男子目線で「暮らし」を語るドラマ
暮らしに対する男子のこだわりが映る2019年1月クール放送の『メゾン・ド・ポリス』や2018年9月クールにシーズン2が放送された『植物男子ベランダー』など、仕事一筋の熱血男子ドラマに加え、最近は男子目線で暮らしを語るドラマも楽しい。
4月にスタートした放送中の『きのう何食べた?』もその1つ。西島秀俊演じる弁護士のシロさんと、内田聖陽演じる美容師のケンジ、2人の暮らしもとにかく心地いい。なぜこんなに癒されるのだろう。
『きのう何食べた?』が持つ“ふつうの暮らし”の心地よさ
1.「暮らすこと」が暮らしの中心
ちゃんと食べてちゃんと寝て、ちゃんと掃除してちゃんと洗濯して……その“ちゃんとの心地よさ”が気持ちよく映る。レシピを確認したり、連絡をとったりする時にスマホは登場するが、暮らしの中心はインターネットでもなければ、テレビでもない。そして、それは少しも不自由ではない。
商店街で買い物をして、家に帰ってごはんをつくる。「おいしいね」と話をしながら食事をする。穏やかでまったりとした空気が流れ、せわしなくめぐる現代社会と対比し、心地いい風景だ。
2.あるべき暮らしを力説しないのに伝わる「幸せ感」
こんなふうに暮らすべきだ。こんなふうに生きるべきだと力説する登場人物はいない。疑問を投げかけることがあっても、強いることはなく、視聴者の心は自由だ。そこにも心地よさがある。
誰も見てないし、お部屋の片づけをさぼっちゃおうとか、夕飯の極端な野菜不足に気づかなかったことにしようとか、「まあ、いいか」の蓄積は、やがて「ちゃんと暮らす」を破壊し、心地よさを喪失させてしまうもの。ドラマからきちんと暮らす大切さを、自然に受け入れることができるところがいい。
食べているとき「おいしい」を言葉にする大切さ、食器を洗い終わってこそ、豊かな晩ごはんと言えること、自分の暮らしを、すんなり見直せることも、作品のポイントだ。
3.オシャレで機能的!すぐにマネできる「身近さ」
2人の暮らしは、すぐにマネできそうなものばかり。シンプルで機能的、しかもおしゃれで遊び心も感じられる。
動線上の炊飯器の位置。キッチン側、食卓側、必要に応じて向きを変えられるカウンターに置かれたデスクライト、アイアン雑貨の取り入れ方……。どこを切り取っても、なるほどと思うことばかりで、ちょっとマネしたくなるところが多い。
キッチンに並ぶスパイスや愛用のお鍋が特別高級なものではなかったり、浄水器ではなく水道の蛇口をひねる姿に親近感がわく。2人の暮らしは実に身近で、作品の中の料理のレシピに挑戦したい気持ちは高まる。
「暮らしの心地よさ」と一緒に語られる「現実のわずらわしさ」
脚本がいいとか、演者がうまいとか、そういう点に注目するのもドラマのひとつの見方と言えるが、『きのう何食べた?』は、そういうことを忘れて物語を楽しめる。
例えば、寝込んだシロさんのためにケンジが夕飯をつくった第7話。卵焼きづくりの過程を見ているだけで実に楽しい。火加減と格闘し「負けない」とつぶやくケンジは何度見ても微笑ましく、ただケンジと一緒にハラハラと卵焼きに夢中になれる。壮大なストーリーでも究極のエンターテインメントでもないのに、ぐいぐい引き込まれていくドラマだ。
マイノリティの人生観や老いの現実といった切実な問題もていねいに描きながら、幸せは他人が評価するものではなく、自分の心から生まれるものだと、改めて実感できるところにも、ドラマの深さがある。仕事に対する価値観を骨太に描いた作品もいいが、男子たちの丁寧な暮らしぶりから、いくつものことを気づかされるような、こんなドラマも素敵だ。