「これって結婚?」と言われても……
別居婚もまた増えている印象がある。中には事実婚で別居というカップルも。「それ、結婚じゃないでしょ」と言われることも多いそうだ。
事実婚を選択した理由
エイミさん(42歳)が、3歳年下の彼と結婚したのは3年前。知り合った当時、34歳の彼は離婚経験者で5歳の息子とふたり暮らしだった。
「彼の息子とはすぐ仲良くなりました。息子は前の奥さんに虐待されていたようで、最初は何かあるとすぐ手で自分を防御するクセがついていた。それが痛ましくてね。私は絶対に手を上げるようなことはしないから、何でも言っていいんだよと時間をかけてわかってもらったんです」
ゆっくりとつきあいが進んで2年たったころ、彼の息子が「結婚しないの?」とエイミさんに尋ねた。彼女と彼は顔を見合わせて笑顔になったという。
「息子に結婚したほうがいいかなと聞いたら、『うん』って。ただ、私は姓を変えたくなかったし、彼はもう結婚という束縛やプレッシャーはこりごりだというから、じゃあ事実婚でと話がまとまったんです。公証役場に行って、事実婚をするという公正証書を作りました」
友人知人を呼んでレストランを貸し切り、手作りの結婚式を挙げた。息子も立派にスピーチをしたという。
「ただ、彼と私は時間的なサイクルがほとんど合わないんですよ。私はシフト制で働いていて、深夜勤務も多い。息子は生活習慣を大事にしなければいけない。そこで私が彼の住んでいるマンションのすぐ隣のマンションに引っ越しました」
最初は「どうして一緒に住まないの」と不満をもらしていた息子だが、「私と一週間暮らしてごらん」と試してみたら、「おとうさんのところに帰る」と言い出したそうだ。不規則な時間帯の生活に息子を巻き込むのは無理だった。
時間さえ合えばいつも一緒に
彼のほうは会社員なので、規則正しく暮らしている。お互いのスケジュールは共有しているので、11歳になった息子は、エイミさんがいる日なら、エイミさん宅に学校から直行する。
「私のところでおやつを食べて遊びに行くこともあれば、剣道をやっているので道場へ行くこともあります。私も時間があれば送っていってそのまま見学して一緒に帰ることも。ときには彼に内緒で、ふたりでファミレスで食事をしたり。息子は結局、彼にしゃべっちゃうんですけどね」
彼女はパートナーを「夫」とも言わない。事実婚だと公表はしているが、それでも「夫婦」という感覚はあまりないそうだ。
「夫婦って重たい言い方ですよね。なんだか夫唱婦随という言葉がすぐ浮かんできて、ともに歩く感じがしない。彼も私も、お互いを紹介するときは『パートナーです』と言います。私たちのことを知っている人たちはみんな下の名前で呼んでくれるし」
日本も欧米同様、子どもの頃から下の名前で呼び合うようになればいい。そうすれば結婚して姓が変わっても呼びにくくならないし、姓だけを重要視する考え方も変わるかもしれない。
「最近は息子もスケジュールを共有しているので、じゃあ、この時間帯でみんなで一緒に過ごそうかと相談しやすくなりました。これから息子が成長していくにつれ、よりみんなの自由を確保しながら一緒に過ごす時間も大事にしていけるんじゃないかなと楽しみにしているんです」
つい先日、息子がしみじみと言ったそうだ。
「おとうさんがエイミと知り合ってくれてよかった。僕、エイミがいてくれて本当によかったと思ってる」
エイミさんは思わず涙ぐんだそうだ。
「私は息子と仲良くなりたかっただけ。親子でもないからニセ親子を演じる気なんてなかったし。息子もまた、自由なオトナになってほしいですね」