クセがちょっと強かった!極上の遊び心で魅せた2018年冬ドラマ

遊び心がふんだんに盛り込まれた2018年冬ドラマ。遊び心はさじ加減が難しく、つくり手のセンスが問われます。そのセンスが抜群だった今シーズン、時代の感覚をみごとに映した「遊び心」で視聴者を楽しませました。

2018年冬のドラマが最終回を迎えました。小ネタや他作品へのオマージュ、顔芸など「遊び心」のある手法は、近年のドラマでよく見られていますが、今シーズンはその「遊び心」がさらに際立っており、ひと癖あるドラマや変化球のあるドラマが目立ちました。骨太なメッセージが込められたドラマには、肩のチカラが抜けるような笑いがスパイスされ、視聴者を楽しませてくれたことも印象的。重さと軽さの「絶妙なバランス」が時代のニーズと言えそうです。
 

「アンナチュラルらしさ」に夢中になった『アンナチュラル』

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人気脚本家・野木亜紀子初のオリジナル作品『アンナチュラル』。今なお「ロス」は続きます。真犯人は誰なのか、犯人の殺害を実証できるのか、最終回に向け結末を見立てる視聴者のSNSへの投稿は興味深いものばかり。みんなでワイワイ盛り上がることはとても楽しいことです。


舞台となった不自然死究明研究所・UDIラボのメンバーたちが法医学の立場を貫き、失敗も含め経験してきたことを最終回で生かしきれたのは、迷い悩み傷ついてきたからこそ。カラッと明るい陽射しがあふれた最終回には、アンナチュラルらしい遊び心と心地よさがありました。


印象的だったのはミコトと母親・夏代(薬師丸ひろ子)の会話です。立ちはだかる不条理と自らの信念の間で揺れ動き、こたつの中で「負けそう」と涙をこぼすミコトに「生きてる限り、負けないわよ」とミコトの髪をなでた夏代。観ているこちらも涙があふれました。事件解決後に「絶望している暇もない」と次の仕事に向かうミコトからの電話に「最高じゃない」と返した夏代の言葉も、アンナチュラルらしいやさしい風景だったと思います。
 

好奇心の右肩上がりがみごとだった 怪演乱立の『FINAL CUT』

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濃厚な人間ドラマを深掘りする関西テレビ制作の火曜21時ドラマ『FINAL CUT』は、亀梨和也演じる主人公の中村慶介が亡き母親の無実を晴らす劇場型の物語。人気キャスターを演じた藤木直人、弁護士一家の二女・若菜を演じた橋本環奈、最終回まで姿を見せなかった若菜の兄を演じた山崎育三郎、3人の怪演が物語を盛り上げました。


メディアの暴走を掘り下げたテーマ性と慶介が目的を果たすため温存していたカード「FINALCUT」(相手にとって致命的な映像)の切り方を、最終回で一気に見せた手法は新鮮でした。そもそも事件が拡大してしまった背景とも言える「夫婦の内面」にもう少し説得力がほしかった感じもありますが、意外性に頼らない、意味を持った「ハッピーエンド」にまとめられたことで、ドラマが本来伝えるべき「希望」が際立ち、最終的に素敵な作品に仕上がっていたと思います。
 

「テレビ的」を存分に生かしたスケール感『BG~身辺警護人~』

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木村拓哉主演で民間の警備を描いた『BG~身辺警護人~』。キャストの豪華さでスタート前から話題でしたが、さらに視聴者の期待を超えたゲストのキャスティングと話題づくりには、テレビの手腕を感じます。島崎の別れた妻役に山口智子、最終回で日ノ出警備保障身辺警護課が警護を担当した本人役の矢沢永吉、新人として登場した健太郎、とにかく贅沢、華やぎました。

「出来過ぎ」のシーンも多いとはいえ、木村拓哉が演じると不思議と納得できた一方、主人公を追い過ぎることなく、上川隆也、江口洋介、斎藤工、石田ゆり子、間宮祥太朗、菜々緒など、個性派レギュラー陣をしっかり描いたところには作り手の熟練の技を感じました。
 

時空を超えたミステリー&ファンタジー 『トドメの接吻』

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挑発的なタイトルや「タイムリープ」の世界感は、万人受けを望めませんが、いわゆる中毒性のある作品だったと言っていいかもしれません。ホストクラブで完結してしまう狭い世界や、近代化しきれない「並樹グループ」の濃厚な人間関係を念押しするような、菅田将暉が歌う主題歌「さよならエレジー」。レトロ感漂うメロディーもその世界観を盛り上げました。


なつかしい雰囲気がある一方、「キスで時間が戻る」といった新しい作品を大胆に作ろうとした、作り手の熱い想いが伝わってきます。物語のその先をHuluで楽しむ手法が今後どうなっていくのかは注目したいところ。
 

変化球が多いからこそ、直球が胸に届く『99.9-刑事専門弁護士-』

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『99.9-刑事専門弁護士-』の強さは、小ネタやパロディをてんこ盛りにしながら、主人公深山大翔(松本潤)の想いがきちんと視聴者に伝わっていること。熱弁をするわけでもなく、説得力ある言葉をたくさん投げかけるわけでもなく、それでもちゃんと伝わっていたところに、視聴者とドラマがつくりあげている信頼関係が成功していると感じます。事件解決後、佐田篤弘(香川照之)と握手を交わし称え合う、言わば「良いシーン」で「一緒にしないでください」と言った深山。そこでも「深山らしい」と視聴者が納得できるのは、作品全体に「軽やかさ」があるから。この「軽やかさ」を巧みに支えているのが、岸部一徳、マギー、レキシたちと心地いい音楽です。


笑福亭鶴瓶演じる裁判官の川上憲一郎が、判決前に一人被告人席に立つ場面で音を消した演出は逸品。いくつもの要素、多様性を詰め込みながら散乱することなく引き締める、プロの技術が散りばめられた名作と言えるでしょう。


そのほか、『ホリディラブ』でブレーキがかからない井筒里奈を演じた松本まりか、偏った思考で視聴者を困惑させた井筒渡を演じた中村倫也、『きみが心に棲みついた』で視聴者を凍り付かせるほどの冷酷な男・星名漣を演じた向井理、嫉妬心をメラメラと燃やす飯田彩香を演じた石橋杏奈。彼ら4人の狂気も今シーズンを盛り上げました。

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