ホンダブランドの中に新しいブランドが立ち上がるまで……

ホンダでバイクのデザインを担当しているチームが作ったアパレルブランド「Rentoto」。その立役者たちに、なぜホンダが洋品に力を入れているのか、新しいブランドを立ち上げた理由や、立ち上げに至るまでの経緯を伺いました。
 

今回は、商品が誕生するまでに、若手デザイナー4人がぶつかった壁や失敗、そして、ホンダという大きなブランドの中に新しいブランドができるまでをインタビューしてみました。
 

今回も前回同様にRentotoのデザイナーチームから金子かおりさんと荒井さつきさん、販売やマーケティングを担当するホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)から香取亮太さん、さらに今回はデザイナーの齋藤美波さんを加え、インタビューしました。
 

Rentotoブランドの立ち上げ!始めに決めたことは?

左から斎藤美波さん、金子かおりさん、香取亮太さん、そしてタブレットに写っているのがテレビ電話で参加してくれた荒井さつきさんだ
左から齋藤美波さん、金子かおりさん、香取亮太さん、そしてタブレットに写っているのがテレビ電話で参加してくれた荒井さつきさんだ

――HMJの協力もあり、新アパレルブランド「Rentoto」の実現に向けてスタートを切ることとなった時、一番始めに取り組んだことはなんですか?
 

金子 最初に決めたのはコンセプトです。好きなウェアだけ作っていくと、ブランドとして統一感がなくなってしまいます。まずはブランドとして揺るがないものにするために、コンセプトを固めました。ブランドコンセプトを決めるにあたっては、通常のバイクの開発では行かないようなジャンルの展示会に足を運んで、リサーチしました。コンセプトを固めたのはある展示会の帰りのカフェでした。
 

荒井 色々なキーワードが出てきた中で、ブランドの軸となりそうな言葉が“ゆるい”でした。しかし、ゆるいというキーワードをそのままブランド名にしてしまうわけにはいかないと考えていた中で、フィンランド語 の“Rento”という単語に出会い、即決しましたね。
 

モーターサイクルギアにはあまりないトレンドカラーを採用した経緯は?

取材当日は既存の製品の他に今後リリースを検討されている新色も見せていただいた
取材当日は既存の製品の他に今後リリースを検討されている新色も見せていただいた

――コンセプトが決まった後はどのようなことをやったのですか?
 

金子 作りたいウェアや小物がいくつかあったので、その中から実際に製品にしていくアイテムを選んでいきました。商品のカラーも、ブランドとして統一感がないとおかしいのでトレンドカラーなどから選びました。
 

――バイク用品店のウェアコーナーは比較的シックな色味の商品が多いように感じますが、たしかにRentotoのアイテムのカラーは今までのバイクウェアにはないように思います。
 

金子 シックな色味のアイテムはHMJが既に作っています。選択肢を広げる意図もあり、トレンドカラーを選びました。
 

香取 HMJのウェアラインナップはモータースポーツ向けのアイテムが中心ではありますが、これまでもカジュアル向けの製品も取り扱っています。しかし、後者はさらに力を入れたいという思いがあったので、今回「Rentoto」というブランドを立ち上げることでラインナップの追加に踏み切ったという背景もあります。
 

普段扱わないアパレルの素材をどのように決定していったのか?

製品化するまでに作られた沢山の資料を見せていただいた
製品化するまでに作られた沢山の資料を見せていただいた

――普段バイクをデザインしている際にはアルミやスチールなど素材を選択することは日常茶飯事だと思いますが、アパレルの素材を選ぶのはいかがでしたか?
 

香取 HMJも、商品企画は携わりますが、素材のノウハウに造詣が深いわけではないので、すでに協力関係にあるサプライヤー様を、デザイナーチームに紹介しました。
 

荒井 サプライヤー様もとても乗り気で企画に参加してくださいました。たとえば私が担当したレインウェアでは「レインウェアっぽくない素材にしたい」ということをサプライヤー様に伝え、探していただきました。
 

香取 今回紹介したサプライヤー様は、偶然にも、以前はデニムなどのカジュアルウェアを作っていたのだとか。「街着のような製品にしたい」という彼女達の思いが伝わりやすかったのだと思います。
 

プロテクター入りを感じさせない細身のシルエットを実現した方法とは?

筆者もインプレッション用にRentotoのジャケットをお借りした事があるがプロテクター入りとは思えないほどシルエットは細身だった
筆者もインプレッション用にRentotoのジャケットをお借りしたことがあるが、プロテクター入りとは思えないほどシルエットは細身だった

――通常のライディングウェアらしくないシルエットを実現するためには、どのように工夫されたのでしょうか?
 

金子 まずは既存のウェアを、徹底的にリサーチした結果、プロテクターは裏地につけないとシルエットが崩れることがわかりました。さらにサプライヤー様にお願いをして、シルエットに影響しない可能な限り薄手のプロテクターを探してもらいました。
 

齋藤 既に市場にあるライディングウェアやアウトドアウェアでプロテクターをつけた状態とつけてない状態で写真を撮って比べたりしました。実際に研究所内にある色々なバイクに跨りながら、袖丈も一から考えていきました。ポケットのサイズなども自分達で決めたのですが、型紙を切って当ててを繰り返して決めました。

――プロテクターを入れないという選択肢はなかったのでしょうか?
 

香取 ホンダのスタンスとして、ジャケットに分類される商品には肩肘のプロテクターを備え、かつ胸部プロテクターを装着できることを条件として商品を開発しています。
 

金子 プロテクターをつけないウェアは一般的なアパレルメーカーが出しています。私たちの強みはバイクを作っていて、アパレルも作れるというところ。バイクに乗ることを考慮したプロテクター入りのアパレル洋品を作る方向で考えました。
 

――プロテクターを備えながら細身のシルエットを実現した背景にはどのような工夫がありますか?
 

金子 一つは、肩の縫製をずらすことでガチガチに見えないようにしています。また、裏地と生地を別々にして、裏地にプロテクターをつけることで、シルエットをゆるく見せるようにしています。
 

荒井 最近は、普段着でもビッグシルエットが流行っています。少しゆったりと作り、プロテクターが目立たず肩がいかつく見えないようにすることにはこだわりました。
 

商品ができるまで失敗はなかったのだろうか?

左が実際に商品化されたレインウエア、右が一番最初にできたサンプルだそうだ。
左が実際に商品化されたレインウエア、右が一番最初にできたサンプルだそうだ

――商品ができるまでに、「失敗」などはなかったのですか? 
齋藤 レインウェアは大きな失敗をしてしまったので、完成が最後になりました。

荒井 ラフ画で作ったイメージと仕上がったサンプルがかけ離れてしまい、大きく方向転換しなければならなくなってしまったんです。他にも、サンプルができあがってからでないと気がつかない問題点が多数あり、試作と修正を繰り返しました。
 

香取 サプライヤー様には非常に協力していただいたので、大体1年ぐらいで商品化できましたね。
 

Rentotoの製品は消費者からはどのような反応だったのか?

モーターサイクルショーでは実際にジャケットやレインウエアを着用して接客したそう
モーターサイクルショーでは実際にジャケットやレインウエアを着用して接客したそう

――多くの方がRentotoの製品を初めて目にする機会はモーターサイクルショーだったと思います。来場者の反応はいかがでしたか?
 

齋藤 年齢問わず評判がよくて、私たちとしてはライトユーザー向けに企画したのですが、ベテランライダーの方にも非常に評判が良かったですね。

荒井 私たちも会場でRentotoのジャケットを着用して接客していたのですが、女性ライダーの方から「試着してみたいです」という声をたくさんいただくことができました。
 

金子 他のメーカーさんからも注目していただき、たくさんお声がけもいただきました。
 

香取 若い方のレスポンスが良かったように思いますが、比較的幅広い年齢層のお客様に受け入れてもらっている印象があります。
 

――上々な出だしだったRentoto。今後の予定はありますか?
 

香取 秋冬物のリリースは企画段階ではありますが、計画は動き出しています。既存の製品にカラーバリエーションを追加する計画もあります。
 

取材を終えて

まだ製品化に至っていないというレザージャケットを試着させて頂いた質感は非常に良い感じだ
まだ製品化に至っていないというレザージャケットを試着させて頂いた質感は非常に良い感じだ

バイクの取材をしているとプロテクターが入っているバイク用品メーカーの製品を着用することが正しく、プロテクターが入っていない服を着てはいけないという風潮が強くあると感じます。
 

もちろん安全という観念で見れば正しいですが、最近ではアウトドアメーカーのマウンテンパーカーを着用してバイクに乗っている方も見かけますし、作業着メーカーの防寒ウェアを着ている方も見かけます。
 

世の中の価値観は多様化してきており、バイク業界にもその波が押し寄せてきているように感じていることを感じていた矢先に出会ったのがこのRentoto。Rentoto のライディングジャケットには新しい価値観を創造しながら、既存の歴史や機能性も尊重している姿勢を感じました。
 

Rentotoのデザイナーチームは私よりもずっと若い女性4人で構成されていますが、単純に自分達が作りたい物を作るという気持ちだけでなく、新しいマーケットを創造していくという課題に取り組んでおり、新しい世界観を構築していっている姿勢には、頼もしさを感じました。
 

普段はバイクデザインを担当している彼女達ですが、今もRentotoの新しい製品を作るために奔走しています。筆者自身、少しでも二輪業界を盛り上げたいと思ってライターの仕事を続けていますが、彼女達の行動力に刺激を受けました。