高木美帆選手の復活とパシュートの金メダル獲得
日本選手団メダル獲得総数11個(22日現在)に湧く、平昌冬季五輪大会。中でも女子スピードスケート・パシュートでの金メダル獲得は、マネジメント的観点から大いに注目に値すると感じています。
最大の注目点は、パシュートチームの柱となっている高木美帆選手の復活でしょう。高木選手は8年前のバンクーバー大会の時に、15歳の中学生でありながら代表に選ばれ話題を集めたものの結果は残せず、同大会で銀メダルを獲ったパシュートチームでも、補欠扱いで試合に出ることはありませんでした。そして14年のソチ大会では代表落選の憂き目に遭います。
そんな高木選手が2大会ぶりに五輪代表に選ばれ、しかも個人で銀、銅メダルを獲得しこのパシュートのリーダー格としてチームを金メダルに導いたのです。常識では、世界最高峰の舞台で、「惨敗→代表落ち」を経験した選手が、復活を遂げて頂点に立つというのは非常に希なケースであると言えるでしょう。
デビッドコーチがとった「データ主義の徹底」
その陰には、今大会に向けてスケート王国オランダから招聘した、ヨハン・デビッドコーチの存在があるのだと、各メディアが報じています。
デビッド氏はそれまでの日本的な指導方針を根本から作り直したと言います。具体的には、細かい技術の向上に注力する日本的指導から、徹底したデータ主義で王者オランダチームとの比較でどの数値をどのように伸ばしたら世界一になれるか、論理的な裏付けを持って指導をしたのです。
簡単に言うとこういうことです。日本的マネジメントにありがちなことでもあるのですが、実績が上がらずに敗因につながるような悪い点が何か見えると、徹底的にそこばかりに着目して改善をかけていく、そんなやり方が従来のパターン。
日本のモノづくりの過剰品質は、このような対処療法的なマネジメント・スタイルにも一因があります。デビッド氏のやり方は、あくまで全体感をもってどの数値をどこまで上げるかに注力し、欠点補正もその中でおこなっていくというもの。すなわち、あくまで勝つための到達点をデータに基づいて論理的に用意し、ひたすらそこを目指して登っていく、というやり方なのです。
すなわち、高木選手復活によるパシュートチームの金メダル獲得の裏には、細かいことにばかり固執しがちであるという国民性がもつ欠点を鋭く突く、日本的なマネジメントへの改善提案とも言えそうなデータ主義の徹底を見ることができるのです。
日本的な「チームワームを重視」の組織マネジメントも影響
一方で、今回の優勝の要因には、日本的な組織マネジメントの良さもまた見ることができます。それはチームワームを重視するという、個人主義に走りがちな欧米には真似のできないものでした。
決勝戦の対戦相手であったオランダチームは、出場3選手がともに個人競技のメダリストであるという超強力な布陣でした。単純な個人記録の合算では到底勝てないと思われた相手を打ち負かした裏には、年間300日を合宿で寝食を共にすることで培われた目に見えないチームワーク力がそこに大きく働いていたと言えます。
思い起こせば2年前のリオデジャネイロ夏季五輪大会で、世界の強豪がひしめく陸上男子400メートル・リレーで、100メートル競争のファイナリストがゼロというチーム構成でジャマイカに次ぐ銀メダルを獲ったのもまた、他国が軽視したバトンテクニックの練習を重ねることで積み上げたチームワーク・プレーの成せる技でありました。
女子スピートスケート・パシュートの金メダル獲得は、日本的マネジメントの欠点補強ポイントと利点強化ポイントを教えてくれた、素晴らしい手本であると思います。