昔の恋人に再会して知った真実……
なぜかずっと独身で人生を歩んできたエツコさん(46歳)。30歳のときに起業して、今は従業員を8人ほど抱える身。成功を手に入れたともいえるが、彼女にはずっと秘密にしてきたことがあるという。
婚約を破棄したことが転機に
大学を出て就職した会社で、彼女は3歳年上の先輩に恋をした。先輩も好意をもってくれてつきあいが始まり、彼女が28歳のときに婚約。
「ところが彼、結婚したら実家に戻って家業を継ぐと言い出したんです。彼の実家はとある地方の農村部。彼は私にも農業をやってほしい、と。婚約後にそんなことを言われても……」
彼女は東京生まれの東京育ち。当時は会社員だったが、いずれ起業も考えていたから、とても受け入れられる条件ではなかった。
「大好きだったし、一生一緒にいたかったけど、そのために私の人生をすべてかなぐり捨てるわけにはいかなかった。彼とは別れ、私は転職しました」
転職した会社で必死に働き、ステップアップもして、31歳になる直前、人材派遣関係の会社を立ち上げた。
「彼のことは噂で聞いていました。結局、彼はその後、会社の支社へ転勤しました。実家には帰らなかったんです。婚約を破棄するために私が飲めない条件を持ち出してきたのかもしれない。ずっとそう思って彼を恨んでいました」
再会して誤解がとけて
彼女はその後、仕事に邁進した。結婚などする気にはなれなかったし、恋愛にものめり込まなかった。男など信用するまいと思ってしまったのだ。
30代後半になったころ、彼とも仲のよかったかつての同僚が急逝し、通夜で彼と顔を合わせた。精進落としと称して近くの居酒屋に行ったとき、自然と隣の席に座ったという。
「その店を出てふたりで歩きながら、『少し時間ある?』と彼に言われました。近くのバーで、初めて婚約のころの真相を聞かされたんです」
彼は当時、父親が病に倒れて農業を続けられなくなったため、本気で実家に戻るつもりだった。ところがエツコさんが「婚約はなかったことにしてほしい」と告げたあと、遠方にいた父の弟一家が地元に戻ってきて農業を継ぐことになったのだという。父親からも「おまえは今の仕事でがんばれ」と言われたため、会社に残る決意をした。だが、そのときすでにエツコさんは会社を辞めていた。
「もう一度やり直そうと連絡をとりたかったと彼は言っていました。私、そのときすでに引っ越しもしていて、友人たちにも引っ越し先をなかなか知らせなかったんです。真相を聞いて、私、やはりずっとこの人が好きだったんだと気づきました。だから恋愛しても本気になれなかったんだ、と」
彼はその後、東京の本社に戻り、同期の中でいちばん早く出世していった。好きな人と再会できた彼女は、家庭のある彼との恋にのめり込んでいった。
「3年ほどつきあいました。濃密な関係でしたね。彼は週の半分くらい私のところに泊まっていました。このまま自宅に帰らなくてもいいとまで言っていた。ただ、ある日、彼の妻がうちにやって来たんです。彼が妻とともに帰っていく後ろ姿を見て、やはり本妻の地位は強いなと思いました。敗北感に打ちのめされた」
彼はほとぼりが冷めるまで待ってほしいと言ったが、彼女はその気になれなかった。結局、最初にダメだった関係はやり直してもダメなのだと自嘲的に話した。
「20代のあのとき結婚していればよかったと今でも思います。結婚に踏み切れなかったのは私のせい。やりたい仕事をすることはできたけれど、人生の充実感って、愛する人とともに生きていくことだったのではないか。今になって後悔ばかりしています」
もしあのとき結婚を選んでいたら、事情は変わらず彼女は農家の「嫁」となり、我慢できずに離婚していたかもしれない。人生に「たられば」はない。あのときの決断は正しかったのだと思うしかないのだ。