「ヤミ民泊」が増えてしまう?「民泊新法」施行後の現場の実態

地域住民に配慮をしつつ民泊を国や自治体として盛り上げていくために施行された民泊新法。果たして、この法律によって「ヤミ民泊」は無くすことができるのか?施行後、民泊の現場では一体何が起きているのかをレポートします。

新法施行に伴い、激減した登録物件数

皆さまご存知の通り、2018年6月15日に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されました。この法令の定めによると、民泊オーナー(民泊事業者)は住宅宿泊事業の届出をする必要があり、これによって「届出番号」が割り振られます。そして大手民泊仲介サイトは、届出番号のない民泊物件(いわゆる「ヤミ民泊物件」)を削除するという方針を打ち出し、実行しています。


施行前に大手民泊仲介サイトに登録されていた物件数は6万件以上。しかし、施行日時点の民泊オーナーによる届出件数は3,728件(うち、受理済み件数は2,210件)となっており、これは施行前に民泊事業を行っていた事業者の多くは、未だに届出ができていないということを表しています。
 

危ぶまれる日本の“民泊目的達成”

観光立国を目指し、2020年までに4,000万人の外国人観光客の誘致を目指している日本。観光客は着実に増え続け、2018年度は過去最速で1,000万人を突破。しかし、日本にとって外国人観光客に来てもらうのはあくまで手段であり、目的ではないはず。目的は当然、国内の経済や産業を発展させると共に、増え続ける空き家対策や地域活性化、はたまた文化交流です。

しかし、実際は多くの民泊オーナーの物件届出は進んでおらず、民泊事業が存続できていません。また、届出をせずに民泊を行う「ヤミ事業者」も増えています。このままでは、日本が外国人観光客を誘致する目的の達成がおぼつかなくなってしまいます。
 

何故、民泊の届出が進まないのか

民泊オーナーの届出が進まない理由の一つとして挙げられるのが、届出の難易度が高いということがあります。届出には14種類(個人は13種類)の添付書類が必要であり、その全てを揃えるのも行政書士等ではなく、届出や申請に不慣れな一般の民泊オーナーでは一苦労です。どの書類を、どのように書けば良いのか分からないことが多いといいます。申請代行をお願いするのであれば、当然費用がかかってきます。


さらに、添付書類の中には「住宅の図面」というものがあります。これは手書きでも良いとされていますが、同じく届出に必要な「住宅の登記事項証明書」記載の内容と同じ寸法にての記載が求められ、個人のオーナーがこれを制作するのは容易ではありません。また、建築時の図面を設計事務所から入手しようにも、その事務所が倒産や廃業等で手に入らないことも多いのです。建築事務所等に依頼をするのであれば、こちらにも当然、多額の費用がかかってしまうことでしょう。


<参考>個人の民泊オーナーが届出の際に必要な添付書類

  • [1] 成年被後見人及び被保佐人に該当しない旨の後見等登記事項証明書
  • [2] 成年被後見人及び被保佐人とみなされる者並びに破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村長の証明書
  • [3] 未成年者で、その法定代理人が法人である場合は、その法定代理人の登記事項証明書
  • [4] 欠格事由に該当しないことを誓約する書面
  • [5] 住宅の登記事項証明書
  • [6] 住宅が「入居者の募集が行われている家屋」に該当する場合は、入居者募集の広告その他それを証する書類
  • [7] 「随時その所有者、賃借人又は転借人に居住の用に供されている家屋」に該当する場合は、それを証する書類
  • [8] 住宅の図面(各設備の位置、間取り及び入口、階、居室・宿泊室・宿泊者の使用に供する部分の床面積)
  • [9] 賃借人の場合、賃貸人が承諾したことを証する書類
  • [10] 転借人の場合、賃貸人及び転貸人が承諾したことを証する書類
  • [11] 区分所有の建物の場合、規約の写し
  • [12] 規約に住宅宿泊事業を営むことについて定めがない場合は、管理組合に禁止する意思がないことを証する書類
  • [13] 委託する場合は、管理業者から交付された書面の写し


国や自治体としては、「最も民泊を実施して欲しい存在」であると考えられる、地方で空き家を持っている方々。この中には高齢の方々が多く、申請の難易度から民泊開業を諦めてしまう人も多いようです。
 

SNSを活用してのヤミ民泊も

民泊がもたらす様々なメリットと地域住民の今までと変わらない安心・安全な暮らしを両立するために施行された住宅宿泊事業法。この施行以前からルールを守らない「ヤミ民泊」は問題になっていましたが、届出をしていない物件が民泊仲介サイト等に掲載されなくなった今、彼らはより地下にもぐっていくことになります。


例えば、SNS上での直接のやり取りにて宿泊客を獲得するという動きが現れています。こうなってくると、より取り締まりにくくなってきてしまうといえるでしょう。また、仲介サイトに登録されている物件が不足すれば、旅行者がこちらを利用するケースも増えると考えられます。
 

住宅宿泊事業法が“アダ”になってはいけない

インバウンドの獲得もそうですが、空家対策や地域活性化等、日本の抱えている課題を一挙に解決できる可能性のある民泊。これは民泊オーナーと地域に利益があり、さらに周辺住民の生活も安全性が確保されるものでなければなりません。そのための施策としての住宅宿泊事業法ですが、これが健全な民泊オーナーから民泊運営の機会を奪い、ヤミ民泊を助長するようなものになってしまってはいけません。まずは、届出がしやすくなるような環境を整備し、適正民泊を増やしていくことが必要なのではないでしょうか。


取材協力=具志堅政史さん(沖縄県在住・民泊適正管理主任者)

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