世の中のスピードに乗らない生き方もある
結婚して母となって幸せに暮らす。そんな女性の生き方だけが幸せだとは今では通用しない。これからは「自分ならでは」の生き方を選択するのがいちばん満たされるのかもしれない。すでにそんな女性たちは出現しているようだ。
実家に戻って農業を継ぐ
代々、農業を家業にしてきた家に生まれたマイさん(39歳)。彼女自身は大学入学と同時に上京、その後は都内で就職してバリバリ働いてきた。恋愛も遊びも思い切り楽しんだという。
「ところが35歳を過ぎて、なんだかそういう生活に虚しさを感じるようになったんです。いつもいろいろなことに追われている感じがしていたし。そんなとき実家の父が倒れて……。あげく農業を一緒にやっていた兄が、なぜかバリキャリの女性と結婚。彼女の転勤にともなって遠方に行くことになって。それで私、農業を継ごうかなという気持ちになっていったんですよね」
そもそもは農業に興味があり、大学でも植物の研究をしていた。だが家を継ぐ気はなかったという。
「父親の病気はおおごとにはならなかったんですが、私が継ごうかと言ったら大変だからやめたほうがいいと。そう言われると闘志がわくんですよね(笑)」
もうからないかもしれないが、何か新しいことができるのではないか。そんな思いにかられ、一度、実家に帰って親や周囲の人たちと話をしてみた。
つきあっていた彼もついてきた
マイさんが目指そうとしたのは無農薬の米や野菜作りだ。大変なのはわかっているが、それでもやってみる価値はありそうだと踏んだ。
「結局、退職して実家に戻ることにしました。そのとき半年くらいつきあっていた4歳年下の彼がいたんですが、彼に話したら『結婚して一緒に行きたい』と。彼はコンピューター関係の仕事に命を懸けるくらいがんばっていたんです。でもやはり何かが違うと思っていた、と。世の中のスピードとは違う速度で生きたいと言い出して。それなら一緒に農業をやってみようということになったんです」
ただし結婚は先送りしたいと彼女は言った。生活が成り立たなければ家庭はもてないし、子どもももてるかどうかわからないから、と彼女は彼に伝えた。
「そのときの彼の返事がすごいんです。『マイちゃんとなら何をしても生きていける。子どもは天からの授かりものだから、僕らがもてるもてないと決めないほうがいい』って。それまで彼はいまひとつ感情が見えない人だなと思っていたんですが、本当はとても情熱的で、でも自然体の人だったとわかりました」
そして今、彼女は彼と結婚して実家敷地内の離れで生活している。まだ1年半しかたっていないが、理想の農業を目指して少しずつ前進しているという。
「先は長いけど、自分たちならではの農業を追求していくつもりです。周りに仲間もできました。収入的には激減、というか収入がほとんどないような状態ですが、なんとか食べてはいける。なにより精神的には“追われる感じ”がなくなりましたね、私も彼も」
必死に仕事をしてお金のかかった遊び方をしていた東京での暮らしを、彼女は後悔はしていないという。だが、もう戻りたいとは思わないそうだ。