「クモ膜下出血」の発症はある日突然に
音楽プロデューサーの小室哲哉氏(59歳)が1月19日、都内で記者会見を行い、引退を発表した。この会見の最後に小室氏は、「介護みたいなことの大変さ、この時代のストレス、そういうことに少しずつこの10年で触れてきたのかなと」といった旨を発言した。
参照:「引退は一人で決断した」 小室哲哉さん【会見詳細3・質疑応答】(ホウドウキョク)
本記事は小室さんの引退について、筆者の専門分野である「介護」を軸に書き進めたい。
小室さんの妻、KEIKOさんは2011年にくも膜下出血を発症、自宅で首の激痛を訴えて倒れ、小室さんが救急車を呼び病院へ運ばれたとのこと。小室氏はKEIKOさんの現状について、「小学4年くらいの漢字ドリルが楽しかったり、電話であったりとか、対峙して話すことも間が持たなくなって」といったことを話した。
筆者が約10年にわたり在宅介護をした祖母も、クモ膜下出血の発症がきっかけで介護が必要になった。70歳を過ぎても仕事と家事をこなしていた祖母が、自力では寝がえりもできないような「別人」の状態になったことは筆者の運命を変えるくらいに衝撃的な出来事であった。
しかし、一般に介護が必要な「要介護者」になる危険性が高まるのは「75歳以上の後期高齢者」だということを考えると、39歳という若さで妻が要介護者になったと悟ったときの小室氏のショックたるや筆舌に尽くしがたいものであっただろう。
心身のストレスが「涙」となって
毎日新聞が行った調査によると介護によって肉体的に限度を感じたことが「ある」とした人は73%を占めている。同様のことを、筆者も介護をしていて経験したことがある。
筆者が自宅で介護を始めて1カ月ほど経った頃であろうか。訪問看護師の女性と話しているうちになぜか涙が止まらなくなったことがあった。慣れない介護、自宅に出入りする医療や介護のスタッフに対する気遣い、睡眠不足など、心身的な限界が、涙として表出されたのだろうと思う。小室氏だけでなく、介護を経験した人は、そういった経験をするのではないだろうか。
介護を続けるためには
介護をする家族が心身の限度を感じたとき、どうすればいいのか。そんな時は、身近にいる医療・介護・福祉に関わる専門職に打ち明けることをおすすめしたい。
介護保険制度で要介護の認定を受けている場合、介護支援専門員(ケアマネジャー)や訪問看護師、訪問介護のサービスを提供するヘルパーなどが身近な相談相手になる。また、お住まいの地域にある「地域包括支援センター」(名称が「在宅介護支援センター」の場合もある)には、ケアマネジャー、社会福祉士、看護師・保健師などの専門職が相談に応じる。
小室氏の一連の騒動では「不倫」というところに注目が集まったが、背景に「妻の介護」があったことでも波紋が広がった。自分がいざ介護が必要になったときのために、煙の立たない頼れる存在を見つけておく――。それが、今回の騒動の教訓のひとつかもしれない。