働く主婦にも働く主婦の負い目があり……
他人に対して自分を、あるいは自分の人生を負い目に感じる必要などまったくない。だが、子をもつ母親たちはいろいろなところで「負い目」を感じさせられる世界にいる。
子育てが雑だと思われているのでは
「さすがに残業はできませんが、私はずっとフルタイムで働いています。12歳を頭に3人の子がいるので、小さいときは大変でした」
アサミさん(42歳)はそう言う。子どもがいるのに働いていることに対して、周りからは「子どもがかわいそう」「おかあさんがいつもいないって子どもに悪影響はないの?」など、ひどい言葉を浴びせられたこともある。
「おとうさんにはそんなこと誰も言わないのにね。うちは夫の給料だけでは食べていけませんからって反発していた時期もありました」
3年前、現在の中古マンションを購入して越してきた。隣はたまたま同世代の専業主婦の家庭だった。
「その家はお子さんがひとりだったので、『大変なときは言ってね。手伝えるし、お子さんを預かってもいいのよ』と言ってくれました。甘えずにがんばったけど、上の子が学校でケガをして緊急搬送されたときはさすがにいちばん下の保育園に迎えに行けなくて。夫は出張中だったので、隣の彼女にお願いしたんです。
迎えに行って預かってくれたのはいいんですが、夜遅くに迎えに行くと、『お子さん、食事のマナーをもう少し教えたらどうかしら』って。当時、まだ2歳でしたからね、マナーと言われても(笑)。『うちでは2歳から教えましたよ』とか『おかあさんが忙しいから、むずかしいかしらね』とか、イヤミ三昧。フレンドリーに見えて、すごく差別をする人なんだなといい勉強になりましたけどね」
とはいえ、専業主婦の家庭から見たら、子育てが雑に見えるのだろうかと胸がざわついた。それは自分の生き方を否定されることでもあるからだ。
夫にぶちまけるのがいちばん
心の中で、「働く女性は主婦としても母としても、より完璧でなければならない」という思い込みに縛られていた。それを気づかせてくれたのは、夫のひと言だ。
「気にしてないつもりでも、隣の彼女に言われたことがどこか心に残っ
最初、意味がわからなかったんですが、結局は、私が気にしているだけのことだと。でもそれは私の生き方を否定されることにつながるんだと言ったら、『他人に否定されると困るの?』って」
夫は、きみがよくがんばっているのは自分がいちばん知っている。自分自身も2歳の子にいきなり厳しいマナーを教える気はない。そんなものは徐々に教えていけばいいのだと言った。大事なのは子どもを自由に伸び伸び育てることではなかったか、と言った。
「いつも子どもの目線で考えようなんてエラそーなことを言っていたんです、私。なのに妙に世間体にとらわれてしまった。こうやって夫にぶちまければ軌道修正ができるんだなとラクになりました」
その後、夫も公園に子どもを連れて行って、取るに足りないようなことで、やはり隣の奥さんにイヤミを言われたことがあった。そのときはアサミさんが夫の話を聞いて、悔しさを共有した。
「夫とはいろいろ意見が合わないところもありますが、子育ての基本的なところだけは共有するようにしてきました。それさえ押さえておけば、あとは適当でいいよねと話し合って」
大事なことは周囲の目ではなく、夫との共同戦線だとアサミさんは考えている。