W杯のノックアウトステージは名勝負が多く生まれる
6月14日開幕のロシアW杯も、30日からノックアウトステージへ突入する。ここから先は一発勝負のトーナメント戦であり、試合に注がれる熱も上がっていく。過去のW杯を振り返っても、名勝負と呼ばれる戦いの多くがノックアウトステージで生まれてきた。
そこで今回は、出場国が現在と同じ「32」となった1998年フランス大会以降で、僕自身が実際にスタジアムで観たもののなかから記憶に残るゲームをご紹介しよう。絞り込むのはとても難しかったが、これほど楽しい時間もない。
98年大会決勝トーナメント1回戦 アルゼンチン対イングランド
フランス東部の都市サンテティエンヌで、新たなスターが誕生した。イングランドのマイケル・オーウェンである。
試合は激しい撃ち合いとなる。5分にアルゼンチンが、9分にイングランドがPKで先制し、迎えた16分だった。イングランドのオーウェンがドリブルの加速度を増し、経験豊富なアルゼンチンのDFをかわしていく。鮮やかなドリブルシュートで、ゴールネットを揺らしたのだった。
アルゼンチンも負けてはいない。前半終了間際にトリッキーなFKから同点に追いつく。
後半開始直後には、勝敗に大きな影響を及ぼす“事件”がおこる。相手のファウルに報復行為を働いたとして、イングランドのデイビッド・ベッカムが退場となってしまうのだ。10人になったイングランドは攻め手を失っていくが、後半も延長戦も耐えきる。しかし、PK戦で力尽きた。
この試合には続きがある。母国のメディアに批判されたベッカムは、4年後の日韓W杯にキャプテンとして出場し、アルゼンチンとのグループリーグでPKを決める。4年越しのリベンジを果たし、母国をベスト8まで導いたのだった。
98年大会準決勝 ブラジル対オランダ
壮絶な死闘だった。46分、怪物ロナウドの個人技でブラジルが先制する。しかし、準々決勝でアルゼンチンに競り勝ったオランダも負けていない。後半終了間際にクライファートが同点弾を叩き込む。
どちらも譲らない一戦はPK戦へもつれ、ブラジルが4対2でファイナルへのチケットを手にする。その瞬間、名将マリオ・ザガロは涙を流した。選手たちも歓喜を爆発させた。歴戦の勇士たちが感情を解放するほどの戦いだったのは間違いないが、ブラジルはここで緊張の糸が途切れてしまったのかもしれない。優勝候補の最右翼と目されたサッカー王国は、5日後のファイナルでフランスに0対3の完敗を喫してしまうのである。
06年大会準決勝 イタリア対ドイツ
大会開幕を前に、イタリアは揺れていた。国内リーグで審判の買収などが行われたスキャンダルが発覚したのだ。しかし、選手たちは結束を強めて勝ち上がっていく。
開催国ドイツと激突した準決勝では、現ヴィッセル神戸のルーカス・ポドルスキーらを擁する相手の攻撃をシャットアウトし、延長後半終了間際に2点を連取して勝利する。決勝戦でもフランスにPK勝ちしたイタリアは、82年大会以来4度目の頂点に輝いたのだった。
10年大会決勝 スペイン対オランダ
08年の欧州選手権を制していたスペインが、同国史上初のW杯優勝を成し遂げた。「欧州以外で開催された大会は南米勢が制する」というジンクスを破り、なおかつ「グループリーグの初戦で敗れたチームは優勝できない」というジンクスも覆した世界制覇だった。
バルセロナ所属選手を中心とした華麗なパスワークが注目を集めたが、スペインの勝因は鉄壁の守備力だ。決勝戦を含めて7試合をわずか2失点で乗り切った。
オランダとの決勝は0対0のまま延長戦へもつれるが、PK戦直前にスコアが刻まれる。延長後半の116分、イニエスタがゴールを決めたのだ。7月からJリーグにやってくる世界屈指のテクニシャンが、母国を初のW杯優勝へ導いた一戦である。
14年大会準決勝 ドイツ7対1ブラジル
W杯で史上最多5度の優勝を誇るサッカー王国が、過去最大の悲劇に襲われた一戦である。W杯では02年大会の決勝以来となるドイツとの対戦で、ブラジルはキャプテンで守備の中心チアゴ・シウバを出場停止で、ここまで4得点のネイマールをケガで欠いていた。
攻守の要が不在のチームは、前半30分までに大量5失点を喫してしまう。その後も反撃の糸口さえつかめず、後半にも2失点を献上する。終了間際に1点を返したものの、同国史上ワーストタイの6点差をつけられ、1対7の惨敗となった。試合が行われたスタジアム名から、ブラジル国内で“ミネイロンの惨劇”と呼ばれている歴史的敗戦である。
気象条件がいいロシアW杯では、グループリーグから好ゲームが繰り広げられている。語り継がれる名勝負が生まれる可能性は大、と言っておこう。