6月開幕のサッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会で、ビデオ・アシスタント・レフェリー(以下、VAR)が導入されることになった。映像を使ってゴールやファウルなどの判定を補助するテクノロジーの導入は、どのような効果をもたらすのだろうか。
VAR導入のメリットとは?
ビデオ・アシスタント・レフェリー(以下、VAR)のような映像を使った判定の確認は、すでに多くのスポーツで取り入れられている。テニス、バレーボール、バスケットボール、ラグビーなどで導入されており、日本のプロ野球でも今シーズンからビデオ映像によるリプレー検証を求める「リクエスト」が採用されている。
VARのメリットは誤審の防止だ。
得点なのか、ノーゴールなのか。
オフサイドなのか、オンサイドなのか。
警告に相当する反則なのか、退場に値するファウルなのか──。
試合の結果に影響するそれらの判定の確度を高めることは、チームにも選手にも、観衆にも利益をもたらす。
根拠が示されない不透明さ
一方で課題とされてきたのは、VARに伴う中断だった。
主審が映像を確認している間、ゲームは動きを止める。監督が選手を呼び寄せて指示を送ったり、選手同士で話し合いをしたりはできるが、サッカーが持つスピード感が阻害されたり、試合の流れそのものが変わったりしてしまう、との指摘は絶えない。
何よりも、判定が覆った際の根拠がその場で明示されないことが、VARへの不信感の根本的な原因となっていた。選手も観衆も映像を確認できないから、不利益を被った側にすれば「どうして?」との疑念を抱いてしまうのだろう。
そこで、ロシアW杯ではVARの映像がスタジアムのスクリーンに映し出されることになりそうだ。主審だけでなく選手も観衆も同じ映像を観て、VARに基づいた判定の根拠を共有できるようにするのだ。映像の“即時全面公開”と言っていいだろう。
ラグビーでは納得のため息が
筆者はラグビーの取材で、サッカーのVARにあたる「テレビジョン・マッチ・オフィシャル」(以下、TMO)が使われる瞬間に立ち合ったことがある。
最初のうちは、ゲームが止まってしまうことへのそこはかとない抵抗を感じていた。しかし、微妙なジャッジをすぐに映像で確認するのは、判定に対する誤解を取り除くことにつながる。映像を観た観衆から、納得のため息が漏れることは多い。ゲームが中断するデメリット以上のメリットがあるというのが、個人的な肌触りだ。
4年に1度のワールドカップに限らず、サッカーの歴史のすぐそばには物議を醸す判定があった。有名なのは1986年のメキシコW杯準々決勝、アルゼンチン対イングランド戦だろう。相手GKと競り合ったディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)が、ジャンプしながら振り上げた左手でボールをゴールへ押し込んだ。イングランドはハンドを主張したが、主審は得点を認めた。いわゆる”神の手”と呼ばれるゴールである。
こうした誤審は因縁を生み、観る者に新たな魅力を提供する場合もある。そうだとしても、21世紀のテクノロジーを活用しないのは合理性に欠けるというものだ。審判を欺くような姑息な手段に頼らないように、サッカーという競技の進歩を結果的に促していくなら、VARの導入と映像の即時全面公開には確かな意義があるはずだ。