息子の嫁として恥ずかしいと言われて

格上実家をもつ女性と結婚する男性と比べて、格上実家の男性と結婚する女性のほうがどこか悲哀がつきまとう気がする。男性の実家から「もらってやる」感じが強く出るからだろうか。あるいはそこに嫁姑問題もからんでくるからだろうか。

 

「あなたと結婚させたら元がとれない」と姑

学生時代にスナックでバイトをしているところを医師である彼に見初められ、懇願されてつきあい始めたというアヤカさん(35歳)。大学を卒業し、とあるメーカーに勤めたが、彼との関係は続いた。

「相手は8歳年上の医師ですから、きっと本気ではないだろうと思っていました。私は彼の人間性に惚れたので本気だったけど自分を抑えながらつきあっていたんです。傷つきたくないから。でもつきあって3年ほどたったとき、彼からプロポーズされました。彼の実家は地方ですが大きな病院をやっているし、両親もきょうだいもみんな医師。私と結婚すると言ったらみんなが大反対するのは目に見えていると彼に言ったんです」

だが彼は、結婚はふたりだけの意志でできると譲らなかった。それでも一応、親には会わせたいと言われ、彼の実家へ。

「彼がちょっと席をはずしたとき、お母さんが『あのねえ、あなたなんかと結婚させたら元がとれないのよ。あの子を医者にするためにお金がかかってるの。医者のお嫁さんに来てもらわないと元がとれないの。だからうちは長男の嫁も医者だし、長女の夫も医者なんだから』と言うんです。びっくりしました」

彼が戻ってくると、わざわざ家族は医学の話を始めた。母親は「このくらいなら素人でもわかるでしょ」と化学の話題をふってくる。理系が苦手だったアヤカさんは話に入れない。

「恥ずかしいわね、これくらい常識よ。男相手に酒場商売をしていたって、このくらいは話題になるでしょ」
アヤカさんがスナックで働いていたことを引き合いに出してイヤミを言う。彼は「お母さんこそ失礼なこと言うなよ」とピシッと言い、「もういい、アヤカ、行こう」と促した。彼のことは本当に好き。だけどこの一家とはつきあえないと彼女は感じた。
 

一家に大波乱が訪れて

結婚式は挙げず、双方の友人を呼んでパーティーだけおこなった。彼が勤めていた病院からもたくさんの医師や看護師が来てくれた。彼の周りの「他人」たちはみないい人だったとアヤカさんは言う。

「それは彼の人柄なんでしょうね。ふたりで暮らしていくうちに私は愛情がどんどん深くなっていきました。彼と結婚できてよかったと毎日思っていた」

ところが3年後、ふたりの長女が2歳になったころ、彼の実家で大変なことが起こった。父が倒れ、さらに兄が急死したのだ。兄嫁はショックのあまり子どもを連れて実家に帰ってしまった。彼の妹も体調を崩し、病院の存続がむずかしくなっていく。

「お姑さんが、どうしても彼に実家に戻ってこいと言って。彼は頑なに拒否していましたが、病院が続かなくなるかもしれない危機でしょう。帰ってあげたほうがいいんじゃないのと言いました。そうしたら彼が、きみにつらい思いをさせたくないって。その気持ちさえあれば私はやっていけるからと彼を励ましたんです」

夫も覚悟を決め、実家の病院に勤務することを決断。ただし実家には同居せず、近くにマンションを借りることにした。夫の思いやりだとアヤカさんは感じた。

「夫もいきなり重い責任を負わされてプレッシャーだったんでしょうね。私を姑から守り、病院のことも全部任されて大変だったと思います。4年ほどたったころ、夫が起きられなくなったんです。うつ病でした」

彼女は、夫の主治医とともに必死に彼を支えた。うつ病やメンタルの勉強も重ねた。2年ほどたって、彼はようやく職場に復帰することができた。

「そのころから姑の様子が変わってきました。私を認めてくれるようになったのを感じています」

さらに彼女は今、看護学校に通って勉強を重ねている。せめて看護師として夫の病院を助けることができるのではないかと考えたからだ。

「つい先日、お姑さんに『無理しないでね。あなたは頑張り屋なんだから』と言われました。息子を支えてくれてありがとう、とも言われました」

ここに来るまでの道のりは長かったとアヤカさんは言う。だが、格差があっても、ふたりの愛情が本物であればきっと道は開けるはず。彼女はそう言って温かい笑みを浮かべた。