていうのはあんまりだって思った』とも。それを聞いて本気で怖くなりました」
その翌日、彼女はふたりを結びつけた友人に連絡、そのまま別居した。弁護士を立てて協議した結果、つい最近、離婚が成立したという。
それにしても彼の本性を見抜けなかったのかという後悔は今もある。
「唯一、あるとしたら彼が綺麗事を言いすぎていたことかもしれません。本音を聞けるほどの交際期間がなかったのもいけなかった。年齢がいっているオトナ婚だから、私が少々焦っていたこともあった。いいことばかり言う男性にはやはり気をつけるべきだったのかもしれません」
いい人だと信じたいという気持ちは貴重だが、やはり結婚するからには納得いくまで話すことが重要なのかもしれない。