アウトサイダーとして新しいジムカーナイベントを
「須藤元気がバイクのイベントを主催する」……。元格闘家で、「WORLD ORDER」ではダンスのパフォーマンスも披露する須藤元気氏が、バイクのイベント「MOTO GYMKHANA(モトジムカーナ)」を主催するというニュースを知った時は驚きました。
ジムカーナとは、舗装されている道路にパイロンなどを設置してコースを作りゴールまでのタイムを競う競技のこと。今回須藤氏が企画した「モトジムカーナ」は、2018年4月8日に大磯ロングビーチの駐車場で、バイク用品店のナップスが運営し、協力をオートバイやミスターバイクBGを製作しているモーターマガジン社、二輪ジムカーナ主催者団体協議会が行います。
このニュースが気になり、バイクガイドである筆者はインタビューをしたくなりました。その理由ともなるキーワードは「アウトサイダー」。バイク業界に浸かってこなかった、つまり「アウトサイダー」である須藤元気氏だからこそ、新しい価値観でイベントを作り、新しいバイクファンを作り出すはず。そのように期待せずにはいられないのです。
どのような思いを込めて、どのような狙いがあってこのイベントを企画したのか、ナップスや須藤元気氏の事務所の協力があり、ついにインタビューは実現しました。
勝負師からプロデューサーへ
――今回ジムカーナイベント・モトジムカーナを主催されるということですが、周囲の反応はいかがですか?
須藤氏「なんで須藤元気がバイクなの?と思った方が多いと思うのですが、雑誌の記事などを通して僕自身がプロライダーを目指して断念したこと。そんな中でジムカーナの存在を知り、どんどんのめり込んでいき、ジムカーナの魅力、オートバイの魅力を世の中に伝えたいと考えるようになったことなどを知ってもらうにつれ、その背景を理解してくれたと思っています」
――先日モトジムカーナのFacebookアカウントの投稿を拝見しました。トミンモーターランドにイベント当日用のコースを作ったといいますが、試走しましたか?
須藤氏「正直、すごく久しぶりにジムカーナのコースを走ったのですが、半年ぐらい練習していなくて、また初級に戻っちゃったなという感じでした。ウォーミングアップで八の字走行をやっていたのですが、感覚が戻ってこなくて転んでしまいました」
――愛車のMT-07で走行されたのですか?
須藤氏「そうです。モトジムカーナを主催することが決まる前は大会に出て勝負したいと思っていたので、時間があれば埼玉のレインボーモータースクールに週に1回から2回ぐらい通っていました。しかし、今は自分が走って満足するよりも、バイク業界やジムカーナを盛り上げたい!という気持ちが強くなってきたというのが、正直なところです」
須藤元気が感じるジムカーナの魅力とは?
――私の個人的な印象ですが、須藤さんが格闘技で全盛のころを見てきたので「勝負師」というイメージが非常に強いですが、今回ジムカーナを主催するにあたっては自分が大会で勝ちたい!というよりは沢山の人に楽しんでもらいたい!という気持ちに変わってきた、ということでしょうか?
須藤氏「はい。ジムカーナはすごくポテンシャルのある競技だと思います。ロードレースになると、ツナギを購入したり、物理的にも心理的にも『参入障壁』が高いと思うのですが、ジムカーナは気軽にできるし奥が深い。一方で、語弊を恐れずに言えば、ロードレースよりも難しいところもあると思っています」
――確かに細かいターンが続くことが多いジムカーナは、繊細な操作が必要になる部分があるかもしれませんね。
須藤氏「そういう意味ではジムカーナは、すごく日本的なモータースポーツなのかなという気がしますね。ジムカーナは世界に出せるコンテンツだなと感じていて、エンターテインメント性を追加していけば爆発的にヒットしていく可能性を感じています」
――ジムカーナはサーキット走行に比べて速度域が低く、転倒時の車両の破損やケガの度合いは小さくて済む部分があるかと思うのですが、須藤さんが感じるジムカーナの魅力とはなんでしょうか?
須藤氏「他のバイク競技もそうですが、ディティールを追求しないと勝てないところですね。ブレーキングや荷重のかけ方(つまり体重のかけ方)がすごく深いと思います。伝統工芸にも通じるところがありますし、格闘技でいうとブラジリアン柔術みたいなものに近いです。ブラジリアン柔術は握り方などテコの力を大事にするところがあります。ジムカーナの上級者は人馬一体で、バイクが自分の身体の一部になっているかのように扱っているところを見ると、奥の深さを感じます」
世界的なエンターテインメントに…
――モトジムカーナのニュースを私が報じた際、「僕じゃできないのではないか?」「コースが覚えられないのではないか?」というコメントを見かけました。コースを作る際に考慮したポイントはありますか?
須藤氏「コースが覚えづらいというのがジムカーナ最大の心理的な障壁となっていると思います。今回は二輪ジムカーナ主催者団体協議会の方に理想を伝えてコースの製作をお願いしました。その際に、覚えるとか覚えないとか関係ないぐらいシンプルなコースにしてもらいました。コースができた後に、『あ、これはちょっと初心者にはパイロンを曲がり切れないな』というポイントは角度を緩やかにしたり、バイクの車種によって優劣が出ないようにすることも意識しました」
――バイクのイベントはバイク好きだけが楽しめるものが多かったように感じますが、エンターテインメント性を追加することでファンを増やすことができるかもしれません。
須藤氏「わかりやすく、格好良さとかエンターテインメント性をだしていくことで競技人口は増えていくと思います。今回のモトジムカーナでは一騎打ちで競い合うスタイルにしているのですが、これは見ている人にとってのわかりやすさを重視して取り入れたものです」
―― 一騎打ち方式というのは面白いポイントですよね。
須藤氏「コースをシンプルに初心者でも走りやすくしたので、普段からジムカーナをやっている人達は物足りないかもしれませんが、一騎打ちという方式をとることで通常のジムカーナとは違ったものになっていると思います。対戦相手がいるっていうのはジムカーナをやっている人たちも体験したことがないはずです。隣でよーいどんで走ると、いつものパフォーマンスができなかったりする人も出てくると思います。対戦相手がいることで絶対王者が作りにくくなってくるので、そこも面白いポイントだと考えていますね」
――須藤さんは大会当日、競技に参加しないことを表明していますが、大会にはいらっしゃるんですよね?
須藤氏「もちろんです。主催なのに下手なところを見せてしまったら盛り上がらないじゃないですか(笑)ただ前日も自分のバイクで走り込みはしますよ」
バイクに注目が集まるきっかけになるか?
二輪業界では、もっとバイクのファンを増やしていこうと大きなイベントなどが行われることがあり、一般の方が見ても楽しめるコンテンツを増やしている風潮はあります。
今回、世界から称賛されるダンスパフォーマンスユニット「WORLD ORDER」のプロデュースを手掛ける須藤氏がバイクのイベントをプロデュースすることで、更にバイクイベントのエンターテインメント性が高くなってくるのではないかと感じました。
インタビュー中、今回は第0回大会と位置付けていると須藤氏のコメントもありました。1回で終わらせず、大会のフィードバックを受けてさらに大きなイベントに成長させていく狙いがあるようです。
バイク業界には、バイク好きに抜群の知名度を誇るライダーは存在するものの、一般知名度の高い人物といわれるとほとんどいなかったのではないかと思います。須藤氏のように一般知名度も高い有名人が、バイクを中心にしたエンターテインメント性の高いイベントを成長させていけば、バイクに注目が集まっていくのではないでしょうか。今後も須藤氏の動向をチェックしていきたいと思います。
撮影=泉 三郎
衣装協力=HUGO BOSS JAPAN