春ドラマを盛り上げたテレビ朝日の刑事ドラマ
ワンパターンという声もありそうだが、視聴者の心をくすぐるテレビ朝日の刑事ドラマはやっぱりうまい。60分にいくつもの要素をテンポよく詰め込む技術はさすがである。科学捜査の進化もしっかり反映し、若い世代を飽きさせない上に、パロディあり他作品とのリンクあり作品の中でのつながりありで、散りばめられる遊び心が印象的な作品が多かった。
たとえば、『特捜9』(水曜夜9時~)の第7話では、近藤公園が演じた脚本家の人気作品は『科捜研の妹』。渡瀬恒彦が演じた加納倫太郎が、『緊急取調室』では大杉漣が演じた善さんが、劇中の会話に登場するのも粋な計らいと言える。また、4月放送のスペシャルドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官~緋色のシグナル~』の舞台となる特命捜査対策室の矢代(波留)と鳴海(鈴木京香)の上司は『警視庁・捜査一課長』の主人公・大岩一課長(内藤剛志)だった。
時代を象徴!科学の視点と専門性が止まらない
視聴者の満足度が高かったのが『ラジエーションハウス』と『インハンド』。「科学的視点」と「専門性」は、引き続き令和時代でも存在感を強めそうだ。命をテーマにした作品は私たちにとっては非常に身近で興味深く、未知の分野ならなおさら、視聴者は大きな価値を見出すだろう。医師の立場、科学の在り方など、ドラマの知性と人間の尊さをしっかり映した、まだまだ広がりそうなジャンルだ。
一方、専門分野だが『白衣の戦士』(水曜夜10時~/日テレ系)からは、コメディの難しさを感じる。コメディには足し算、引き算を熟知した演者と、視聴者の笑いに対する感度の高いアンテナを備えた制作サイドは必須。視聴者が求めているもの、見たいものに迎合しすぎることはないが、そこを度外視することも違う。シンプルにドラマを制作できる土壌づくりが先決なのかもしれない。
週末に攻め続けるNHKの夜ドラマ
高校生の生々しさと瑞々しさが圧巻だった『腐女子、うっかりゲイに告る』は、もみくちゃの感情が淘汰されていく過程を若い世代が体当たりで演じた力作。
『デジタル・タトゥー』は、現在の社会問題を引きずり出した問題作だっただろう。SNSに巻き込まれていく人間のもろさ、凶器を常に隠し持つ現代社会が緊張感をもって描かれ、インターネットが身近ではなかったおじさん世代の正論がビンビン響く骨太な作品だった。
1クールにとらわれない新時代のドラマがスタート!
内容とは別に、形として特徴的だったのが1クールの枠を超えた作品の登場。1年間の放送となる『科捜研の女』(木曜夜8時~/テレビ朝日系)と『やすらぎの刻~道』(月~金12時30分~/テレビ朝日系)や、2クールの『あなたの番です』(日曜夜10時30分~/日本テレビ系)はまだまだ続く。異例の5夜連続放送で注目されたスペシャルドラマ『白い巨塔』(テレビ朝日系)なども新しい試みだった。物語にそのものの目新しさに欠ける印象は否めないが、決して期待外れではなかった。今後ドラマの放送スケジュールがどうなっていくのか注目したい。
その他にも魅了されたドラマが多数
誰もが働き方について考えさせられた『わたし、定時で帰ります。』は時代にマッチしながら、未来と希望を明るく見せて視聴者を魅了。社会性のある骨太なテーマにみごとに切実に迫りながら茶目っ気たっぷりの空気に涙がこぼれた。『きのう何食べた?』は、視聴者が主人公2人の暮らしにすんなり入り込んで癒される空気感に、俳優陣のうまさが光った。こちらも、深いテーマへのアプローチに透明感があふれ、斜めに攻めない清々しさで時代を包んだ名作である。
>『きのう何食べた?』日常の幸せが伝わる、暮らしの心地よさ
>登場人物全員の個性が引き立つ『わたし、定時に帰ります。』の新しさ
視聴率では刑事ドラマが際立っていたものの、振り返ると『インハンド』『パーフェクトラブ』『わたし、定時で帰ります。』『きのう何食べた?』とよく泣いたシーズン。テーマをしっかりと誠実に描き切った名作が多く、いい春だったと感じている。また見たいと思わせる作品の多さにドラマファンとしてはうれしい限りだ。