ホンダが新しいアパレルブランドを設立
3月23~25日に行われた第45回東京モーターサイクルショー。蓋を開けてみれば2015年から毎年来場者数を増やし、2018年は14万6823人を動員した国内最大級のバイクイベントです。もちろん私も初日に足を運び各社ブースの展示を楽しんだのですが、ホンダのブースにアパレル洋品が展示されていました。
近年ホンダは洋品関係にも力を入れており、ホンダブランドのライディングウェアやグローブ、ブーツに至るまで、幅広くラインナップしています。そのためアパレルを展示すること自体は珍しいことではないのですが、「新しいな」と感じたのはバイクデザイナーが立ち上げたライディングギアブランドが展示されていたこと。
通常ホンダブランドのライディングアギアといえば、企画やマーケティングはホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)が担当します。しかし、今回の新ブランド「Rentoto」は、本田技術研究所二輪R&Dセンターで普段はバイクのデザインをしているデザイナーと、HMJがタッグを組んで企画をしたとのこと。ホンダグループが力を合わせて新しい洋品ブランドを立ち上げたことには、どのような意図があるのか?
この「Rentoto」のデザイナーチームから金子かおりさんと荒井さつきさん、さらに、販売やマーケティングを担当するHMJから香取亮太さんに、新しいブランドを立ち上げた意図や経緯を聞きました。
ホンダが洋品に力を入れる意図とは?
――なぜ今、ホンダがライディングウェアに力を入れているのでしょうか?
香取 ホンダとして車両を売るのは自然なことですが、「二輪の楽しみをサポートする」という位置づけで、ライディングウェアの企画や販売を考えています。この役割を担うことは非常に大事で、力を入れています。
――実際にホンダが取り扱うアパレルが増えてきている印象があります。
香取 近年、ホンダのライディングギアをお求め頂いているお客様が増えています。その背景のひとつに考えられることとして、リターンライダーの方々を中心に転倒などのリスクに対して意識が高まってきていて、プロテクター入りの洋品を手にとっていただける機会が増えている実感があります。
新しい洋品ブランド「Rentoto」が立ち上げたワケとは?
――そんな中で、なぜ「Rentoto」というブランドを立ち上げたのでしょうか?
金子 私たちもバイクに乗るのですが、バイクに乗る時に若い女性が好んで着たくなるような製品が少ないと感じたことがきっかけでした。ただ、プロジェクトを進めていく中で、社内スタッフにも話を聞いたところ、私たちよりも年齢層が上の社内の男性スタッフも「ライディングウェアを着てツーリングに行った先で着替えている」という声があり、女子向けというだけでなくユニセックスで幅広い年齢層の方に、普段着のような感覚で着ていただける物を作りたい、というところからブランド作りが始まっています。
――きっかけがあったのでしょうか?
金子 ホンダには「チャレンジ提案」という制度があります。これは、社員がアイデアを出し、投票で多くの票を得たアイデアが、事業化するためのプレゼンテーションをする機会を得られるというものです。趣味も合い、年代も近かった荒井の方から、チャレンジ提案をやらないかという誘いがあり、一緒に挑戦することになりました。アイデアを出している中で、アパレルという企画が上がり、結果的にプレゼンする機会を得ました。
――チャレンジ提案から、どのように実現に至ったのですか?
金子 私たちはバイクを作り上げていくのはプロですが、アパレルを作り上げていく経験はなかったので、一年ぐらいの間なかなか進めることができなかったのです。しかし、HMJさんと共に創り上げていくことで、そこからはトントン拍子でリリースにこぎつけました。
新しいブランドの立ち上げ、苦労したところとは?
――Rentoto(レントト)はフィンランド語で「気楽な、堅苦しくない、さりげない」という意味である「Rento」に、バイクをもっと気楽に楽しんでもらいたいという意味を込めて「to」をプラスしてRentotoというブランド名にしたとのこと。このRentotoのプロジェクトを進める中で最も苦労したのはどのような点ですか?
荒井 Rentotoのプロジェクトで最も大変だったのはコンセプトを理解してもらうことでした。デザインチームは同年代で、趣味も似ているので、企画をまとめるまでは早かったのですが、自分たちの上司やHMJの担当者に、「バイクなのに緩い」「バイクなのに普段着っぽい」というコンセプトは、バイクのイメージと緩さ普段着っぽさがイコールでは繋がらなかったようで、その意図を伝えるための資料作りやプレゼンテーションに苦労しました。
――たしかに、現在のバイクユーザーはリターンライダーが多く、マーケットの中心の年齢層は高いと思います。若い女性が着たいと思うようなアパレル商品を作るとなると、バイク市場のメインターゲットからは外れると思うのですが、この点をどのように社内やHMJの担当者に理解してもらったのでしょうか?
金子 年齢層の高い方向けの商品を開発するだけでは、新しいお客様を会得できないということを伝えました。なんとなくバイクに興味があっても、ウェアのデザインが好きになれないとか、高すぎて購入できないというお客様も多いと思います。以前、「カープ女子」や「山ガール」が流行ったと思うのですが、グッズが可愛いとはまる女性は多いです。こういった世の中の流れを意識しなければ、新しいお客様にバイクのある楽しい生活を想起してもらえるような流れは作れないということも、一生懸命伝えましたね。
洋品製作とバイク製作、リンクする点とは?
――こうしてRentotoの実現に至りましたが、素人の考えだとバイクをデザインするということと、アパレルをデザインするということは、かなり異なるものだと思います。苦労はなかったのでしょうか?
金子 開発するプロセス(行程)という部分は、二輪の開発とも共通するところがあり、経験が生かせたと思います。一番大事なことは、バイクのデザインもアパレルのデザインも自分達がお客様の視点で欲しいと思えるものを創るという事だと思います
――Rentotoの開発を通して、本業であるバイクのデザインにつながったことはありますか?
金子 デザイナーという仕事は外の世界を見に行くことも大事で、これまでも心掛けていたのですが、アパレルのデザインという仕事をしたことで、普段は触れない素材に触れたりした経験は、刺激になりました。それらの素材をバイクに使えないか?ということも考えるようになりました。また、Rentotoのプロジェクトではコンセプトをどうやったら論理的に伝えられるか?ということにも苦労しましたが、そのおかげで今では本業であるバイクのデザインでコンセプトをプレゼンテーションする際に「想いを伝えるスキルが向上したな」と実感することがあります。
荒井 私の普段の仕事はグラフィックではなく3Dデザイナーなんです。学生の頃はグラフィックを専攻していたので、Rentotoのプロジェクトでその技術を生かすことができました。普段の仕事と違うことができたのは良かったと思います。