静止しているはずの絵がゆらぐ?「オプ・アート」の展覧会が始まる

錯視の効果を取り入れた絵画「オプ・アート」は1960年代に隆盛を極めました。「オプ・アート」の代表的な画家ブリジット・ライリーの日本で38年ぶりの展覧会が開催されます。

ゆらいでいるように見えるのはなぜ?

錯視の効果を取り入れた絵画「オプ・アート」は1960年代に隆盛を極めました。「オプ・アート」の代表的な画家ブリジット・ライリーの日本で38年ぶりの展覧会が開催されます。
 

イギリスの芸術家ブリジット・ライリー(1931-)は、幾何学的パターンによって画面に動きをもたらす抽象絵画で知られます。ライリーの絵画をじっと見つめると、乗り物酔いに似た感覚に陥るかもしれません。このような感覚は錯視と呼ばれる現象のひとつ。

《正方形の動き》1961 年 テンペラ、板 123.2 x 121.3 cm アーツ・カウンシル、ロンドン © Bridget Riley 2018, all rights reserved. Courtesy Karsten Schubert, London.
《正方形の動き》1961 年 テンペラ、板 123.2 x 121.3 cm アーツ・カウンシル、ロンドン
© Bridget Riley 2018, all rights reserved. Courtesy Karsten Schubert, London.

私たちは絵画を見るとき、目の前に絵画があると感じます。しかし、目を閉じると絵画は見えません。目を開いていても、真っ暗闇にすると絵画は見えません。目と光がなければ色は見えないのです。目がとらえた光の情報は脳に伝達され、脳内のスクリーンに色が映し出されます。
 

眼球運動とは?

私たちはある一点を凝視するとき、目を動かしていないと感じるでしょう。しかし、人間の目を動かす筋肉は完全に静止することはありません。たとえ目を動かさなくとも、眼球は常に揺れるように動いています。これを眼球運動と呼びます。
 

日常生活でゆらぎを感じないのは、脳に眼球の揺れを補正する機能が備わっているから。しかし、幾何学的なパターンではその機能がうまく働きません。眼球の動きを対象の動きと脳が判断するため、絵画がゆらいでいるように見えるのです。
 

新印象派スーラの先へと進化した絵画

若き日のライリーは独自の絵画を模索するなかで、新印象主義の画家ジョルジュ・スーラの研究を行いました。
 

絵の具は、赤と黄色を混ぜるとオレンジ色を、黄色と青を混ぜると緑色を、青と赤を混ぜると紫色をつくることができます。このように、絵の具は色と色を混ぜることによって、さまざまな色を作り出すことができますが、混ぜれば混ぜるほど暗く濁っていきます。
 

光学の研究が進んだ19世紀後半、明るい色を求めた印象派の画家たちは、点描技法による作品を発表しました。絵の具を混ぜるのではなく、さまざまな色の小さな点を描くことによって、人の目による混色が起きることを発見しました。例えば、黄色と青の絵の具を小さな点で描くと、絵の具を混ぜてできる緑色よりも、明るい緑色に見えるのです。このように、点描という技法は、人の目の生理機能を利用した画期的なものでした。

《朝の歌》1975 年 アクリル、カンヴァス 211 x 272 cm DIC 川村記念美術館
《朝の歌》1975 年 アクリル、カンヴァス 211 x 272 cm DIC 川村記念美術館
© Bridget Riley 2018, all rights reserved. Courtesy David Zwirner, New York/ London.

ライリーはスーラの表現を抽象に発展させ、自然から受けるゆらめくような印象と同様の視覚的効果を自身の絵画で実現すべく探求し始めました。
 

本展のみどころ

DIC川村記念美術館で14日からはじまる展覧会「ゆらぎ ブリジット・ライリーの絵画」では、1960年代の代表的な黒と白の作品、1970年代を中心としたストライプ作品、1990年代の曲線をもちいた作品、そして近年のウォール・ペインティングを含む約30点を紹介し、あらためてライリー作品の魅力に迫ります。

《ラジャスタン》 2012 年 鉛筆、アクリル、壁 228.6 x 426.7 cm 個人蔵
《ラジャスタン》2012 年 鉛筆、アクリル、壁 228.6 x 426.7 cm 個人蔵
© Bridget Riley 2018, all rights reserved. Courtesy David Zwirner, New York/ London.

本展出品作のなかでもひときわ大きな作品《ラジャスタン》は、展覧会の壁に描かれる壁画作品。ライリーが構図を考案し、アシスタントを使って制作します。展覧会が始まる直前に完成し、終了後に撤去されます。
 

色彩理論と心理学、知覚生理学をもとに考案され、ゆれ動く自然の印象を再現する「オプ・アート」を体験するまたとない機会となるでしょう。

 
【展覧会情報】
展覧会名:ゆらぎ ブリジット・ライリーの絵画
会場: DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市坂戸631番地)
会期:2018年4月14日(土)-8月26日(日)
開館時間:午前9時30分-午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜(ただし4月30日、7月16日は開館)、5月1日(火)、7月17日(火)
URL:http://kawamura-museum.dic.co.jp/

 

【参考】

Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

注目の連載

  • 世界を知れば日本が見える

    韓国の戒厳令、尹大統領はなぜ突然「乱心」したのか。野党だけではない、北朝鮮とアメリカからの影響

  • ヒナタカの雑食系映画論

    独断と偏見で「2024年のホラー映画ランキング」を作成してみた。年末に映画館で見るならぜひ第3位を

  • ここがヘンだよ、ニッポン企業

    「あれは全て私がやりました!」 わが社の“承認欲求モンスター”をどう扱うべきか?

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    静岡の名所をぐるり。東海道新幹線と在来線で巡る、「富士山」絶景ビュースポットの旅