夫を「憎い」と思う妻たち
プレ更年期なのか夫へのストレスなのか、40代で心身共に絶不調と嘆く女性たちは少なくない。リカさん(42歳)もそう訴える。
「ひとり息子が高校生になって、生き生き元気にやっているのを見てほっとする半面、私は空っぽな感じが続いているんです。2歳年上の夫は仕事が忙しくて家庭を顧みない。もちろん、私の不調もあまり気にしていないようで、『具合が悪いなら医者に行ってくればいいじゃん』と軽く言うだけ。今になって、結婚してからのことをあれこれ思い出しては、私がこんなふうになったのは全部、夫のせいじゃないかと考えてしまって……」
本当は出産後も働いていたかった。だが、夫が「子どもが小さいうちは家にいてほしい」と懇願したのだ。共働きの家に育った夫は、自分で鍵を開ける小学生時代がひどくせつなかったという。 だから仕事を辞めた。結果、家事も育児もひとりでやるしかなくなった。
「子どもが夜泣きすると、『明日は朝から忙しいんだよ、泣かせるなよ』と言われる。私が泣かせているわけじゃないのにね。それでも自分のせいだと思って、子どもを抱いて外へ出たこともあります」
深夜に子どもの具合が悪くなったときも、ひとりで救急車を呼んで病院につれていった。応急手当をして子どもを連れて帰宅すると、夫は高いびきだった。 「子どもがどうなってもいいのか、と針の先くらいの憎悪が生まれた」 リカさんはそう言う。
中学生にもなると息子には息子の世界ができてくる。リカさんは時間を持て余したが、好きなことができるほど経済的な余裕はない。そこでパートに出た。
「一生懸命働いても、月に10万にも満たない。あのまま仕事を辞めなければ、夫より稼げたかもしれないと思うようになりました。やめたのは自分の決断でしょと友人に言われたけど、あのときはそれ以外の選択肢がなかったんです」 後悔ばかりの人生を数え上げれば、すべて夫のせいだと思えてくる。心に生まれた憎悪の芽を必死にかき消そうと日々を過ごすとリカさんは言った。
憎むのがイヤだから
夫を憎んでいる自分がイヤだから、「10年後に離婚する」と目標を設定したのは、アサミさん(45歳)だ。8年後には下の子が22歳、大学を卒業する年齢になる。その後、2年の猶予をもって「結婚生活終了」とするのだそうだ。
「そのために着々と貯金もしているし、中断していた仕事も再開しました。上の高校生の娘は、仕事をしている母親が好きみたい。子どもたちが独立したら、私は小さなワンルームの部屋にでも引っ越して自由になりたい。そう思っています」
現実はどうなるかわからない。だが、55歳にして初めてのひとり暮らしをすると考えると、不安よりも楽しさが先に立つ。
「3歳年上の夫は、つきあっているときは楽しい人だったんですが、結婚後は『夫』、子どもができてからは『父親』という意識が強くなったのか、私や子どもたちには強権的なんですよね。外ではやけにリベラルを気取っているみたいですが。そんなダブルスタンダードが見えたとき、夫への不信感が募りました」
浮気疑惑も何度かあった。夫が浮気したとしても、彼女の中に女としての嫉妬は生まれなかった。だから追求もしなかったのだが、夫は嫉妬されないことが不満だったようで、わざと夜中にこっそり女性と電話をしていたこともあった。
「それならそれでどうぞ、と考えている自分がいて。こんな結婚生活に意味はないと思ったんです。このままいったら、きっと老後に夫を恨むようになる。自分自身のために、それだけは避けたいと思いました」 だから55歳での離婚を目標にしたのだ。
結果どうなるかはわからないが、目標設定をしたことで、今は「意味のある日々」を送れている気がするとアサミさんは微笑んだ。
人を恨みながら生きていくのは、自分の中に負のエネルギーをため込むことにつながっていく。アサミさんの気持ちの切り替えは、今、夫を恨みつつある女性たちにとっていいヒントになるのではないだろうか。