なぜ西野朗監督は「ベテラン」を選んだ?

西野朗監督はなぜ若手メンバーをロシアW杯日本代表メンバーに招集せず、ベテラン勢を集めたのだろうか。その思惑を探った。

西野監督のメンバー選考は「手堅い」?

西野朗監督(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

ロシアW杯に挑む日本代表のメンバーは、ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督が選んだメンバーとは異なる色彩を映し出す。
 

前監督は久保裕也、浅野拓磨、井手口陽介、中島翔哉ら、25歳以下の選手たちを積極的に起用してきた。それに対して西野朗監督は、W杯出場経験のある選手たちを多く揃えた。久保ら4選手は、メンバーから漏れた。
 

経験と実績のある選手を揃えたことから、西野監督のメンバー選考は「手堅い」と言える。
 

ただし、各選手の置かれている状況が変わってきたのも確かだ。

W杯アジア最終予選の突破に貢献した浅野と井手口は、所属クラブでの出場機会を減らしていた。ハリルホジッチ前監督のもとで戦った3月のテストマッチにも、彼らは招集されていない。一方で、前監督指揮下でアピールに欠けた本田圭佑は、昨夏に移籍したメキシコのパチューカでレギュラー格の働きを見せた。実戦感覚についての不安は一掃した。
 

判断が難しかった香川と岡崎。なぜ選ばれた?

香川
香川真司(写真:アフロ)

判断が難しかったのは、香川と岡崎だろう。ケガの治療やリハビリに長い時間を費やしてきたふたりは、浅野や井手口と似たような状況にあった。久保や中島との比較では、所属クラブでのアピールで明らかに劣っていた。香川のポジションには、ベルギーのクラブで奮闘した森岡亮太もいた。
 

それでも、西野監督は香川と岡崎を選んだ。
 

理由はいくつかあるだろう。戦術との相性やポジションのバランスがあげられてきたが、どちらも決定的な理由とは成り得ない。
 

最大の理由は、彼らの経験値だ。と言っても、単に彼らがW杯の出場歴があることを指すのではない。チームに精神的な落ち着きをもたらす意味での経験値だ。
 

ロシアW杯の23人から、本田、香川、岡崎を除いて、浅野、中島、久保を入れてみる。攻撃的なポジションで最年長となるのは、6月2日に30歳になった乾だ。彼はドイツとスペインのクラブで長くプレーしているが、W杯は今回が初めての出場だ。年長者として攻撃陣のまとめ役になるのは、少しばかり厳しい。
 

もし攻撃陣のW杯経験者が「大迫勇也だけ」だったら…

大迫
大迫勇也(写真:アフロ)

28歳の大迫勇也は、2度目のW杯出場である。本田ら3人がいなければ、攻撃陣では唯一のW杯経験者となる。4年前のブラジルW杯終了直後に「次は自分たちの世代が中心にならないといけない」と話した大迫は、そのとおりにフォワードの軸としてロシアへ乗り込む。
 

ただ、チームの得点源としての重圧は、これから日増しに強まっていく。ストライカーとしてのプレッシャーをひとりで消化し、なおかつ控え選手にまで目配せをするのは難しいだろう。
 

W杯を戦う中で必要な「立場をこえた一体感」

23人の選手たちは、もうすぐ序列を知る。スタメンと控えという立場を、日々の練習やミーティングから感じっていく。
 

そこで重要なのは、立場をこえた一体感だ。本田、香川、岡崎の3人は、スタメンで出場しても、控え選手にまわっても、チーム全体の雰囲気を高めることができる。彼らがいることで、大迫はもちろん宇佐美貴史、原口元気、武藤嘉紀といったアタッカー陣は、自分のプレーに集中することができるのだ。
 

若くてイキのいい選手を選んだぼうが、結果はともかく日本サッカーの未来につながる、という意見はあるだろう。ただ、勝つことで切り開かれる未来もある。「勝利の可能性を1パーセントでも高めるための23人」を、西野監督が選んだのは間違いない。

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