元横綱・千代の富士死去 膵臓がんとはどのような

大相撲で31回の幕内優勝を誇る元横綱・千代の富士の九重親方(本名・秋元貢)が31日午後5時11分、膵臓癌(すいぞうがん)のため都内の病院で死去した。61歳だった。昭和を代表する力士を苦しめた「膵臓がん」とはどのような病なのか。専門家が解説した。

九重親方と秋元梢さん

膵臓がんで亡くなった九重親方(左)と、次女でモデルの秋元梢さん=2012年12月20日(写真:MANTAN/アフロ)

大相撲で31回の幕内優勝を誇る元横綱・千代の富士の九重親方(本名・秋元貢)が31日午後5時11分、膵臓癌(すいぞうがん)のため都内の病院で死去した。61歳だった。

告別式は7日正午、東京都墨田区の九重部屋。喪主は妻の久美子さん。

九重親方は昨年9月、早期の膵臓がんを患っていることを公表。治療を続けながら、九重部屋での弟子の指導や、相撲協会での監察委員の業務をこなしていた。7月の名古屋場所の途中から体調を崩して休場していたという。

九重親方は1970年秋場所初土俵。75年秋新入幕で、81年秋に横綱となった。「ウルフ」「小さな大横綱」の愛称で親しまれ、89年には国民栄誉賞も受賞した。91年夏場所で引退し、92年に「九重」を襲名して部屋を継承。師匠として千代大海などを育てた。

なお、九重親方の次女で、モデルの秋元梢さんが31日、Twitterを更新し、「最期は苦しむ事なく、家族全員に看取られて、息を引き取りました」と報告し、「父の娘に生まれて、幸せです」と父をしのんだ。

昭和を代表する人気力士を苦しめた膵臓がん(すい臓がん)とはどのような病気なのか。医学博士の狭間研至氏はAll Aboutで以下のように解説している。

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早期発見が難しい・治療成績が良くない「膵臓がん」とは

狭間氏によると、近年はがん検診の普及や検査法の進歩によって、多くのがんの早期発見が可能になってきているが、膵臓がんについては「患者数も多く、見つかりづらいがんの代表が膵臓がんです。また、治療成績が他のがんに比べて良くないことも特徴です」と説明する。

見つかりづらい、そして治療成績が良くないことの理由は、

  • 膵臓が周囲を胃や腸、肝臓や胆嚢にかこまれた体の中心部近くにあること
  • 初期にほとんど特徴的な症状がないこと

が挙げられるという。

狭間氏によると、膵臓がんの患者の訴えで多いのは、

  • 何となく胃のあたりがすっきりしない
  • 背中の方が重たい感じがする
  • 食欲がない
  • 便通が不安定

といったものだという。これらの症状のほとんどは心配ないものだが、「もし、症状が長引いている場合や、徐々に強くなっているような場合には、一度、内科の先生にご相談になることをお勧めします」と狭間氏は述べている。
 

膵臓がんが進行すると……

膵臓がんの進行に伴って見られる症状には、局所の進展によるものと、他の臓器への転移によるものに分けることができると狭間氏は説明する。

1)局所の進展による症状
膵臓がんができる部位によって、症状の出方は異なるという。膵頭部と呼ばれる膵臓のうち十二指腸寄りの部分にできた場合には、腫瘍の増大に伴って、胆汁の流れが障害されるようになり、黄疸が出現することがある。

また、周辺のリンパ節が腫れることも重なって、消化管の通過障害が出現し、食べたものを嘔吐してしまうといった症状も出てくる。さらに、後腹膜と呼ばれる背中側の神経叢に浸潤していくと、強く持続的な痛みが出てくることがあるという。

膵臓からは、インスリンという血糖を下げるホルモンが分泌されているが、膵臓がんによって血糖値が上昇したり、糖尿病が悪化したりすることがある。

2)他臓器への転移による症状
膵臓がんも、他のがんと同様に、骨や肺、脳への転移が認められるが、血流の関係もあり、肝臓への転移が多く見られるという。肝臓への転移によっても、黄疸が見られることがある。

九重親方は胃や肺などにも転移していたという報道もある。

また、他のがんにも共通のこととして、特に要因なく体重が減少したり、帯状疱疹(ヘルペス)を発症したりする場合には、何らかの悪性疾患の存在も疑われるため、「万一、このような兆候が出た場合には医療機関を受診するようにして」と狭間氏は呼び掛ける。

治癒率をあげるためには、早期発見・早期治療が大切といい、早期発見のためには初期症状に注意すると共に、年に1回の定期的な健康診断を受けることを、狭間氏は勧める。
 

膵臓がんの治療の進歩

膵臓がんに限らず、がんに対する治療は、手術、抗がん剤、放射線治療という3つの治療法を、患者の状態に応じて組み合わせて行っていくが、以下のように膵臓がん特有の進歩が見られるものもあると狭間氏は述べる。

1)手術
他のがんの手術は、内視鏡を用いた小さい創部による手術が行われるようになってきているが、膵臓がんの手術については、膵臓の体内での位置や周囲の臓器との関係もあり、従来通りの開腹手術が基本。

また、手術術式としては、すい頭十二指腸切除という消化器外科領域では、最も大きく、患者さんへの負担も大きな手術が行われるケースもあるという。

2)抗がん剤
消化器系のがんに対する抗がん剤も、この10年あまりで大きく進歩しており、最近は、患者さんへの副作用を最小にしつつ、最大の効果が得られるような投与方法の工夫も行われ、入院ではなく通院での抗がん剤治療(外来化学療法)も積極的に行われていると、狭間氏は説明する。

3)放射線治療
膵臓が体の中心部に位置することから、膵臓に対する放射線治療を、手術で開腹した時に同時に行う術中放射線療法が行われるケースがある。また、骨や脳への転移について、痛みや症状の軽減のために放射線照射が行われる場合もある。

 

膵臓がんの予防法

特徴的な自覚症状に乏しく、検診でも発見しづらい膵臓がんだが、膵臓がんの予防で、日常生活でも気をつけることが可能なものとして狭間氏は以下の2つを挙げる。

(1)食生活
消化器の疾患なので、食生活の影響があるという。現在、関連が指摘されているのは、高脂肪食や肉食で、過度の高脂肪食や肉食は、膵臓に負担をかけてしまうとも考えられていると、狭間氏は述べる。

また、大量の飲酒は、慢性すい炎を引き起こす原因となるという。慢性すい炎とがんの関係は明確ではないが、膵臓をいたわるという意味で、節酒は非常に重要だと考えられる。

(2)禁煙
狭間氏によると、膵臓がんと喫煙も密接な関係があり、喫煙が膵臓がんの発生リスクを4倍高めるという報告もあるという。


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