前回王者が苦しんでいる……
前回王者が苦しんでいる。「最後に勝つのはいつもドイツだ」と言わしめる強国が、メキシコとの開幕戦に0対1で敗れたのだ。スウェーデンとの第2戦でも、後半終了直前のゴールで何とか2対1で勝利した。
優勝候補の大本命に、何が起こっているのか?
レーブ監督が築き上げた「攻守にスキのないチーム」の今
ロシアW杯へ向けた世界のサッカー界は、「いかにしてドイツを破るのか?」をテーマに動いてきたと言っていい。
06年のドイツ大会後にヘッドコーチから昇格したヨアヒム・レーブ監督は、10年南アフリカ大会で当時20代前半だったマヌエル・ノイアー(1※数字は今大会の背番号、以下同)、サミ・ケディラ(6)、トニ・クロース(8)、メスト・エジル(10)、トーマス・ミュラー(13)らを中心に世代交代をはかり、3位入賞を果たした。
彼らが経験値を高めた4年後のブラジルW杯では、攻守ともにスキのないチームが出来上がった。準決勝で開催国ブラジルを7対1で粉砕し、決勝でもリオネル・メッシのいるアルゼンチンを延長戦で振り切る。通算4度目の優勝を成し遂げたドイツは、すでにこの時点でロシアW杯の優勝候補にあげられていた。
それがどうだろう。W杯のプレ大会となる前年のコンフェデレーションズカップを制したチームはW杯で優勝できない、というジンクスに縛られてでもいるのか。スウェーデン戦の勝利で自力でのベスト16入りは可能性が残ったが、予想外の苦戦を強いられている。
主力選手がピークを過ぎたわけではない。いままさに円熟期を迎えた選手ばかりである。
今のドイツには「精神的支柱」が足りない
4年前のチームとの比較で、足りないものがふたつある。
ひとつは精神的支柱の存在だ。前回大会主将のフィリップ・ラームはすでに引退した。02年大会から14年大会まで4大会連続でメンバー入りし、36歳だった前回は若手のアドバイス役も務めたミロスラフ・クローゼのような経験者もいない。
本来ならノイアーがリーダーとなるはずだが、彼はケガによる長期離脱からW杯直前に先発に戻ったばかりだ。いかに経験豊富な守護神でも、チーム全体に目配せをするのは難しい。
自らのプレーを取り戻すのに精いっぱいなうえに、直前のテストマッチでスイスに敗れ、W杯開幕後のメキシコに屈した。勝利したスウェーデン戦も、失点を許している。復帰後はクリーンシートと呼ばれる無失点試合がないのだ。他でもない彼自身が乗り切れていないだけに、リーダーシップを発揮するのは難しい。
今のドイツには「得点が期待される交代カード」が足りない
ふたつ目は交代のカードだ。
ブラジルW杯でチーム2位の3得点をあげたアンドレ・シュールレは、そのすべてを途中出場から記録した。アルゼンチンとの決勝で優勝を決める一撃を放ったマリオ・ゲッツェも、途中出場のひとりだった。ベテランのクローゼも、先発とサブの立場で価値ある働きをした。ガーナとのグループリーグ第3戦で1対2の時間帯に投入され、わずか2分後に同点弾を決めているのだ。
ひるがえって今大会である。メキシコ戦ではマルコ・ロイス(11)、ユリアン・ブラント(20)、マリオ・ゴメス(23)が投入されたが、得点をあげられなかった。スウェーデン戦の得点も、スタメンの2人があげたものだった。
得点源として期待されるティモ・ヴェルナー(9)は、ここまで無得点に終わっている。それもまた、ドイツの苦戦の一因だ。メッシが無得点のアルゼンチンが予選敗退の危機に追い詰められているのに対して、クリスティアーノ・ロナウドが2試合で4点のポルトガルが、1勝1分でグループ首位に立っているのは分かりやすい。エースのネイマールが第2戦で得点を決めたブラジルも復調気配だ。決めるべき選手が取ることで、チームは勢いをつかむことができる。
16回連続でベスト8。今回の結果は……?
大会のレギュレーションは何度か変わっているものの、ドイツは54年大会から16回連続でベスト8以上の成績を残してきた。レーブ監督に率いられたチームは、最終的にどこまで辿り着けるだろうか。